相談者は「O-kitchen」主宰の藤吉陽子さん、教える人は、整理収納アドバイザーの「ヒバリ舎」内山ミエさんです。
(『天然生活』2018年1月号掲載)
相談者
藤吉陽子(ふじよし・ようこ)さん
シンプルなお菓子の企画・製造・販売を手がける「O-kitchen」主宰。夫と4歳の娘、両親と都内の一軒家で暮らす。著書に『ないしょの夜おやつ 今日も一日、おつかれさまでした。』(ナツメ社)。
http://www.o-kitchen.net/
教える人
ヒバリ舎 内山ミエ(うちやま・みえ)さん
整理収納アドバイザー1級、ライフオーガナイザー1級を保有。機能性だけでなく見た目が美しい&楽しい収納を提案する。著書に『「めんどうくさい」がなくなる部屋づくり』(SBクリエイティブ)など。
http://hibarisha.com/
物が散らかるのには、必ず理由がある
「がんばって部屋を片づけても、すぐにまた散らかってしまう」「家族が片づけに協力してくれない」。そんな悩みを抱えている人は、多いのではないでしょうか。
「もしかしたら、それは収納法に問題があるのかもしれません」
そう話すのは、整理収納アドバイザーの内山ミエさん。自身が運営するヒバリ舎では、これまで、数々の家の整理収納に関する悩みを解決してきました。
「実は、物が散らかるのには、必ず理由があるんです。たとえば、先日、伺ったお宅では、せっかくコートハンガーを置いたのに、家族はコートをソファに脱ぎっぱなし。でも、家の中を見せてもらうと、奥さまが配置したのは玄関でした。帰宅してすぐ、寒い玄関ではコートを脱ぎたくないし、さらに、暖かいリビングに入ってしまうと、もう一度寒い玄関には行きたくない。家族の動作と置き場所が合っていなかったんですよね」
整理収納の基本は、見た目を美しくすることではなく、暮らしの仕組みをつくること。自分や家族の行動や性格に合わせ、収納の土台をつくれば物は散らかりにくくなり、日々の家事はぐんと楽になる、と内山さんは話します。
【カウンセリング編】
藤吉家のふだんのキッチン収納をチェック
今回、訪れたのは、菓子職人の藤吉陽子さんのお宅。職業柄、食材や調理道具が多く、収納法に悩んでいるというキッチンを見ることになりました。
まずは藤吉さんの一日のスケジュール、料理や掃除の頻度から、趣味、休日の過ごし方まで、細かく聞いていきます。さらに、「利き脳テスト」で、藤吉さんの脳タイプをチェック。その人に合った片づけ方を見つけるヒントにします。その結果、藤吉さんは「見た目重視の完璧主義」派。また、質問表を使って藤吉さんの行動パターンを把握した結果、棚の中より見える場所を重視する「一見キレイ」派に。
「収納のハウツー本に載っていることが、万人にとっての正解ではないんです。生活スタイルや性格は人それぞれ。その人に合った収納法を取り入れないと、長続きしません」と内山さん。
「見た目の美しさも重視する派の藤吉さんは、キッチンも散らからず、すっきりしています。ただ、物の収納場所や分類は、調整が必要です。いまは、家事に余計な労力がかかっている状態なんです」
見た目は美しいけど使いづらさも感じます。いまのままでは家事が大変です。
カウンターや棚の上にほとんど何も出ておらず、すっきりと美しいキッチン。けれども、藤吉さんと一緒に引き出しや棚の中を見てまわった内山さんは、「けっして散らかってはいないけれど、物の置き場所は調整したほうがよさそうですね」と提案。
「料理をしながら、むだに行ったり来たりしていることが多いのでは? 深い引き出しにたくさん食材を重ねているのも、捜すのが大変でしょう。この収納の仕方だと、料理と片づけに相当な労力を使っているはずです。少し手を加えるだけで、家事がずいぶん楽になると思いますよ」
Check 1 コンロ前で調理に使う調味料が、離れた場所にしまわれている
調理に使うスパイス一式や砂糖類が、コンロから4歩ほど離れた引き出しに。「ささいなことですが、往復している労力と時間がもったいない」(内山さん)
Check 2 深さがある引き出しに入った食材は、捜す手間が大変です
深めの引き出しには、粉類やナッツといった製菓材料、包装袋などが「ミルフィーユ状に重なっている」(内山さん)ので、必要なものを取り出すのが大変。
