• 絵本好きの編集者・長谷川未緒さんが、大人も子どもも楽しめる、季節に合わせた絵本を3冊セレクト。今回は、おやつの絵本を紹介します。
    画像: 「おやつ」の絵本|ずっと絵本と。

    寒くなってくると、お楽しみはおやつ。

    夏も楽しんではいるものの、秋冬は火を使うのが億劫じゃなくなるから、おやつ作りにも身が入ります。

    じっくり煮込んだリンゴジャムをパイシートで包んだら、オーブンにぽん。焼きたてのアップルパイにバニラアイスをのっけて、お気に入りの紅茶を淹れるのが、私の秋冬の定番おやつです。

    みなさんのいつものおやつは何ですか。

    今回は、おやつが食べたくなる絵本を3冊選びました。

    『おちゃのじかんにきたとら』(作 ジュディス・カー 訳 晴海耕平 童話館出版)

    画像: おすまししたトラと、リラックスした女の子。どんな話をしているのかな、と想像が膨らみます。

    おすまししたトラと、リラックスした女の子。どんな話をしているのかな、と想像が膨らみます。

    ある日、ソフィーがおかあさんと台所でお茶の支度をしていたら、玄関のベルが鳴りました。

    誰だろう、牛乳屋さんでもないし、雑貨屋さんでもないし。

    ドアを開けてみると、そこにいたのは、トラ!

    大きくて、毛むくじゃらで、しま模様をしています。

    「ごめんください。ぼく とても おなかが すいているんです。

    おちゃのじかんに、ごいっしょさせて いただけませんか?」

    こんなふうに丁寧に頼まれたら、断れませんね。

    どうぞ、と勧めると、トラはテーブルにつきました。

    このトラ、遠慮がないんです。サンドイッチにパン、ビスケット、ケーキ、ミルクポットのミルクもティーポットのお茶も、全部、平らげてしまいました。

    ソフィーはずっと、まるで飼い猫でもかわいがるように、トラに寄り添い、撫でたり、しっぽにからみついたりしています。

    トラは、家にある食べられるもの全部を平らげると、

    「すてきな おちゃのじかんを ありがとう。ぼくは、そろそろ おいとまします。」

    と言って、帰って行きました。

    豪快な食べっぷりと、この礼儀正しい態度のギャップが愉快。

    帰宅したおとうさんは、食べるものが何にもないと知ると、

    「いいかんがえがあるよ」と言って、おかあさんとソフィーをあるところへ連れて行きます。

    これがほんとうにいい考えなので、ぜひ絵本をお読みいただくとして……。

    ティータイムのテーブルセットや、牛乳屋さんに雑貨屋さん、ソフィーとおかあさんの洋服、かわいい買い物かごなど、イギリスの古き良き時代の様子が垣間見えて、眺めるだけでも楽しい絵本ですが、やはりトラが我が家にやってきたら、と想像するのが楽しい。

    できればこのおかあさんとソフィーのように、寛大におもてなしできる人になりたいですね。

    作者のジュディス・カーは、昨年95歳で亡くなりました。

    少女時代、ナチスの迫害から逃れて、故郷ドイツを出国しイギリスに。

    そうした過酷な過去を描いた自伝的作品「ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ」を原作にした映画「ヒトラーに盗られたうさぎ」が公開中 です。

    『おたすけこびと』(なかがわ ちひろ文 コヨセ•ジュンジ絵 徳間書店)

    画像: 小人たちの仕事ぶりに加えて、働く車の魅力も全開。

    小人たちの仕事ぶりに加えて、働く車の魅力も全開。

    「はい、しょうちしました」

    「では、よろしくね」

    こんなやりとりで、この絵本は始まります。

    承知したのは、小人。

    お願いしたのは、おかあさんです。

    外では、おとうさんと子どもが車で待っているところを見ると、家族みんなで、これからお出かけするのでしょう。

    出かけているあいだにしておいてほしいことを、小人に頼んだことがわかります。

    画像: 働く車の精巧さといったら!

