親が心配すればするほどに、子どものやる気は失われる
こんなご時世だからこそ、息子を持つ母親ならば、誰しもその将来が不安に感じるもの。人生で手痛い失敗をしてほしくないがゆえに、なんとか息子自身の興味や関心が向くことを見つけて、やる気を出してほしい……と思うのが、親心でしょう。しかし、これに対して、「実は親が子どもの失敗を心配すればするほど、逆効果だ」と語るのは、脳科学者の黒川伊保子さんです。
「人工知能の学習でも、脳は失敗をさせた方が、新しい道を拓く力を得られます。要領よく詰め込めば、さっさと偏差値を挙げて責務にまい進するエリートをつくれますが、失敗を受け入れれば、じっくり時間をかけて、息子を開拓者・開発者に育てることができるのです。大切なのは子どもの失敗を恐れないことであって、お母さんは失敗を歓迎するべきです。失敗しないようにと、子どもを過度に追い詰める必要はありません」
教育熱心な親ほど、「あなたは、あのときも、このときも、これで失敗した。次も失敗するかもしれない。気をつけなさい」と口を出してしまいがち。でも、これは脳の成長を妨げるばかりではなく、子どものやる気を低下させる要因になるのだとか。
「親の心配に共鳴することで、子どもの脳はノルアドレナリンというホルモンを分泌しやすくなる傾向に。このホルモンは、脳の信号を減退させるホルモンで、いわば脳のブレーキ役のようなもの。過去の失敗を蒸し返されると、やる気の信号が減退してしまうのです。
本番前に失敗についてぐずぐずいわれた人は、失敗する可能性が上がるだけではなく、やる気もキープできません。親が失敗を心配しすぎるがゆえに、『息子のやる気がいまいち』と責めるのは、自分でブレーキを踏んでおいて、『スピードが出ない』と毒づいているドライバーのようなものです」
息子をやる気にさせる、魔法のひとこと
では、実際に子どもが失敗したとき、どんな言葉をかけてあげればよいのでしょうか。そんなときに黒川先生が提案するのは、「私も、〇〇してあげればよかった」というひとことです。
「模擬試験の前日に、『寝る前にちゃんと用意して。必要なもの、確認してよ』と母親がいってるのに、朝になって『たいへん、スリッパいるんだって!』といって、母親を慌てさせるような息子はたくさんいます。
ここで『だからいったでしょ!』と怒鳴りつけたくなりますが、ここはあえて『ママも一緒にプリントを見てあげればよかったね』といいつつ、スリッパを探しに走りましょう。この言葉で、失敗を息子と共有することになるので、この瞬間、母は『胸の痛みをわかちあってくれた人』、すなわち味方になり、反抗心が薄れていきます」
また、息子をやる気にさせるには、「失敗にいらだたず、成功には有頂天にはならず、胸の痛みを分かちあげる母親になることが大切」だと黒川先生は説きます。仮に失敗したとしても、悪かった部分をあげつらうのではなく、ほめるところを見つけ、指摘してあげることが大切なのだとか。
「失敗したとしても、『あの戦略はよかった』『あきらめないあなたを誇りに思った』とほめてあげればいいんです。稀代の天才棋士である藤井翔太さんも、『将棋を指す以上、勝敗はついてまわる。一喜一憂してもしょうがない』と語っています。この境地になれるように、子どもを育ててあげるべきだと思います」
日々の言動だけじゃなかった!息子をやる気にさせる食生活とは
また、息子のモチベーションを上げるために大切なのは、母親の日々の息子に対する接し方だけではありません。「根性がない」「いつもぼーっとしている」「なんだかやる気がなく見える」などの傾向を持つ子どもの場合、実は栄養の取り方が原因となっている可能性もあるのだとか。
「やる気、好奇心、集中力、思考力、創造力、記憶力。これらはすべて脳内では電気信号(神経信号)にしかすぎません。その電気エネルギーの源は『糖』です。糖は血糖として、消化器官から脳に届けられます。また、神経信号は長い神経線維を通っていくのですが、途中で減衰してしまいます。
この信号減衰を防ぐために、神経線維にはミエリン鞘というコレステロールでできたカバーが付いています。さらに、神経信号は、脳内ホルモンによって制御されています。ホルモンを正常に分泌させるためには、ビタミンB群(葉酸を含む)、動物性たんぱく質由来のアミノ酸、ミネラルなどが必要になります」
