• 絵本好きの編集者・長谷川未緒さんが、大人も子どもも楽しめる、季節に合わせた絵本を3冊セレクト。今回は、クリスマスの絵本を紹介します。
    画像: 「クリスマス」の絵本|ずっと絵本と。

    12月に入ると、街のBGMもすっかりクリスマスに。かつてサンタクロースを信じていた人が、いまでは自分がサンタクロース役ということも多そうですね。今回はクリスマスシーズンに読みたい絵本3冊のご紹介です。

    『子うさぎましろのお話』(文・佐々木たづ 絵・三好碩也 ポプラ社)

    画像: 素朴なイラストが、この物語の暖かさをよく伝えてくれます。

    素朴なイラストが、この物語の暖かさをよく伝えてくれます。

    「クリスマスが やってきて、北の国の どうぶつの 子どもたちも、それぞれ、おくりものを もらいました。」

    一番先にもらったのは、白うさぎのましろです。

    ましろはプレゼントのお菓子をペロリと食べると、もっと何か欲しくなって、サンタクロースにうそをつくことを思いつきました。

    全身に炭を塗り、黒い子うさぎに変身して、まだプレゼントをもらっていないと、サンタクロースに言いに行くことにしたのです。

    もちろん、サンタクロースはだまされませんでしたが、袋の中にたった一粒だけ残っていた種をましろにあげました。

    画像: ましろ、トナカイ、サンタクロース。それぞれの表情が、個性を表しています。

    ましろ、トナカイ、サンタクロース。それぞれの表情が、個性を表しています。

    ましろは家に帰る前に炭を落とそうとしますが、なかなか落ちません。

    サンタクロースにうそをついたから、本当に別の子うさぎになっちゃったのかも、と大泣き。

    そしてもらった種を、独り占めするのではなく、森の土の中に埋めることにしました。

    「この たね、かみさまに おかえししておこう。土のなかへ うずめて。」

    ましろが植えたこの種がですね、芽吹いて、大きくなって、まあ、えらいことになるんです。

    とっても楽しくて、クリスマスの恵みに満ちている。

    かつて、聞き分けのない子だったわたしは、大人によく言われました。

    「いい子にしてたらサンタがくるよ」

    「悪さしてるとバチが当たるよ」

    そんな交換条件みたいなこと言われると、よけいに悪いことをしたくなる天邪鬼。

    なので、ましろには、うそをついたからって、バチなんて当たらないよ、と言いたくもなるのですが、ほんとうに反省したましろの行動は、美しいな、と思うんです。

    そして、これをきっかけにぐんと成長する姿には、まぶしさすら覚えます。

    『ちいさなもみのき』(マーガレット・ワイズ・ブラウン さく バーバラ・クーニー え かみじょう ゆみこ やく 福音館書店)

    画像: クリスマスキャロルを聴きながら読みたい絵本です。

    クリスマスキャロルを聴きながら読みたい絵本です。

    森の外れに、ちいさなもみのきが立っていました。

    ちいさなもみのきは、いつも暗い森の大きなもみのきを見ては、さみしく思っていました。

    「たったひとりで いるよりも、だれかと いっしょにいたい」

    ある日、男の人がやってきました。ちいさなもみのきを見て、

    「きれいな みどりの ちいさなもみのき わたしのむすこに ぴったりだ」と言うと、根っこから掘り出して、麻ぶくろに。

    画像: 欧米のクリスマスシーズンでよく見る光景ですね。

    欧米のクリスマスシーズンでよく見る光景ですね。

    ちいさなもみのきが運ばれたのは、男の子のいる家。男の子は足が悪くて、外へ出かけられないのです。

    この家で、クリスマスツリーとして過ごすちいさなもみのき。

    緑に茂り、きれいに飾ってもらって、いい香りを放ちます。

    画像: 本物のもみのきでできたクリスマスツリーは、さぞかしいい香りがすることでしょう。

    本物のもみのきでできたクリスマスツリーは、さぞかしいい香りがすることでしょう。

    根っこごと家にやってきたので、春にはまた森に帰りました。

    夏が過ぎ、秋がやってきて、また冬になり、男の人を楽しみに待つちいさなもみのき。

    ところがいつまで待っても、来てくれません。

    「クリスマスなしでは、このよは、ただ おおきく、つめたく、からっぽにみえました。」

    とかなしんでいると、遠くからクリスマスキャロルが聞こえてきて、去年、ともに過ごした男の子の姿が……。

    ひとりはさみしい、みんなといっしょにいたい、誰かの役に立ちたい。

    ふだんは気づかないようにしているそんな想いが、クリスマスには押し寄せてきて、なんだかとまどいます。

    だからなおさら、男の子がやってきたときの、ちいさなもみのきのうれしさを想像すると、泣きそうになるのです。

    『サンタおじさんのいねむり』(ルイーズ=ファチオ さく ぶん・まえだ みえこ え・かきもと こうぞう 偕成社)

    画像: サンタさんでも、サンタクロースでもなく、サンタおじさんという呼び名に、親近感が湧きます。

    サンタさんでも、サンタクロースでもなく、サンタおじさんという呼び名に、親近感が湧きます。

    クリスマスイブの夜、サンタおじさんは、プレゼントを配りに出かけましたが、月が空に登るころ、眠くなってしまいます。

    ここのところ、プレゼントを間に合わせるために、眠る暇もないほど、働いていたのです。

    辺りを見回すと、ちょうどいい木の洞がありました。おくさんが持たせてくれた、サンドイッチとコーヒーでひとやすみ。

    画像: この場所、この姿勢。いねむりするのに、ちょうどいい。

    この場所、この姿勢。いねむりするのに、ちょうどいい。

    疲れ、睡魔、満腹。

    サンタおじさん、すぐに眠ってしまいました。

    そして夢の中で、プレゼント配り。ありますよね、こういうこと。

    サンタおじさんを見かけた動物たちは、起こしたほうがいいよね、でも気持ち良さそうだから、このまま寝かせてあげようか、とひそひそ。でも、それじゃあ、プレゼントが間に合わないし。

    そして、森の動物たち、いいことを思いつきました。

    画像: ちゃんと煙突から、配ります。

    ちゃんと煙突から、配ります。

    サンタおじさんの代わりにプレゼントを配ってあげるのです。

    サンタおじさんへの、森の動物からのクリスマスプレゼント。

    わたしも、いつもがんばっているあのひとに、お世話になったあのひとにも、プレゼントを贈ろう。

    お疲れのみなさんにも、よいクリスマスプレゼントが届きますように。



    画像: 『サンタおじさんのいねむり』(ルイーズ=ファチオ さく ぶん・まえだ みえこ え・かきもと こうぞう 偕成社)

    長谷川未緒(はせがわ・みお)
    東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。

    <撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>



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