“シンプルなおいしさ”をなにより大切に
粉のおいしさが際立つパンが人気の「AOSAN」。東京・仙川で2006年にオープンして以来、人気は衰え知らずです。2年前には、小田急線狛江駅に支店をオープンし、昨年末にはネットショップを始めるなど、さらに多くの人にパンを届けてくれるようになりました。
朝からずっと行列が途切れないほどの人気ぶりで、まさに老若男女に愛されるお店。
「お年を召したお客さまも多いですね。たぶん懐かしい感じのパンがあったり、シンプルなものが多いからかもしれません。見た目でいろいろ付け加えて綺麗にするよりも、まず味で、シンプルなおいしさっていう考え方でやっているので」と、店主の奥田充央さんはいいます。
確かにパンの大半を占めるのは、最低限の食材を使ったシンプルなもの。奥田さんの信念を体現するパンのひとつがロールパンで、たとえば「アーモンドロール」は、上にアーモンドスライスが数枚飾られ、なかに自家製のクレーム・ダマンド(アーモンドクリーム)が控えめに入った素朴なパンです。
粉の旨味を感じるしっとりもちっとした生地に、ダマンドがやさしい甘さとコクを加えています。素材の味が舌に鮮明に広がり、幸せな気分に。
師匠の元で働いていた誇りを胸に刻んで
高い技術とセンスで人を虜にするパンを生み出す奥田さん。奥田さんといえば、代々木上原の天然酵母パンのお店「ルヴァン」で修業をしたという経歴が有名ですが、意外にも最初は菓子職人を目指していたのだそう。
「始めは神戸の洋菓子店で修業していたんですが、東京・吉祥寺にあった『ゴッツェ』というスイス・ドイツ菓子店で働きたくて、上京しました。その店では、ドイツ人のお客さまたちからの要望で週に1度パンを焼いていたんです。そのパンづくりが面白くて、店を辞めるときに『もうお菓子はいいかな。パンもやってみたいな』と思って」
それでも「ゴッツェ」で働いていたことは、「自分のなかでとても重みがあります。いろんなことを教えてもらったんで」と話します。そんな奥田さんにとって、「ゴッツェ」のレシピをアレンジしてつくる焼き菓子「エンガディーナ」は、大切に焼き続けるお菓子のひとつ。
「ゴッツェさんはドイツ人で、スイスやアメリカなどいろんな国で製菓長などを務めた実力派です。日本に指導者として呼ばれたときに、奥さんと出会い日本で店を構えて。そんなゴッツェさんの味を受け継ぎたいというのと、『ゴッツェ』で働いていたという誇りを持ち続けたい、そしてスイスのお菓子を知ってもらいたいという想いで、このお菓子を焼き続けています」
パン屋さんにタルトも置いてあると嬉しいですよねというと、「やっぱりパンも焼き菓子もつくりたいんですよね。本場のパン屋さんでは両方やってるんで、そうであるべきだろうなとは思います」 と話します。
また、店には外国人のお客さまが多く、フランスやドイツの方に「おいしい」といってもらえるとすごくうれしく感じるのだそう。「やっぱり主食にしている人たちにそういわれると、間違ってないんだなと強く感じます」とも話す奥田さん。
日本の街のパン屋さんであることにとどまらず、奥田さんの視線の先は、常に海の向こうにありました。本場に負けない味を意識しているからこそ、これほどの味わいを生み、人の心を惹きつけてやまないのでしょう。
余談ですが、仙川は「AOSAN」に加え、本格派フランス菓子店「ラ カンドゥール」「ラ・ヴィエイユ・フランス」、西荻から移転した人気焼き菓子店「モイスェン」が集まる、パンとお菓子好きにとってはたまらない場所。おいしいもの巡りをぜひしてみてくださいね。
<撮影/山田耕司 取材・文/諸根文奈>
AOSAN(アオサン)
03-5313-0787 ※パンの予約は受け付けていません
12:00〜18:00(売り切れ次第閉店)
日・月休み
東京都調布市仙川町1-3-5
最寄り駅:京王線「仙川駅」
https://www.instagram.com/aosan_bakery/
https://aosan628.thebase.in/(ネット通販)