• インドの人々と布づくり・服づくりを続ける「CALICO」代表・小林史恵さんの文章と、“旅する写真家”在本彌生さんの色彩豊かな写真で案内する、今を生きるインドの美しい手仕事布をめぐる旅。今回は、小林さんの活動「CALICO」の名前の由来のお話を紹介します。
    (『CALICOのインド手仕事布案内』より)

    インド文化の華、キャリコ(calico)

    キャリコ(calico)は、インドの平織の綿織物の総称だ。カリカット(現在のコジコーデ)からおもにイギリス、フランスに出荷された綿織物で、多くは更紗文様が施されていた。そのため、アメリカではキャリコというと更紗文様・斑模様を指す言葉となった。それがまたまた派生して、三毛猫や斑模様の金魚もキャリコと言われる。キャリココーンという、カラフルなトウモロコシの種類まである。

    2012年に、ベンガルと縁のある何人かの友人たちとデリーのとあるベンガル料理屋に集い、パーティを開いていたときのこと。私が興味をもって追いかけているカディのことを話すと、友人のSumana(スマナ)が、「ベンガルは、モスリンもたくさん織られてきたし、キャリコも輸出してきた」というようなことを、さも自然に口にした。ベンガルのひとにとっては、ただ手紡ぎ・手織りで村で織られている布を総称するカディよりも、世界中でもベンガルのような土地でしか織られない細番手のモスリンこそが誇りだったし、海外市場で人気を博してきたキャリコは、インド文化の華であるかのようなニュアンスだったことを覚えている。

    画像: オールドデリーにて

    オールドデリーにて

    もちろん、それぞれの言葉は、なかば日本語にもなっているし、子供のころに祖母の口から発せられるのを幾度となく聞いてきた。しかし、それまでの私にとってのキャリコは、それに相当する日本語が、キャラコ、つまり、白衣や足袋に使われる白生地であったため、その言葉の奥行きをしっかり理解するのに少し時間を要した。しかし、いつまでもその言葉が耳に残った。

    余談だが、その日は古着のジャムダニサリーを着ていたが、着流すにはほど遠く、ひどく野暮な着方をしていたようで、「通りにいるおばあちゃんみたいだ」と笑われたことは忘れられない。そのトラウマで、今もなかなかベンガルのひとの前でサリーを着られずにいる。

    活動の名前をつけるとき、いろいろな案を思いついたが、インド人、日本人、フランス人、アメリカ人、さまざまな国籍の人にどう思うかを尋ね、その語感に、懐かしさと奥行き、普遍性や可能性を感じ、CALICOという名前をつけた。また、日本語では、一般名詞のキャリコと少し位置を違えるために、すべて大文字のキヤリコという名前にした。

    CALICOが目指す“普遍”

    画像: CALICOが目指す“普遍”

    インドの知人から、しばしば「CALICOという語は、Calico Mills(紡績会社)やCalico Museum(キャリコ博物館)と混同する」と指摘されることがある。しかし元来CALICOという言葉は、インドの綿布を表す普遍的なものだ。私たちが目指すのも、まさにその普遍だ。

    キャリコ博物館を運営されるサラバイ家のある方には、「キャリコは一般名詞だから誰のものでもない」と言っていただいた。
    しかし、CALICOだけでは普遍的すぎて、活動名として成立しないため、CALICO:the ART of INDIAN VILLAGE FABRICSという名称を使っている。ARTは文字通りアートでもあり、技術や方法でもある。また、INDIANとあるが、インドの国だけでなく、広くインド亜大陸を示しているつもりだ。

    CALICO:the ART of INDIAN VILLAGE FABRICSという英語表記では意味が通じないという声もあり、日本国内では、“キヤリコ:インド手仕事布の世界”という超訳的な活動名も使っている。

    最近は、ゲリラ的に“CALヰCO”という表記も使っている。インドのひとには不思議な言葉に見えるだろうし、“ヰ”は井や居のかなである“ゐ”と同じであり、井戸や市井の意味もある。村の中心にある場所のイメージでもあり、コミュニティでもある。そして、経糸緯糸のようにも見える。この文字があることで、手紡ぎ手織りの不均一な糸の調子がイメージとして伝わるなら本望だ。

     

    本記事は『CALICOのインド手仕事布案内』(小学館)からの抜粋です


    〈文/小林史恵 写真/在本彌生〉

    小林史恵(こばやし・ふみえ)
    大阪生まれ、奈良育ち。キヤリコ合同会社(日本)/CALICO SANTOME INDIA LLC(インド) 代表・デザイナー。2012年、デリーを拠点に、インドの手仕事布をデザインし、伝える活動、CALICO:the ART of INDIAN VILLAGE FABRICSを始動。日本では企画展や取扱店を通じてCALICOファンを増やし続けている。近年はインド手仕事布のエキスパートとして、ブランドの活動以外でも国内のイベントや展覧会の企画に関わる機会も増えている。2021年3月、奈良公園内に日本の拠点となるギャラリー・ショップ「CALICO : the Bhavan」(キヤリコ:ザ・バワン」をオープン。
    instagram:@fumie_calico

    CALICO : the Bhavan
    月曜定休 10-17時
    〒630-8211 奈良市雑司町491-5
    電話:0742-87-1513
    メール:calicoindiajp@gmail.com
    www.calicoindia.jp/

    在本彌生(ありもと・やよい)
    東京生まれ。フォトグラファー。外資系航空会社で乗務員として勤務するなかで写真と出会い、2003年に初個展「綯い交ぜ」開催。2006年にフリーランスフォトグラファーとして本格的に活動を開始。世界各地であるがままのものや人のうちに潜む美しさを浮き彫りにする“旅する写真家”として知られ、雑誌や書籍・ファッション・広告など幅広いジャンルで活躍している。著書に写真集「MAGICAL TRANSIT DAYS」(アートビートパブリッシャーズ)、「わたしの獣たち」(青幻舎)、「熊を彫る人」(小学館)などがある。
    instagram:@yoyomarch

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    『CALICOのインド手仕事布案内』(小学館)|amazon.co.jp

    『CALICOのインド手仕事布案内
    いまを生きるインドの美しい布をめぐる旅』
    (小林史恵・著 在本彌生・著、撮/小学館・刊)

     

    『CALICOのインド手仕事布案内』(小学館)|amazon.co.jp

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    CALICO:the ART of INDIAN VILLAGE FABRICSを主宰し、インドの手仕事布の現状を最もよく知る日本人のひとりでもある小林史恵さんが、インドでの仕事を通じて経験したこと、布探しの旅のなかで見聞きしたさまざまな“手仕事布の世界” を案内します。
    さらに“旅する写真家” としても知られる在本彌生さんの、色彩豊かで生命力あふれる写真の数々も必見です。

    産地や作り手の紹介にとどまらず、布づくりの背景にある思想や哲学を知ることができる本書。インドの手仕事布の“今”がわかる貴重なドキュメントでもあり、布を知るごとに実物にふれてみたくなる、布好きにはたまらない一冊です。



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