• 絵本好きの編集者・長谷川未緒さんが、大人も子どもも楽しめる、季節に合わせた絵本を3冊セレクト。今回は、雪の絵本を紹介します。
    画像: 雪の絵本|ずっと絵本と。

    新しい年がはじまりました。今年も新旧のおすすめ絵本をご紹介いたしますね。今年最初のテーマは「雪」です。降りすぎるのは困りものですが、たまになら大人だってわくわくするものです。

    『ゆきのうえ ゆきのした』
    (ケイト・メスナー文 クリストファー・サイラス・ニール絵 小梨直訳 福音館書店)

    画像: 真っ白な雪に覆われた地面の下には、どんな世界があるのでしょう。

    真っ白な雪に覆われた地面の下には、どんな世界があるのでしょう。

    雪が降り積もった森の中を、女の子はおとうさんと一緒にスキーですべっています。

    ちらりと見えた赤リスが、ふわふわの雪の隙間に消えていきました。

    「どこへ いったの?」と聞くと、

    「ゆきのしただよ」とおとうさん。

    雪の下には、雪の上とはまったく別の、秘密の世界があるのです。

    画像: 雪と見分けがつかないウサギがいますよ。

    雪と見分けがつかないウサギがいますよ。

    雪の上では、ワシミミズクが獲物に目を光らせ、雪の下では、トガリネズミが氷の柱のあいだをするり。

    雪の上には、シカがぐっすり眠った跡が、雪の下では、シロアシネズミがうとうと。

    雪の上と雪の下のようすが、交互に描かれます。

    積雪下空間と呼ばれる雪の下は、雪が断熱材のような働きをするため、外気温が下がっても、いつも0℃前後に保たれているそう。

    画像: 冬の動物たちのいきいきとした姿を観察している気持ちに。

    冬の動物たちのいきいきとした姿を観察している気持ちに。

    雪の下の世界といえば、クマの冬眠くらいしか知りませんでしたが、たくさんの生き物たちが、冬越ししているのですね。

    今度、雪の上を歩くときには、しんとした静けさと対照的に、雪の下で活発に繰り広げられている世界を想像したい。

    巻末にあるさまざまな動物たちの生態の紹介も、想像力にひと役買ってくれそうです。

    『雪の写真家 ベントレー』
    (ジャクリーン・ブリッグズ・マーティン作 メアリー・アゼアリアン絵 千葉茂樹訳 BL出版)

    画像: ぬくもりのある版画で描かれています。

    ぬくもりのある版画で描かれています。

    本書は、ウィルソン・ベントレーという、雪のアマチュア写真家の伝記絵本です。

    ウィリー(ウィルソン)が生まれたのは、1865年。

    「畑仕事には牛をつかい、夜のやみをてらすのは、ランプの明りだけだったころのことです」

    ウィリーは子どものころから雪が大好きでした。

    ほかの子どもたちが雪遊びをしているときでも、おかあさんからもらった顕微鏡で雪の結晶を観察し、ほかの何よりも雪が美しいと思っていました。

    顕微鏡で見る雪の結晶は、ふたつと同じものがない、まるで芸術品のようです。ほかのひとにも見てもらいたいと思いスケッチするのですが、雪はすぐに溶けてしまいます。

    16歳になったウィリーは、顕微鏡つきのカメラがあることを知ります。ウィリーの実家は酪農家で、けっして豊かな暮らしではありませんでしたが、両親は

    「雪なんかにむちゅうになって、ウィリーにはこまったものだ」

    と言いつつ、ためていたお金でカメラを買ってあげました。

    それは10頭の乳牛よりも高い買い物でした。

    ウィリーはその後、雪の結晶の写真集を発表したり、講演をしたりと、50年に渡り農夫のかたわら雪の研究を続け、第一人者になります。

    もしもあのとき、両親が顕微鏡つきのカメラを買ってあげていなかったら……。

    子どもが夢中になるものって、大人からするとくだらなく思えたりして、「やめなさい」と言いがちではありませんか。

    でもウィリーの両親は、応援したんですよね。そして大勢のひとびとが、それまで見たこともなかった、雪の結晶という自然の美しさに触れることができ、大切なものを受け取ることができました。

    大人が子どもにできることは少ないけれど大きいものだと改めて考えましたし、なにより、子どものころから夢中になれるものを見つけて、人生を捧げることができたウィリーは、最高に幸せだったろうな、と思います。

    『ゆきのひ』
    (エズラ=ジャック=キーツぶん・え きじま はじめやく 偕成社)

    画像: コラージュの手法を使って描かれた本書は、色彩感覚の素晴らしさも魅力。

    コラージュの手法を使って描かれた本書は、色彩感覚の素晴らしさも魅力。

    ピーターがある朝目を覚ますと、窓の外は真っ白。夜中、雪が降っていたのです。

    朝ごはんを食べると、ピーターは赤いマントを着て、外に飛び出しました。

    画像: 姿勢や広げた手の角度から、ピーターが雪に圧倒されている様子がよく伝わってきます。

    姿勢や広げた手の角度から、ピーターが雪に圧倒されている様子がよく伝わってきます。

    ピーターは、つまさきを外へ向けたり、中へ向けたりしながら、歩きます。それから木に降り積もった雪を棒でたたいて落としたり、雪だるまを作ったり。

    そしてかたい雪団子を作ると、あした遊ぼうとコートのポケットにしまいました。溶ける、という発想がピーターにはまだないんですよね。

    コートはびしょびしょになってしまいますが、それよりも雪団子が溶けてなくなってしまったことのほうが悲しいという子どもならではの感性に、はっとさせられます。

    画像: 天使を作る遊びは、雪の日の定番ですね。

    天使を作る遊びは、雪の日の定番ですね。

    奥付を見ると、本書の刊行は1962年です。

    黒人の男の子が主人公になったはじめての絵本と言われています。

    キング牧師の「I have a dream」の演説でも知られる人種差別撤廃を求めるデモ、ワシントン大行進が行われたのは63年のことですから、この絵本の誕生がいかにチャレンジングだったか。

    とはいえ、この絵本が50年以上に渡り、大勢の読者を惹きつけてやまないのは、作品の良さがあってこそでしょう。

    白い雪、真っ赤なコート、男の子の肌色という色彩の美しさは鮮烈ですし、ピーターの好奇心は普遍的で愛らしく、何度でも開きたくなる魅力があります。



    画像: 『ゆきのひ』 (エズラ=ジャック=キーツぶん・え きじま はじめやく 偕成社)

    長谷川未緒(はせがわ・みお)
    東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。

    <撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>



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