香川県高松市で、手仕事のブランドを主宰するデザイナーのわたなべかおりさん。7年間のネパール暮らしがもたらした、シンプルで凜とした日々の習慣を綴ります。今回は「モノを愛おしむ暮らし編」。テーマは カシミヤ です。わたなべさんのブランドでも扱うカシミヤ製品とのつきあい方や、ショールの素敵な巻き方を教わりました。
上質なカシミヤを、使い込んで “育てる” 喜び
「軽くて温かくて、肌触りが滑らか。しかも蒸れない。初めてカシミヤセーターを着て以来、あまりの着心地のよさにすっかり手放せなくなってしまいました」
ネパールでのカシミヤとの出合いが、自身のブランドでの取扱いにつながったと語るわたなべさん。
一緒に暮らしていた家族がそのセーターをつくったカシミヤ工場を経営しており、親身にバックアップしてくれたのだそう。
それまではグラフィックデザインが専門でしたが、高校時代に服飾を学んでいたこともあり、現在はセーターやストールを始めとしたオリジナルデザインのカシミヤ商品を展開しています。
現地のみやげ屋などでは精巧な偽物も多く出まわっているため、信頼できるネパールの家族の工場との直接取引にこだわっています。
「糸の仕入れからニッティング、織り、検品まで、制作工程がすべて把握できるので、安心できるパートナーシップを築けています」
もともと、少ないモノを長く大事に使う主義のわたなべさんは、身のまわりのもののほとんどが10年選手。
初めて買ったカシミヤセーターもとことん着倒し、12年も愛用したのだそう。
「決して安くないカシミヤ製品を扱うなら、10年使えるものを届けたいという思いがあったので、お客さまにも自信を持っておすすめできる、いい実体験になりました」
カシミヤを日常着としてどんどん使ってほしいというわたなべさんは、きちんとケアをすれば10年使うことは十分可能だといいます。
「原料となるカシミヤ山羊の毛は、人間の髪の毛の10分の1ともいわれる細さ。その繊細さが軽さや滑らかな肌触りをもたらすのですが、毛玉ができやすい繊維でもあります」
毛玉を取ると生地がその分薄くなってしまうので、日頃のお手入れが肝心。
1日着て表面が毛羽立ったら、毛玉取りブラシで撫でてあげるだけで繊維が解きほぐされ、毛玉予防になります。
擦れも毛玉の原因になるため、カシミヤの服の上に1枚上着を羽織ると、バッグなどの摩擦から守ることができるそう。
ちょっとした日々の気遣いが、長持ちのコツなんですね。
気になるのが、洗濯のしかた。
なんと、洗うのはシーズンオフの衣替えの時くらいでOK、しかも手洗いではなく洗濯機洗いをしているというわたなべさん。
繊細な繊維なのに、大丈夫なんでしょうか?
「むしろ、洗いすぎないほうが長持ちするんです。なるべく水通ししないほうが、毛も油分も抜けにくくなりますから」
できるだけカシミヤを洗わずにすむよう、1日着たものは干して湿気をとばしてから仕舞い、セーターの内側にはインナーを着用するといった配慮をしているそう。
洗う時はネットに入れ、デリケート衣類用の洗剤を使い、洗濯機のデリケート衣類モードにすれば大丈夫。
この方法で縮んだことは1回もないとのこと、ただし 乾燥機は縮むので厳禁 です。
「長い間使っていくうちに、繊維が少しずつ立ってきて、生地がふわふわとボリューミーになっていくんです。空気の層が増えるからか、新品の時よりあったかく感じます」
新旧のストールを並べてもらうと、一目瞭然の違い! 大切に使いながら “育てる” 喜びが得られるのが、カシミヤの最大の魅力かもしれません。
簡単でサマになる、ストールの巻き方いろいろ
最後に、ぜひ聞きたかったのが、おしゃれなストールの巻き方。
大判でボリュームのあるストールは便利な反面、巻き方がワンパターンになりがちなのが気になっていました。
わたなべさんに教わった、簡単でサマになる巻き方を3つご紹介します。
1 ドレープを魅せる
「ネパールやインドの女性は、布の使い方がすごく上手。キレイに見せる方法を熟知しているんです。例えば、ドレープを美しく“魅せる”ということ」
普通に二つ折りにしてから巻くのではなく、スカーフの角を持ってから巻くと、布に流れができて巻いた時に美しいドレープができるというアドバイスに納得!
言葉で説明すると難しいので、ぜひ動画でご覧下さい。
2 ピンを活用する
お次は、さらに簡単な巻き方。左右の片方が長めになるようストールを羽織り、長いほうの胸の辺りを反対側の肩の近くまで持ち上げて、大きめのピンで止めるだけ。
幅が広い場合は、二つ折りにしてから羽織っても。
「しっかり固定させたいときは、ストールの下に着ている服までピンを通すと安定して動かないですよ」
ストールのボリュームを活かした、とてもエレガントな巻き方です。
3 2枚重ねする
もうひとつ、ストールを2枚重ねするという巻き方もお洒落です。
これは、わたなべさんが急な結婚式に招かれた際、コート代わりにと思い付いた方法だそう。
「黒とベージュのストールを重ねて、黒を表側にして羽織り、端を外側に折り返すだけ。内側のベージュを襟のように見せることができて、我ながらナイスアイデアだったと思います」
着物を思わせる上品さもあり、フォーマルな場にもぴったりですね。黒とベージュ以外にも、好みの色合わせを楽しめそうです。
多彩なアレンジが楽しめて、日常使いしながら育てる喜びもある。カシミヤをぐんと身近に感じさせてくれたわたなべさんに感謝です。
〈写真・文/高瀬由紀子〉
わたなべ かおり
ai, 主宰・デザイナー。東京でフリーグラフィックデザイナーとして活動中に、世界を一人旅してまわる。7年間のヒマラヤ暮らしを経て、2010年に帰国。東京を拠点に活動後、2014年に香川・仏生山へ移住。ネパールの作り手との商品製作を続けながら、極楽仏生山暮らしを満喫中。
http://aistore.jp