1年でいちばん寒いこの時期。起きるのはつらいし、動くのもおっくうですが、お風呂だけは別です。あったかい湯船に浸かれば「はぁ、極楽極楽」なんてつぶやきたくなるもの。そこで今回は、「お風呂」をテーマにセレクトしました。
『おふろだいすき』
(松岡享子作 林明子絵 福音館書店)
まこちゃんは、お風呂が大好き。
いつもあひるのプッカを連れて、お風呂に入ります。
最初に湯船に浸かるのは、プッカです。
「ゆかげんはどうですか」
とまこちゃんが聞くと、
「あつくもなし、ぬるくもなし、ちょうどいいかげん。」
まこちゃんがからだを洗っていると、
「おふろのそこに、おおきなかめがいますよ。」
とプッカ。
お風呂の底から、かめがざぁーっと水をかきわけ、
出てきたではありませんか。
「うみは、そこのほうより、うえのほうがあついんだね。」
とかめ。
「ここは、うみじゃありませんよ。」
とプッカ。
「ほほう、すると、かわですか。」
とかめ。
「かわでもありません。ぼくんちのおふろです。」
とまこちゃん。
ここからまこちゃんちのお風呂場には、さまざまな生き物たちがやってきます。
まこちゃんがうっかり手を滑らせた石けんめがけて、双子のペンギンは大競争、岩かと思った茶色い物体はオットセイで、あわでぶくぶくシャボン玉を作ります。大きなシャボン玉がはじけた音に驚いて出てくるのは、かば。
こんなふうに遊ぶことができたら、お風呂が大好きになるのも、納得です。
この絵本、ただのファンタジーじゃないんです。
かばが「からだを、あらってくれないか。」とまこちゃんに頼むことで、子どもがからだの洗い方を学べるようにもなっています。
さて、からだについた泡を流してくれるのは、なんの生き物でしょう?
最後はおかあさんが湯上りタオルを広げて待っていてくれる安心感に、お風呂の良さが倍増します。
『おもちのおふろ』
(苅田澄子作 植垣歩子絵 学研プラス)
さむい さむい ひ。
おもちの もーちゃんと ちーちゃんが
おふろやさんに でかけます。
着いたのは、番台に大根が座る
『ぽかぽかのゆ』。
どんなお風呂があるのかな、と最初に開いた扉は、
しょうゆの足湯です。
ここにはたくさんのお寿司たちが、ずらりと並んで
足湯に浸かっています。
ちっとも譲ってくれないお寿司たち。
仕方なく、次のお風呂に移動すると、今度はきなこのお風呂でした。
もーちゃんと、ちーちゃん。
次に入ったのは、トースターのサウナです。
パンの先客がぎっしりつまったトースターにおもちが入ってしまったのですから、さぁ、たいへん。
想像がつきますよね!
ラストはみんなそろって、あのお風呂に入って、
「ごくらく、ごくらく」
おもちだって、やっぱり言ってしまうのですね。
食べ物が擬人化された絵本はたくさんありますが、
お風呂と組み合わさったところが斬新です。
お風呂に浸かりながら、あの食べ物だったら何風呂に入るかな?
なんて想像するのも、楽しい絵本です。
『パンダ銭湯』
(tupera tupera作 絵本館)
パンダの親子がやってきたのは、パンダ銭湯です。
おかあさんは女湯へ、おとうさんと男の子は男湯へ入ります。
一見、ふつうの銭湯のようですが、ほかと違うところがあります。
ここは、パンダ以外、入店お断りなんです。
パンダさんたち、服を脱いで……
えっ、服なんか、着ていないじゃないって?
そう、ここから、パンダの秘密が明らかにされていきます。
ページを開くたびに「えっ? えーっ??」と驚くことうけあい。
ジャイアントパンダって、ササを食べているから草食動物かと思いきや、じつはネコ目(食肉目)クマ科の動物です。
子どものころ、動物園でパンダを見るために並びながら「ほんとうは強いの? 弱いの?」と疑問に思ったことを思い出します。で、達した結論は、「弱くて人間に守られないと生きていけないから、かわいいんだ!」でした。
でもこの絵本を読むと、その結論が揺らぎます。
あれあれ、ほんとうはずる賢い?
いや、でも真の姿も、あの動物に似ていてかわいい。
えっ、真の姿? あの動物?
気になりますよね、気になるはずです。
パンダの秘密は、絵本を見てのお楽しみ。
遊び心あふれる企みに、気持ちよく童心に返ることができます。
長谷川未緒(はせがわ・みお)
東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
<撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>