(『天然生活』2017年4月号掲載)
「かわいい」という表現に収まらないように
かわいいとかっこいい、ロマンチックとリアル、楽しさとさびしさ……。ハンドワーククリエイター・中林ういさんがつくるものには、一見、相反する表現が同居しています。
手仕事での創造となると、とかく美しさや繊細さ、かわいらしさなどが求められます。でも、ういさんが針と糸でふちどる世界は、そんな明るい「手芸的」なものとは少し距離をおいた「美術的」なもの。
「“かわいい”というワードになるべくひっかからないように、意識しています。手仕事なので、どうしてもかわいいほうに向かってしまう。それももちろん大切なのですが、私が突きつめたいのは、手のぬくもりより、いかに洗練されたむだのない線や面で世界を構成できるかということなんです」
表現手法は、刺しゅうはもちろん、型染め、アップリケ、ペーパークラフトなど、さまざま。最近はフェルトにも挑戦し、作家としてまたひとつ階段を上りました。
「どこの町でも手に入り、切りっぱなしで使えて扱いやすい。手芸素材の元祖ともいえる素材です」
だからこそ漂う「手芸臭」。色数や大きさも限定されているので、大人の女性が手芸素材として使うには難しいものが。でも、やっぱり。ういさんはセンスとアイデアを走らせ、クールなフェルトワークを繰り出しました。フェルトのもつ子どもっぽさはゼロ。
作品を語るうえで欠かせないのは、長年つくりつづけているuiBagの存在。始まりは、いまから20年近く前。美大でアートを学んでいたういさんが、自分の特技を生かしてひとりで打ち込める作品は何だろう?と考え、いき着いたのがバッグです。
B5ほどの大きさ、マチなし、内ポケットひとつ、本革の持ち手という基本形を軸に、刺しゅう、アップリケ、型染めなどの技法を使って、絵を描くようにひとつの世界をつくります。
散りかけの花、木陰で本を読む少女、軒先に吊るされた干し柿、雨に打たれるテルテル坊主……。バッグに閉じ込められた世界は抒情的で、幾つもの物語を想像できます。
下の写真の刺しゅうワッペンは、今企画のためにつくり下ろしたもの。アトリエから見える風景を写しているのですが、繊細で緻密なステッチは、「手芸」の枠を超えたリアルさです。
「動物ってポーズひとつでかわいくなるんです。だから、そこは注意深く……。たとえば登場するキツネは、おなかをすかして『ネズミでもいないかな』ってウロウロしているイメージで刺しました」
〈撮影/砂原 文 制作/中林うい 構成・文/鈴木麻子〉
中林うい(なかばやしうい)
uiBagを軸にいろいろな素材で物づくりをする人。2012年に長野・飯綱町へ移住。2019年飯綱町の牟礼駅近くに手芸店「malmu」(マルム)をひらく。店では生地や手芸材料、オリジナルのりんごグッズの販売の他、uiBagの展示やワークショップなどもおこなう。
お店のHP:mal-mu.com
Twitter:@malmu_iizuna
Instagram:@ui_nakabayashi
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです