![画像: 「冬支度」の絵本|ずっと絵本と。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/11/16/b3d3ba83450c670006a7418f6ca02fd2cb86a44d.jpg)
東京は朝晩が冷え込み、冬の気配を感じます。そこで今回は、本格的な寒さを前に、冬支度をテーマに選びました。温かい飲み物を手に、ゆっくり読んでほしい3冊です。
『にぐるま ひいて』(ドナルド・ホール ぶん バーバラ・クーニー え もき かずこ やく ほるぷ出版)
![画像: 木版に描くという古いアメリカの手法が用いられた絵からは、19世紀はじめのニューイングランド地方の穏やかさ、素朴さがよく伝わってきます。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/11/16/c0f23a98df4e1fda4ffe7caf7490f42b35b3edb4.jpg)
木版に描くという古いアメリカの手法が用いられた絵からは、19世紀はじめのニューイングランド地方の穏やかさ、素朴さがよく伝わってきます。
「10月 とうさんは にぐるまに うしを つないだ.
それから うちじゅう みんなで
この いちねんかんに みんなが つくり そだてものを
なにもかも にぐるまに つみこんだ.」
この1年間にみんなが作ったのは、
家の羊から刈り取った毛、その毛で作ったショール、それから手袋。
![画像: 手袋は「ゆびなしてぶくろ」と訳されています。原文はmitten(ミトン)でしょうか。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/11/16/084eb5506f97b6df081c57dfc0ae9fbcdfcbedac.jpg)
手袋は「ゆびなしてぶくろ」と訳されています。原文はmitten(ミトン)でしょうか。
みんなで作ったものは、まだまだあります。
「はちみつと はちの す.
かえでの じゅえきを につめて につめて につめて とった
かえでざとうの きばこづめ.
それに はなしがいの がちょうから
こどもたちが あつめた はね ひとふくろ.」
丁寧に集められたグースの羽毛なんて、いまでは高級品ですね。
![画像: 荷車がいっぱいになると、おとうさんは「いってくるよ」と家族に手をふり、10日かけて街へ。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/11/16/c9e6f0070de645338f415b1c9396986c003e861e.jpg)
荷車がいっぱいになると、おとうさんは「いってくるよ」と家族に手をふり、10日かけて街へ。
ポーツマスの市場に着いたおとうさんは、荷車に積んだ荷をつぎつぎと売ります。
かえで砂糖の空き箱、りんごの空き樽、じゃがいもの空き袋、それから荷車も売って、最後に牛と、牛のくびきとたづなまで。
ポケットいっぱいのお金で、家族が必要なものと、喜ぶものを買うと、おとうさんは家族がまちわびる家に。
それから冬じゅう、家族は手仕事をして、春になったら農作業をして……。
この絵本で描かれるのは、手間と時間のかかる昔ながらの生活、自然の美しさ、人間らしさです。
便利さと引き換えに失ってしまった豊かさに気づかされ、贅沢な言い分とわかってはいても、かつての暮らしへの憧れがつのります。
『おくりもの』(豊福まきこ BL出版)
![画像: かわいいハリネズミが、毛糸だまを持っています。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/11/16/59535f79ab554a02e539110bce38fb9a61ddcc2d.jpg)
かわいいハリネズミが、毛糸だまを持っています。
春。多くの動物たちが冬眠から目覚め、挨拶しあうシーンで始まります。
ぎゅっとハグしあうウサギやリスたちを見つめながら、
ハリネズミは、さみしそう。
みんなでおやつを食べるときも、ハリネズミは離れて座ります。
ハリが友だちに刺さってしまったら、大変だからです。
![画像: 木陰でおやつタイム。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/11/16/ba8462c956316b12763bf88bf38f7de1eed40273.jpg)
木陰でおやつタイム。
ある日、自分のハリがきらい、とクマに言うハリネズミ。
すると
「ぼくも からだが おおきすぎて いやだなと
おもうことが あるよ。」
とクマ。
自分のここが嫌い、と思うことは誰しもありますよね。
でもクマは、大きいからできることもある、と言って、
ハリネズミを高い木の枝にのせてあげました。
![画像: きれいな景色ですねぇ。クリスマスツリーによさそうな木が、たくさん植わっています。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/11/16/470099a7d88b3722926918c0607e96b187e29276.jpg)
