• 「愛の野菜伝道師」として、全国の農家を回り、野菜の魅力を伝えることで生産者と消費者をつなぐ仕事を20年近く続けている小堀夏佳さん。「野菜で人をもっとワクワクさせたい」という小堀さんに、伝えていきたい野菜の魅力をうかがいました。
    (『天然生活』2020年7月号掲載)

    甘みのあるきゅうりに驚き、野菜の世界に目覚めた

    トロなす、かぼっコリー、マッシュルン……。

    思わず食べてみたくなるような名前の野菜たち。その名付け親が、小堀夏佳さんです。

    職業は「愛の野菜伝道師」

    全国の農家をまわり、知られざる魅力的な野菜を見つけ出しては名前からキャッチコピー、販売法、料理法まで提案。野菜の魅力を伝えることで生産者と消費者をつなぐ仕事を20年近く続けています。

    画像: 小堀さんが選んだ旬の野菜や加工品が届くサービス「ベジバルーン」のセット

    小堀さんが選んだ旬の野菜や加工品が届くサービス「ベジバルーン」のセット

    大学卒業後、銀行に就職した小堀さん。4年間働いたのち、子どものころから好きだった“食”にまつわる仕事がしたいと、有機野菜のネット通販・宅配会社、オイシックス(当時)の創業メンバーに加わります。そこで任命されたのは、野菜のバイヤーでした。

    「青天の霹靂でした。“食の仕事”といっても、デザートの開発などをイメージしていましたし、それまでまったく野菜に興味がなかったんです。苦戦しながら仕入れの仕事を始めましたが、最初は畑に足を運ぶどころか、仕入れた野菜を自分で食べて味を知ることもせず、ずっと会社のデスクに座って発注していました」

    やがて、先輩バイヤーたちにも勧められ、少しずつ仕入れた野菜を食べてみるようになります。

    「あるとき、福島の農家のきゅうりを食べて衝撃を受けたんです。味がしないものだと思っていたきゅうりに、甘さや旨みを感じた。つくっているところをぜひ見たいと思い、初めて畑を訪れました」

    そこで目にしたのは、新鮮なきゅうりの表面に付いた、たくさんのいぼ、ちくちくした葉っぱ、くるんと巻いている蔓……。

    「その光景に感激しました。農家の人たちの話を聞くうち、『野菜って生き物なんだ!』とあらためて実感したんです」

    野菜の魅力に目覚め、全国の農家を訪れるようになった小堀さん。農家の人々に教わり、自分でも本で勉強しながら、野菜や農業について学んでいきました。

    「出会った農家の人たちは、技術や知識が豊富。自然との共存について深く考えている人も多い。お金だけでは測れない、人間らしい生活を送る彼らに深い敬意を抱くようになりました。同時に私も、どうしたら農家の収入が上がるかを考えるようになったんです」

    画像: 千葉県の田中一仁さんが育てる甘いかぶ

    千葉県の田中一仁さんが育てる甘いかぶ

    小堀さんが農家や市場をまわるなかで感じたのは、日本の野菜は、味よりも見た目で判断されてしまっていること。そして野菜の評価や価格が、主に卸売市場で決められているということでした。

    自分にできるのは、質が高いのに市場では評価されにくい野菜を独自に仕入れること。そして、魅力を十分に伝えることで価値を高め、つくり手が納得する価格で販売すること。次第にそんな使命感を持つようになります。思い出に残っているのが、最初に名前をつけた野菜、“ピーチかぶ”です。

    「千葉の田中一仁さんという農家の畑で初めて食べさせてもらった瞬間、あまりの柔らかさとジューシーさに『桃みたい』って思いました。聞いてみると、市場で『見た目が黒いから』と評価されず、自家用にしかつくっていなかったそう。『ピーチかぶという名前で売りましょう』と説得して作付けを増やしてもらったんです」

    販売した「ピーチかぶ」は大ヒット。それ以降も、キャッチーな名前をつけた野菜が次々と人気に。でも、大事なのはネーミングではないと小堀さんはいいます。

    「おいしいからこそ、名前も自然と浮かんでくる。つくり手の思いや生き様、食べ方などを丁寧に伝えれば、手間をかけてつくったものがきちんと売れるんです」

    心が自然とワクワクする旬の野菜を食べてほしい

    今年からフリーランスとして、企業などの依頼を受けて仕事をしている小堀さん。最近では、都市部や近郊で行われている都市農業のPRにも携わっています。今回の取材が行われた埼玉県草加市の農園、チャヴィペルトもそのひとつです。

    画像: 埼玉県草加市で都市農業を営む「チャヴィペルト」の中川拓郎さんと

    埼玉県草加市で都市農業を営む「チャヴィペルト」の中川拓郎さんと

    「つくり手と消費者の距離が近く、お互いの顔が見えるのが都市農業の魅力。つくりり手の思いや姿勢がわかれば、安心感を覚えておいしく食べられますから」

    これからは、野菜で人々をもっとワクワクさせたい。小堀さんはエネルギッシュに話します。

    「無農薬だからとか、栄養があるからとか、そんな理由だけだと続かないでしょう。一番ワクワクすると思うのは旬の野菜。旬のものは、人間がその時期一番必要としているものだし、安いし、おいしい。旬の野菜を食べ続けると、次の季節も楽しみになります。買い物をするとき、『いまの旬はなにかな』と意識するだけでも違ってくるはずです」

    多様性のある野菜の世界にワクワクしてもらいたい

    小堀さんは「野菜には多様性がある」と繰り返します。日々野菜を食べる私たちも、もっと積極的に種類や味の豊富さを楽しみ、つくり手の思いを知ることで、野菜の豊かさ、そしてワクワクする思いを次の世代へと残していけるのかもしれません。

    画像: 「ベジバルーン」に同封される冊子。おすすめの食べ方などを記載

    「ベジバルーン」に同封される冊子。おすすめの食べ方などを記載

    〈撮影/山田耕司 取材・文/嶌 陽子〉



    小堀 夏佳(こぼり・なつか)
    東京都出身。銀行勤務を経て、2001年に株式会社オイシックスに入社。野菜バイヤーとして全国各地の農家をまわり、ネーミング、キャッチコピーづくり、レシピ提案などによって数々の野菜をヒットさせる。現在はフリーランスとして、農家、小売店、企業などから依頼を受け、野菜の魅力を伝えるプロデュース事業を行なっている。

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



    This article is a sponsored article by
    ''.