東京は朝晩が冷え込み、冬の気配を感じます。そこで今回は、本格的な寒さを前に、冬支度をテーマに選びました。温かい飲み物を手に、ゆっくり読んでほしい3冊です。
『にぐるま ひいて』(ドナルド・ホール ぶん バーバラ・クーニー え もき かずこ やく ほるぷ出版)
「10月 とうさんは にぐるまに うしを つないだ.
それから うちじゅう みんなで
この いちねんかんに みんなが つくり そだてものを
なにもかも にぐるまに つみこんだ.」
この1年間にみんなが作ったのは、
家の羊から刈り取った毛、その毛で作ったショール、それから手袋。
みんなで作ったものは、まだまだあります。
「はちみつと はちの す.
かえでの じゅえきを につめて につめて につめて とった
かえでざとうの きばこづめ.
それに はなしがいの がちょうから
こどもたちが あつめた はね ひとふくろ.」
丁寧に集められたグースの羽毛なんて、いまでは高級品ですね。
ポーツマスの市場に着いたおとうさんは、荷車に積んだ荷をつぎつぎと売ります。
かえで砂糖の空き箱、りんごの空き樽、じゃがいもの空き袋、それから荷車も売って、最後に牛と、牛のくびきとたづなまで。
ポケットいっぱいのお金で、家族が必要なものと、喜ぶものを買うと、おとうさんは家族がまちわびる家に。
それから冬じゅう、家族は手仕事をして、春になったら農作業をして……。
この絵本で描かれるのは、手間と時間のかかる昔ながらの生活、自然の美しさ、人間らしさです。
便利さと引き換えに失ってしまった豊かさに気づかされ、贅沢な言い分とわかってはいても、かつての暮らしへの憧れがつのります。
『おくりもの』(豊福まきこ BL出版)
春。多くの動物たちが冬眠から目覚め、挨拶しあうシーンで始まります。
ぎゅっとハグしあうウサギやリスたちを見つめながら、
ハリネズミは、さみしそう。
みんなでおやつを食べるときも、ハリネズミは離れて座ります。
ハリが友だちに刺さってしまったら、大変だからです。
ある日、自分のハリがきらい、とクマに言うハリネズミ。
すると
「ぼくも からだが おおきすぎて いやだなと
おもうことが あるよ。」
とクマ。
自分のここが嫌い、と思うことは誰しもありますよね。
でもクマは、大きいからできることもある、と言って、
ハリネズミを高い木の枝にのせてあげました。
クマの言葉と行動によって、自分のハリにも、何かできることはないかと考えたハリネズミが出した答えは、編み物でした。
羊に毛をもらい、マフラーを編むうちに、嫌いだと思っていたハリで何かを作り出すのは、素敵なことだと感じるように。
そして秋になると、マフラーを森の仲間たちにプレゼントしました。
これで安心して、また冬眠できます。
さぁ、森の動物たちがハリネズミにしたお礼は、本を手にとっていただくとして……。
じつはわたくし、編み物が趣味なんです。
春から編みはじめ、夏に編み上げたセーターを試しに着てみたとき、寒い冬が待ち遠しくなったんですよ。
手を動かしながら、次の季節のお楽しみをつくるって、自分の機嫌をよくする方法のひとつです。
今度はハリネズミを見習って、友人のために何か編もうと思っています。
自分のためより人のためのほうが、喜びも増えそうな気がします。
『フレデリック ちょっと かわった のねずみの はなし』(レオ=レオニ 訳 谷川俊太郎 好学社)
牧場にそって作られた、古い石垣。
おしゃべりな野ネズミたちの家は、その石垣の中です。
納屋にもサイロにも近くて、いい住処だったのに、
お百姓が引っ越してしまいました。
納屋は傾き、サイロは空っぽ。そのうえ、冬がもうすぐやってきます。
野ネズミたちは、大忙しで、木の実や小麦や藁を、集めています。
「フレデリック, どうして きみは はたらかないの?」
ストレートな仲間たちの問いかけに、
「こう みえたって, はたらいてるよ。」と フレデリック。
半分寝ているみたいなフレデリックは、寒くて暗くて灰色の冬の日のために、
おひさまの光を集め、色を集めていました。
それから違うある日には、長い冬に備え、話の種にするために、
言葉を集めます。
雪が降り出し、隠れ家にこもった野ネズミたち。
最初はよかったんです。
食べ物もふんだんにあるし、馬鹿話をして、ぬくぬく。
けれど、どんどん木の実はなくなり、暖かい藁もなくなって……。
そんなときでした。
「めを つむって ごらん。」
フレデリックは言いました。
「きみたちに おひさまを あげよう。
ほら かんじるだろ, もえるような
きんいろの ひかり……」
野ネズミたちは、魔法にかかったように、だんだん暖かくなってきました。
そのあとも続くフレデリックの話に、拍手喝采。
フレデリックの物語は、芸術というものの本質を表現しているように思います。
お腹は膨れないし、家が片付くわけでもない。
でも、本当に厳しく辛いときに、心の支えとなるのです。
不要不急、と後回しにされがちだけれど、自分にとっては生きていくために必要だったと気づいたこと、今年はたくさんありましたよね。
これからも損なわれないように、できることをひとつずつ、と改めて思ったのでした。
絵本の最後の1行、日本語版は英語版からの翻訳ですが、イタリア語版ではレオ=レオニ自身が改稿しているそう。
現在、板橋区立美術館で開催中(~2021年1月11日)の「だれも知らないレオ・レオーニ展」で改稿内容を見ることができますので、お近くの方は、ぜひ。
長谷川未緒(はせがわ・みお)
東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
<撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>