日々の暮らしの中にある季節の移ろいを
白井明大さんの詩・文と當麻妙さんの写真で綴ります。
ねぇ春
たった一言の本心を
なぜ伝えるのが
こんなにもむつかしいのだろう
季節に
早咲きも
戻りもあるように
ひとの心というものも
いつだって順風
とはいかない
素直になれたそのときに
相手もそうとはかぎらない
しぼり出したつぶやきが
平凡なあいさつと思われることだって
ねぇ春
いつになったら
きみは来るのかな
明日かな
来月かな
いっぺん来てもまた帰っちゃうのかな
ここは寒いよ
じっとしてるしかない
だけど
ねぇ春
わたしは待ってるんだよ
きみが来てくれたら
どんなにかうれしいだろうって
思う気持ちをどうしたら
伝えられるだろう
たった一言の本心が
単純であればあるほど
なぜこんなにも
伝えるのがむつかしくなるのだろう
ねぇ春
季節の言葉:春隣り
二十四節気もひとめぐりして、大寒となりました。
一年でいちばん寒い季節の次には、もう立春。春のはじまりの季節が訪れる、というのもちょっとふしぎな感じがしますが、クライマックスからプロローグへと矢継ぎ早に変わるなんて、旧暦もドラマチックに思えます。
七十二候*のラストを飾るのは、一月三十日から二月二日までの「鶏始めて乳す(にわとりはじめてにゅうす)」。昔は鶏卵にも旬があり、春から夏にかけてのことだったよう。
大寒卵は、ぎゅっと栄養が詰まっていて健康によいのだとか。
皆さまどうぞお健やかに。立春からはじまる新しい一年が素晴らしい年でありますように。
*七十二候……旧暦で一年を七十二もの、こまやかな季節に分けた暦。日付は2021年のものです。
白井明大(しらい・あけひろ)
詩人。沖縄在住。詩集に『生きようと生きるほうへ』(思潮社、丸山豊賞)ほか。新刊に、詩画集『いまきみがきみであることを』(画・カシワイ、書肆侃侃房)。『日本の七十二候を楽しむ 増補新装版』(絵・有賀一広、角川書店)など著書多数。近刊に『三十三センチの時間』(Le phare poétique)。
當麻 妙(とうま・たえ)
写真家。写真誌編集プロダクションを経て、2003年よりフリー。雑誌や書籍を中心に活動。現在、沖縄を拠点に風景や芸能などを撮影。写真集『Tamagawa』。共著『島の風は、季節の名前。 旧暦と暮らす沖縄』(写真を担当、講談社)。現在、公式ホームページ Tae Toma Photographyにてオンライン写真展「KUDAKA」開催。
http://tomatae.com/