Check 3 作業場所とリンクしない道具の定位置が問題
コンロ下にはフライパンと一緒に、野菜などをゆでる鍋や洗剤類も。洗剤はもちろん、最初に水を入れることが多い鍋も、シンク近くに置いたほうが効率的。
Check 4 引き出しにぎっしり入った道具。出し入れがパズルのように複雑
菓子型がぎっしり詰まった引き出し。藤吉さん自身、もはや何がどこにあるのかわからない。「入れ過ぎはNG。最大でも8割までが鉄則です」(内山さん)
【実践編】
「使う頻度」と「位置」が、収納場所を決める鍵
形や機能の「種類」ではなく「シチュエーション」で分類
内山さんによれば、収納は、鍋や調味料といった「種類」ではなく、「使うシチュエーション」で仕分けするのが、大きなポイント。大事なのは、使う頻度と位置です。
「使用頻度の違うものが混在していると使いづらいため、まずは仕分け。頻度の高いものは、取り出しやすい目線から膝の間の高さにある場所に。引き出しの奥にしまわず、手前に置くことも大事です。また、収納場所は、使う場所に近づけること。常に動作の “最短アクセス” を考えましょう」
実践 1 コンロ下には、火の周りで使うものを立てて収納
使う位置に関係なく、さまざまなものが混在していたコンロ下の引き出し。洗剤類や、最初に水を入れて使う小鍋はシンク下の収納へ移動させ、シンク下にあった食用油やだし類と入れ換えた。フライパンは重ねず、ファイルケースに立てることで、出し入れが楽に。
投入したもの ニトリの「A4ファイルケース」
移動したもの
実践 2 容器の重ね置きで、深い引き出しでも取り出しやすく
食材を重ねていた深い引き出し。プラスチック容器を2段重ねて入れ、取り出しやすい上の容器に使用頻度の高いもの、下に低いもの、と分けて収納。容器が上げ底の役目も担い、スペースも効率的に使える。右側には高さのある瓶類も入り、深さをむだなく活用。
投入したもの 岩崎工業の「KEEPER スナックケース」
実践 3 砂糖やスパイス類は、コンロのそばへ移動
毎日、コンロで使うのに、離れた場所に収納していた調味料は、コンロそばの棚へと移動。背の高い藤吉さんだから、この位置でもすっと手に取れる。「調理中、コンロから離れずにすむようになりました」(藤吉さん)
実践 4 使いかけ食材は、同じ大きさのビニール袋に
使いかけの乾物などは、すべて同じ大きさのジッパー付きポリ袋にそろえてしまう。「小さいものだからといって小さなポリ袋に入れると、大きな袋の間に埋もれてしまって、行方不明になってしまいます」(内山さん)
実践 5 一度すべて取り出し、使用頻度で分類しなおす
菓子の型でぎゅうぎゅうだった引き出し。めったに使わないものはポリ袋に入れるなどして、あいていた隣の深い引き出し奥へ。一番使う型は、よく使う型をまとめた浅い引き出しへ。小皿に分けて、引き出しの手前に。
実践6 ラベルを使えば、家族みんなが一目瞭然
家族は自分で物を捜せるようになり、子どもにもお手伝いを頼みやすくなる。内山さんおすすめのラベル作製機はブラザーの「ピータッチ キューブ」。携帯アプリとリンクさせて、さまざまなデザインのラベルをつくれる。
ふだんの家事を見つめなおせば、改善点がみえてくる
内山さんのアドバイスを受けながら、キッチンにあるものを分類しなおした藤吉さん。よく使うものをすぐ手に取れるように、また、どこに何があるかがひと目でわかるように、再配置しました。
「いままで、収納については“見た目がすっきりすれば”と思って、とくに疑問に感じていなかったんです。置き場所や分類を変えるとこんなに動作がスムーズになるのかと、びっくり。夫にも家事を頼みやすくなりました」と藤吉さん。
いまの収納に慣れてしまい、問題点に気づかず、知らずしらずのうちにストレスをため込んでいる人も多い、と内山さんはいいます。
「まずは、ふだんの家事を見つめなおすこと。物が取り出しにくい、捜しにくいなど、少しでも不便に感じることがあれば、書き出してみては。改善点は自然とみえてくるはずです」
〈撮影/柳原久子(https://water-fish.co.jp/) 取材・文/嶌 陽子 イラスト/はまだなぎさ〉