つまり、子どものやる気を出させるために大切なのは、脳のエネルギーである糖を安定して摂取していること、脳内に信号をきちんと伝えるためにコレステロール値を低くしすぎないこと、脳内ホルモン分泌のためにビタミンB群や動物性たんぱく質由来のアミノ酸や葉酸などをしっかり摂取できているという、3つの条件が重要になってくるのです。
「ここで挙げたような栄養素を取るには、コレステロールや動物性アミノ酸やビタミンB群を豊富に含んだ肉、さらに葉酸を足すためにたっぷりの野菜がおすすめ。また、コレステロール、動物性アミノ酸、ビタミンB群、葉酸すべてが含まれる卵は、身長がぐんぐん伸びる中高生のころには、一日3〜5個食べさせたいです。
肉や卵が苦手、食べられなくて、とうふなどの植物性たんぱく質が主流だというご家庭では、かつお節やあご(トビウオ)、煮干しなどの出汁を使ってあげましょう。これらには上質の動物性たんぱく質が含まれていて、脳科学者の中には出し汁をつくっておいて、お茶代わりに飲むという人もいるくらいです」
無気力な息子に育つ危険な「甘い朝食」。おすすめは卵かけご飯
良質なたんぱく質を積極的に摂取させる一方で、逆に絶対にやってはいけないのは、朝食を甘いものだけで済ますということ。
「脳の活動のすべては、化学的な電気信号で行われていますが、この脳神経信号のエネルギーは血糖です。糖が届かなければ、脳は動かない。空腹でも食後でも血糖値は、最低80はキープして欲しいところ。70を下回ると思考が停滞し、60を下回れば『だるくて、なにもかもがうんざり』します。
さらに血糖値が下がると、身体が危険だと判断して、血糖値を上げるホルモンを連打してきます。アドレナリンをはじめとする血糖値を上げるホルモンは、『気持ちをとがらせる』傾向が強く、キレやすくなります」
低血糖状態が起こる原因は、空腹時にいきなり糖質を食べることです。その結果、血糖値は急上昇し、跳ね上がった血糖値を下げようとして、インシュリンが過剰分泌され、一気に低血糖へと向かってしまいます。これを繰り返すことで起こるのが低血糖症。
「低血糖症になると、やる気も好奇心も集中力も起こす余裕がなくなります。不登校児の多くが低血糖症だと警告する栄養学の専門家もいます」
では、母親は息子のやる気を引き出すために低血糖に陥るためのを防ぐ食事面での注意点はなんでしょうか。
「まず避けたいのは、血糖値を跳ね上げる、白く柔らかいパン、スイーツ、甘い果物などを朝食のメインに食べさせることです。朝食を失敗すると、午前中の授業はほとんど身になりません。甘いだけの朝食は人生をじり貧にしてしまいます。
栄養と脳の関係は個人差がありますから、問題ないという子もいると思いますが、甘い朝食を日頃食べている子で、成績が振るわない、キレやすいという症状を伴うなら、見直してみてください。
朝食はサラダや野菜の味噌汁、玉子、ハム、焼き魚、納豆などのたんぱく質、そしてごはんかパンなど、栄養素をまんべんなく取るのが理想的です。忙しいときは、卵かけご飯がおすすめです」
こうした黒川伊保子先生が語るやる気のある息子の育て方については、『息子のトリセツ』(黒川伊保子=著 扶桑社)に詳しくつづられています。
黒川伊保子さん
脳科学・人工知能(AI)研究者。1959年、長野県生まれ。奈良女子大学理学部物理学科卒業後、コンピュータ・メーカーにてAI開発に従事。2003年より株式会社感性リサーチ代表取締役社長。語感の数値化に成功し、大塚製薬「SoyJoy」など、多くの商品名の感性分析を行う。また男女の脳の「とっさの使い方」の違いを発見し、その研究成果を元にベストセラー『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(共に講談社)、『娘のトリセツ』(小学館)を発表。他に『母脳』『英雄の書』(ポプラ社)、『恋愛脳』『成熟脳』『家族脳』(いずれも新潮文庫)などの著書がある。
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