• 絵本好きの編集者・長谷川未緒さんが、大人も子どもも楽しめる、季節に合わせた絵本を3冊セレクト。今回は、もうすぐやってくる「春」にぴったりの絵本を紹介します。
    画像: 春の気分を味わう絵本3冊|ずっと絵本と。

    立春を迎え、暦の上では春。そこで今回は「春」をテーマにした3冊をセレクトしました。上着を脱いで、温かな日差しを感じられる日も、もうすぐです。

    『はるがきた』
    (ジーン・ジオン文 マーガレット・ブロイ・グレアム絵 こみやゆう訳 主婦の友社)

    画像: 本書は、名作絵本『どろんこハリー』著者コンビによる作品です。

    本書は、名作絵本『どろんこハリー』著者コンビによる作品です。

    男の子の住んでいる町では、もうすぐ春です。

    それなのに、街路樹は枯れたままだし、

    春の兆しは見えません。

    街角でもみんな、「春はまだかな?」

    「早く春に来てほしい」

    と口々に言います。

    そのとき、男の子はいいことを思いつきました。

    「まってなんか いないでさ、ぼくたちで まちを はるに しようよ!」

    春にするって? どうしたらいいのでしょう?

    画像: 街が彩られていきますよ。

    街が彩られていきますよ。

    男の子のひとことで、街のみんなは

    ペンキと刷毛を手に、絵を描きだしました。

    壁にラッパスイセン、ヒナギク、タンポポが咲いていきます。

    街じゅう、どこもかしこも、生まれ変わったように

    明るく輝き出しましたが……。

    画像: 真っ黒な雲が、雨を運んできました。

    真っ黒な雲が、雨を運んできました。

    みんなが寝ているあいだに、雨が降り続き、

    せっかく描いた絵が、流されてしまいました。

    雨が上がり、おそるおそる街に出てみると、

    なんと、クロッカスが土から顔を出し、若葉もやわらかい葉を広げています。

    この雨が、ほんとうの春をつれてきてくれたのです。

    日本の古いカレンダー「二十四節気」では、立春のあとが「雨水」。

    この時期、三寒四温でひと雨ごとに暖かくなる、なんて言いますよね。

    季節の変わり目の雨は鬱陶しく感じることもありますが、

    ここから春になるとわかっているから、

    なんだか明るい気持ちにもなれます。

    『いちご』
    (荒井真紀作 小学館)

    画像: へたがぴんとして、果皮がつやつや。おいしいにちがいない。

    へたがぴんとして、果皮がつやつや。おいしいにちがいない。

    いちごのつぶつぶが、ぜんぶ種だということを

    大人は知っているけれど、子どもは知らない子も多いのでは?

    かくいうわたしも、知ったのはずいぶん大きくなってからで、

    とても驚いたことを覚えています。

    この絵本では、いちごが苗から育つようすを観察し、

    詳細に描いています。

    画像: いちごの花は、のちのちいちごになることが納得のかわいさ。

    いちごの花は、のちのちいちごになることが納得のかわいさ。

    いちごの苗を植えるのは、秋。

    王様のかんむりのような形をした苗の根元から出てきた葉っぱは、

    冬のあいだは地面に張り付くような姿で、休眠します。

    春になり、葉っぱがぐんぐん伸びて、

    5枚の花びらをつけた花が咲き、散りました。

    すると……。

    花が咲いてから、およそひと月で、いちごが真っ赤に色づきました。

    クリスマスケーキに欠かせないいちごですが、

    春にかけてのいまが旬。

    いちばん安くておいしい時期ですから、

    いただかない手はありません。

    画像: いちごの断面図。とてもきれい。種が葉から養分をもらっていたことがよくわかります。

    いちごの断面図。とてもきれい。種が葉から養分をもらっていたことがよくわかります。

    いちご、じつはプランターでも育てることができますよ。

    秋に植えた苗がいったん休眠に入ると、

    このまま枯れちゃうのでは、と心配になりますが

    暖かくなるにつれ葉がぐんぐん生長し、

    愛らしい白い花を咲かせて、いちごになっていくようすは、

    見ているだけで、うれしくなるもの。

    1本の苗からたくさんは収穫できませんが、

    かえって、宝石のように大切なものに感じさせてくれます。

    『ピンクとスノーじいさん』
    (村上康成作・絵 徳間書店)

    画像: ピンクのひれが自慢です。

    ピンクのひれが自慢です。

    この絵本の主人公、ヤマメのピンクは春に生まれました。

    ヤマセミに襲われたりしながらも、

    大好物のカゲロウを食べ、元気に楽しく過ごした夏を経て、

    ついに、川には冬がやってきました。

    自然界の厳しさがピンクをおそいます。

    画像: やっと見つけたごちそうを横取りされるピンク。

    やっと見つけたごちそうを横取りされるピンク。

    せっかく見つけたごちそうは、

    自分より大きな魚に横取りされてしまいます。

    しかしその魚も、もっと大きなイワナのスノーじいさんに……。

    「いいか もうすぐ たべるものが なにも なくなるぞ。ふゆが きたんじゃ。」

    と語るイワナのスノーじいさん。

    「つらいぞ、ピンク、まつしか ないんじゃ、はるまでな。」

    画像: 黒い影が、ピンクを狙っています。

    黒い影が、ピンクを狙っています。

    体はこちこち、もう何日も何も食べていない。

    春はまだ? とピンク。

    体に力が入らないピンクは、イタチに襲われてしまいます。

    そこへあの怖かったスノーじいさんが助けにきてくれて……。

    ピンクはどうなる? スノーじいさんは?

    はらはらしながらページをめくると、

    ついに訪れる春。このくだりは圧巻です。

    自然界の生き物たちにとって、春が来ることの喜びは、

    さぞかし大きなものでしょう。

    苦しい冬のあとには、必ず春がやってくる。

    いろいろあるけど、つらいこともいいことも長くは続かない。

    そんなことも巡る季節が教えてくれるようです。

    そう、すてきな春が、もうすぐやってきます。



    画像: 『ピンクとスノーじいさん』 (村上康成作・絵 徳間書店)

    長谷川未緒(はせがわ・みお)
    東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。

    <撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>



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