きれいな景色ですねぇ。クリスマスツリーによさそうな木が、たくさん植わっています。
クマの言葉と行動によって、自分のハリにも、何かできることはないかと考えたハリネズミが出した答えは、編み物でした。
羊に毛をもらい、マフラーを編むうちに、嫌いだと思っていたハリで何かを作り出すのは、素敵なことだと感じるように。
そして秋になると、マフラーを森の仲間たちにプレゼントしました。
これで安心して、また冬眠できます。
さぁ、森の動物たちがハリネズミにしたお礼は、本を手にとっていただくとして……。
じつはわたくし、編み物が趣味なんです。
春から編みはじめ、夏に編み上げたセーターを試しに着てみたとき、寒い冬が待ち遠しくなったんですよ。
手を動かしながら、次の季節のお楽しみをつくるって、自分の機嫌をよくする方法のひとつです。
今度はハリネズミを見習って、友人のために何か編もうと思っています。
自分のためより人のためのほうが、喜びも増えそうな気がします。
『フレデリック ちょっと かわった のねずみの はなし』(レオ=レオニ 訳 谷川俊太郎 好学社)
![画像: フレデリックの、この眠たそうな目が、後ほどきらーんと輝きます。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/11/16/6c336b721ca10636a0c3eafbd20bc90ef346e94b.jpg)
フレデリックの、この眠たそうな目が、後ほどきらーんと輝きます。
牧場にそって作られた、古い石垣。
おしゃべりな野ネズミたちの家は、その石垣の中です。
納屋にもサイロにも近くて、いい住処だったのに、
お百姓が引っ越してしまいました。
納屋は傾き、サイロは空っぽ。そのうえ、冬がもうすぐやってきます。
野ネズミたちは、大忙しで、木の実や小麦や藁を、集めています。
![画像: フレデリックだけは別。働くみんなと違う方向を向いて、ぼんやりしているように見えます。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/11/16/d04080a95fc4a9d011c57095206e29b3f01900d0.jpg)
フレデリックだけは別。働くみんなと違う方向を向いて、ぼんやりしているように見えます。
「フレデリック, どうして きみは はたらかないの?」
ストレートな仲間たちの問いかけに、
「こう みえたって, はたらいてるよ。」と フレデリック。
半分寝ているみたいなフレデリックは、寒くて暗くて灰色の冬の日のために、
おひさまの光を集め、色を集めていました。
それから違うある日には、長い冬に備え、話の種にするために、
言葉を集めます。
![画像: 寒くて暗くて灰色の冬がやってきました。](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/11/16/6dc8950dde7cf7009001cacfeb880f40a5e38dd2.jpg)
寒くて暗くて灰色の冬がやってきました。
雪が降り出し、隠れ家にこもった野ネズミたち。
最初はよかったんです。
食べ物もふんだんにあるし、馬鹿話をして、ぬくぬく。
けれど、どんどん木の実はなくなり、暖かい藁もなくなって……。
そんなときでした。
「めを つむって ごらん。」
フレデリックは言いました。
「きみたちに おひさまを あげよう。
ほら かんじるだろ, もえるような
きんいろの ひかり……」
野ネズミたちは、魔法にかかったように、だんだん暖かくなってきました。
そのあとも続くフレデリックの話に、拍手喝采。
フレデリックの物語は、芸術というものの本質を表現しているように思います。
お腹は膨れないし、家が片付くわけでもない。
でも、本当に厳しく辛いときに、心の支えとなるのです。
不要不急、と後回しにされがちだけれど、自分にとっては生きていくために必要だったと気づいたこと、今年はたくさんありましたよね。
これからも損なわれないように、できることをひとつずつ、と改めて思ったのでした。
絵本の最後の1行、日本語版は英語版からの翻訳ですが、イタリア語版ではレオ=レオニ自身が改稿しているそう。
現在、板橋区立美術館で開催中(~2021年1月11日)の「だれも知らないレオ・レオーニ展」で改稿内容を見ることができますので、お近くの方は、ぜひ。
![画像: 『フレデリック ちょっと かわった のねずみの はなし』(レオ=レオニ 訳 谷川俊太郎 好学社)](https://d1uzk9o9cg136f.cloudfront.net/f/16783328/rc/2020/11/16/b9a3319e1bce19c2e65ac873f20ef4cc5e578777.jpg)
長谷川未緒(はせがわ・みお)
東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
<撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>