(『会いたい。東京の大切な人 私の愛するお店』より)
30年以上通う、大好きなお店
初めて「Zakka」へ向かうとき、地下への階段を一段ずつ下りながら、胸が高鳴っていったのをいまでも思い出します。初めておじゃましたのは20歳のころ。階段を下りた先の廊下が、ほんのちょっと暗くてひんやりしていて、店から漏れる明かりが見えると、さらにドキドキが増して。
いつもそこにいてくれる安心感
一歩入ると、ぴんとしたきれいな空気が流れているのが伝わってきます。それから、何度も足を運んでいますが、ドアを開けるときには、相変わらず緊張している自分がいます。緊張しながらも、店主の吉村眸(ひとみ)さんが笑顔で迎えてくれる姿にホッとするのです。
静岡に引っ越し、自分の店を持とうと考え始めたときにもこちらへ来ましたし、子どもが反抗期のときにも足が向いていました。眸さんに話を聞いてもらったり、相談したり。ミシンをかける姿をただ見ているだけでも、心が落ち着いていくのを感じていました。
ドアを開ければ変わらず眸さんがいてくれて、どれだけ心強かったかわかりません。その不思議な空気は、何度か移転した先でも変わりませんでした。きっと眸さんが生み出しているものなんだろうと思います。
自分のために、だれかのために選ぶ生活道具
「Zakka」にあるのは、食器やカトラリー、クロスやエプロンなど、生活に役立つ道具。なおかつ、 暮らしになじむ形や色が多く、幅広い層のお客さんが訪れています。
手を止め、目を合わせて話してくれる安心感
改めて、その品ぞろえについて眸さんに話を聞くと「私が好きだと思うものを選んでいます。30年以上、変わらずおつきあいのある作家さんのものがほとんど。ほかにはオリジナルでつくっているものもあります」と教えてくれます。
つくり手さんとのつきあいをとても大切にされていることは、私自身もいつも感じること。自分の働き方を振り返るきっかけになります。
眸さんが選ぶ作家さんの器やカトラリーはシンプルななかにも、使い勝手のよさがすごく考えられているものばかりです。これが家にあったら楽しいだろうな、料理がおいしく感じるだろうな、と思えるもの。
さらに、眸さんやスタッフの方たちが手づくりしているクロスやエプロンもとても好きで、店の中でいいアクセントになっているなと感じます。生地からきちんと選んでいるので、使っては洗って、また使ってと繰り返しているうちに、手になじんでくるのがわかります。
売っているものだけでなく、ちょっとしたディスプレイもとてもかわいらしい。小さな石ころが仲良く並んでいる姿や、お店で使い込まれた道具を見られるのもいいのです。
買うのは自分のためだけでなく、だれかのお誕生日やお祝いごとなどのためのもの。どんなスタイルの暮らしにもなじみやすい道具が多いので、贈り物としても最適。静岡で暮らしていると頻繁に足を運べないので、まとめて買っておくと、プレゼントしたいときにさっと渡せるんです。
Zakkaにあるものには間違いがない。そして、ただ物を買うだけではなく、私にとっていい意味での緊張感をもてる場所であり、安心感を与えてくれる、とても大切なお店の一軒です。
〈撮影/石黒美穂子 取材・文/晴山香織〉
お話を伺った人
吉村 眸さん
よしむら・ひとみ スタイリストを経て、1985年に生活道具の店「Zakka」をオープン。自身の視点で選んだ器や木の道具、かごのほか、クロスやエプロンなどオリジナルの布小物を扱う。
<吉村眸さんよりひと言>
Zakkaは3度目の引越しをしようと思います。新たな場所での開店は秋頃をめざしていますが、またお知らせをさせてください。
Zakka
東京都渋谷区神宮前5-42-9グリーンリーブス#102
zakka-h@mx5.ttcn.ne.jp
http://www2.ttcn.ne.jp/zakka-tky.com
※2021年5月31日で現在の場所での営業は終了。2021年秋、近くの場所に移転して再オープン予定。その間はホームページ、メールでの注文もお休みの予定
本記事は『私の愛するお店』(扶桑社)からの抜粋です
後藤由紀子(ごとう・ゆきこ)
静岡・沼津で器と生活雑貨の店「hal(ハル)」を営む。著書に『私の愛するお店』『おとな時間を重ねる』(ともに扶桑社)などがある。YouTubeチャンネル『後藤由紀子と申します。』公開中。
インスタグラム:@halnumazu @gotoyukikodesu
http://hal2003.net/
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