神戸・六甲にて器や暮らしの道具を扱う「MORIS」。店主・森脇今日子さんとお店に立つ、母・ひろみさんもまたかつて六甲で器の店を営んでいました。
器好きになったきっかけは、ひろみさんの母親が愛用していた、古伊万里や漆の器でした。ご実家から受け継いだもの、好きでこつこつと集めてきたものは、やがて、二人の娘に引き継がれていきます。
大事にするあまりしまい込むのではなく、暮らしの中で使うのがひろみさん流。普段の食卓で、お茶の時間に、ハレの日に。使うほど愛着が増し、楽しむ心も受け継がれています。
みじん唐草から、古伊万里へ
ひろみさんが古伊万里を好きになったきっかけが、みじん唐草。
「実家で使っていた、みじん唐草の長皿が好きで。結婚後、集めはじめました」
17世紀初頭に誕生したとされる伊万里焼。唐草は、連続してつながる様子から、「子孫繁栄」や「長寿」になぞらえ、定番の文様として愛されてきました。
みじん唐草は、唐草模様を簡素化したもの。丹念に描き込まれているけれど、技巧的でなく、人の手のあたたかみが感じられます。
どんな料理とも合わせやすく、ひろみさんは朝食のトーストやヨーグルトに愛用。
愛らしい、豆皿の世界
「気張ったものよりも、ちょっと力の抜けたものが好き」というひろみさん。いろんな形、絵柄の、愛らしい豆皿はまさにそう。
コンパクトにしまえ、ひと目で見られる、漆のお弁当箱に収納。使うときも、しまうときも気分が上がります。
この豆皿は、三田青磁。江戸時代後期に始まり昭和の初めに絶えた、兵庫県三田市南東部で焼かれていた磁器です。
ひょうたんの形をしていて、裏に付けた足もひょうたんの形。細かな仕事にわくわくします。
「線画が好き」というひろみさん。ちょんちょんと描かれるのは、オリオン座とおぼしき、夜空の星。船の行く先を示しているのかもしれません。
「何が描かれているか、どんなふうに使われて来たか、歴史や背景を教えていただけるから目利きの骨董店で選んでいます」
手先をあたためる、手あぶり
こちらは、寒いときに使う、手あぶり火鉢。珉平焼の染付で、中に炭火を入れ、ほんのり温もった取手に手を置いてあたためます。ひろみさんの母親の実家で愛用していたもので、来客時は一人一人のそばに置いてもてなしたそう。
「母の実家は淡路島で、当主が代々茶人だった家柄。珉平焼の創始者、賀集珉平とも交流があったようです。すごく好きだったので、高校生のとき母に願い出て、これで指先をあたためながら勉強したんです。ところが、炭火の加減でピンとひびてしまって、のちに金継ぎしました」
たまたま骨董店で同じものを見つけ、「娘二人が取り合わないように」、いまは二つ手元に。
暮らしのなかで、使ってこそ
お茶の時間を持つことも、ひろみさんがご実家から受け継ぎ、今日子さんも共に楽しんでいること。
「MORIS」でときどき喫茶や料理教室を開くのも、暮らしの中で器や道具を楽しんでほしい思いから。この日は、賀集珉平の染付と漆の箱にお菓子を。
漆の箱は、ひろみさんの祖母の応接間の煙草入れとして使われていたそう。
30年来の土楽窯の土鍋で、今日子さんが酒粕肉団子をつくってくれました。合わせたのは、古伊万里の器。
「古伊万里だけより、土ものが入ると場がなごみますね」
豆皿は箸置きや薬味入れとして活躍。日々使うことで、使い道が広がり、センスも磨かれます。
<撮影/わたなべよしこ 取材・文/宮下亜紀>
森脇ひろみ 森脇今日子(もりわき・ひろみ、もりわき・きょうこ)
神戸・六甲にて「MORIS」を営む。横山秀樹、内田鋼一など、取り扱う作家の中には母・ひろみさんからのご縁も。六甲に暮らす料理家・文筆家高山なおみさんの最新刊「帰ってきた日々ごはん8」(アノニマ・スタジオ)では、今日子さんの絵が装画に。
https://moris4.com
宮下亜紀(みやした・あき)
京都に暮らす、ライター・編集者。天然生活webにて「京都、根っこのある暮らし方」連載中。
https://www.instagram.com/miyanlife/