    働く車の精巧さといったら!

    「さあ、しごとだ!」

    と小人たちが働く車とともに、やってきたのはキッチン。

    「たまごに バター、こむぎこ、さとう、ふくらしこ。」

    小人は小さいですから、卵も自分たちでは割れません。

    そこで活躍するのが、働く車です。

    ひとつひとつの作業を、どんなふうにこなしていくのか、何度見ても、その工夫に感心してしまいます。

    画像: 小人たち、みんな生き生きしています。個性があって、自分に似ている働きぶりの小人を探すのも楽しい。

    小人たち、みんな生き生きしています。個性があって、自分に似ている働きぶりの小人を探すのも楽しい。

    スポンジケーキの生地を作って、型に流して、オーブンに入れて。

    それからクリームを塗って、いちごを飾ったら……。

    撤収した小人たちと入れ替えに、帰ってきたおかあさんたち。

    そしておかあさん、

    「おまちどおさま」

    小人が作ってくれたケーキを運んできました。まるで自分が作ったように、すまし顔で運んでくるおかあさん、素敵です。

    忙しくて、「小人さん、助けて~」と泣きつきたくなること、ありますよね。

    現実には、おたすけこびとはいないけれど、おたすけびとは見つけたい。探せば、きっといるはずです。

    そして毎日をご機嫌で過ごせたらといいな、と思います。

    『バムとケロのにちようび』(島田ゆか作/絵 文溪堂)

    画像: ご存知の方も多いであろう、バムとケロシリーズ第1作目は、雨の日曜日から始まりました。

    ご存知の方も多いであろう、バムとケロシリーズ第1作目は、雨の日曜日から始まりました。

    「こんな あめのにちようびは

    サッカーも すなあそびも できない」

    バムが窓辺でうなだれるいっぽう、ケロは傘をさして、水たまりにちゃぽん。

    最初の見開きから、ふたりの個性の違いがはっきり表れています。

    仕方ないから、とバムが始めたのは、

    ケロちゃんが汚してぐちゃぐちゃになった、家の掃除です。

    画像: 絵本の中でも、部屋がきれいに片付いていくのを見るのは、気持ちがいいもの。そして部屋のすみずみまでセンスがいいので、インテリア好きさん、必見です。

    絵本の中でも、部屋がきれいに片付いていくのを見るのは、気持ちがいいもの。そして部屋のすみずみまでセンスがいいので、インテリア好きさん、必見です。

    せっかくきれいにしたのに、そこへケロちゃんがどろんこのまま帰ってきて、また汚れてしまいました。

    片付けても片付けても、また汚すケロちゃんは、まるで子どものよう?

    どろどろのケロちゃんも、耳の中までゴシゴシ洗ってきれいにしたら、

    さぁ、ようやくおやつ作りが始まりました。

    画像: 卵と粉の量から察するに、よほどたくさん作るようです。

    卵と粉の量から察するに、よほどたくさん作るようです。

    ぽこんぽこん型を抜き、ぽいぽいっと揚げて、山盛りドーナツのできあがり。

    おやつが用意できたら、つぎは読む本を選びます。

    本を探しに屋根裏部屋に行くと……。

    ぎゃ~! 虫やねずみがうじゃうじゃ!

    本を取りたい。でも、虫やねずみは怖い。

    「そうだ!! いいかんがえがある」

    ふたりの思いついた、いい考え、後始末が面倒そうな気がするものの、まぁ、いいでしょう。

    なんてことない日常も、退屈な雨の日だって、仲良しさんと、おいしいおやつに本があれば、けっこう幸せですよね。

    ふだんは忘れている、自分がすでに持っているものの豊かさに気づかせてくれます。



    画像: 『バムとケロのにちようび』(島田ゆか作/絵 文溪堂)

    長谷川未緒(はせがわ・みお)
    東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。

    <撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>



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