和室に馴染む、渋派手な風合いのチベット家具
わたなべさんのアトリエは、築数十年を経た民家。和室が多く、広々とした開放感が漂う空間は、モノが少なく澄み切った印象です。
20代の頃から、長く愛せるものを大事に使う主義だったといいます。
「モノが多いと管理するのが大変ですし、どこに何があるか把握できなくなるのが嫌で。なので、いいなと思っても、いつか使うだろうという買い物はしません。いますぐ、そして毎日使いたいと思えるものだけを買って、とことん付き合うようにしています」
押し入れにほとんどの持ち物が収まってしまうため、収納家具をほとんどもたないそうですが、大切にしているのがチベット家具。
ネパール在住時に知り合った、チベット僧が指揮を執る工房にオーダーしたものです。
落ち着いた朱色をベースに、黒やマットな金色を利かせたレリーフ模様が散りばめられ、長い年月を経たような味わい深さ。
「現在、チベットアンティーク家具は希少で手に入りにくいため、アンティーク風に仕上げてもらっています。新しく製作してもらうことで、現地の雇用を生みたいという気持ちもあります」
キャビネットは現地でも使われる家具ですが、全てオリジナルでオーダーしたのがボックス家具。
扉付きのものとオープンなものの2タイプで、スタッキングできる凹みも付けてもらいました。
空間に合わせて並べても重ねても使えるのは、日本の狭小な住宅事情にぴったりですが、和室にもしっくり馴染んでいるのが驚きです。
現地ではもっときらびやかな色使いで、金色もピカピカの輝きなのですが、色使いを抑えて燻したような風合いにしてもらったのだとか。
わたなべさんいわく「落ち着いた感じでいて華もある」仕上がりになったことで、和室に溶け込みつつ存在感を放っているんですね。
お客様をもてなすお茶を運ぶ時などに大活躍するというトレイも、10年以上になる愛用品。
コロナなどの諸事情から、現在はチベット家具や小物の製作は中断しているそうですが、ヒマラヤと日本をつなぐ営みの一環として、いつか再開される日が来ますように!
たっぷりした布使いで、空間を豊かに彩る
わたなべさんのインテリア術で、ぜひ参考にしたいのが布の使い方。
ネパールに住んでいた時から使っているというインド製の綿布が、家の随所で効果的に使われています。
「ネパールでは、布団カバーなどの用途で日常的に使われている布です。ごくシンプルな生成りの布ですが、薄手なのでカーテンや間仕切りにすると、光を柔らかく通して空気感が優しくなるんです」
こうした薄手の布をカーテンとして使う場合、窓枠の高さからではなく天井から垂らすのが、空間を美しく見せるコツだそう。
「さらに、ドレープをたっぷりとってあげることで、より布の柔らかさが出て、空間の雰囲気が優しくなります」
おすすめは窓幅の2~3倍ぐらいの幅をとること。和室の床の間にしつらえたディスプレイの空間も、表情豊かなドレープをつくった布で演出されています。
「薄手で軽い布なら、弛ませながら天井に張ると、天蓋みたいにふんわり不思議な空間になりますよ」とわたなべさん。
切りっぱなしでも気軽にトライできるとのこと、ぜひ自宅の空間でも色々と活用してみたいです。
最後に、テーブルクロスや間仕切りに布がふんだんに使われていたダイニングで、素敵なディレクターズチェアを発見。
聞けば、革靴作家の友人に頼んでつくってもらったものだそう。
「元々は靴の試着用のアンティークの椅子で、背と座は革に張り替えてあったのですが、あまりの座り心地のよさにお願いして譲ってもらったんです。革の品質は折り紙付きで、10年は使えると太鼓判を押してもらいました」
本当に気に入ったものを長く使う、わたなべさんのモノとの付き合い方を、改めて実感したひとときでした。
〈写真・文/高瀬由紀子〉
わたなべ かおり
ai, 主宰・デザイナー。東京でフリーグラフィックデザイナーとして活動中に、世界を一人旅してまわる。7年間のヒマラヤ暮らしを経て、2010年に帰国。東京を拠点に活動後、2014年に香川・仏生山へ移住。ネパールの作り手との商品製作を続けながら、極楽仏生山暮らしを満喫中。
http://aistore.jp