ちょうどいい塩梅の味わいを
京王井の頭線富士見ヶ丘駅から2分ほど歩いた先に現れる、白を基調としたナチュラルな外観。思わず足を止めて見入ってしまうのが、今回ご紹介する「ヨシダベーカリー」です。粉の風味が香るハード系パン、野菜や果物のおいしさを閉じ込めたサンドイッチやタルト、見た目も美しいおやつパンと、わくわくさせてくれるパンが並びます。
「パンは昔から好きでした。物をつくる仕事がしたい、ひとつのジャンルを突き詰めたい、お店をやりたいという想いを考えあわせて、パン屋をやろうと思って」と、店主の吉田稔さんは話します。
35歳で独立しようと決め、都内のパン屋さんで修業。2012年に、目標通り35歳でお店を持つことになりましたが、お店を開いたのは「縁もゆかりもなかった」土地でした。それでも「同世代でお店を持つ人たちと交流したり、最近ではシェアリングコーヒースタンドをやる若い世代も現れて、仲良くしている」とうれしそうに話し、すっかり街に溶け込んでいるようです。
吉田さんからパンの説明を受けていると、「ほどほどの」「ほどよく」という言葉が、度々聞かれるのですが、そんな言葉が表すように、「ヨシダベーカリー」のパンは、どれも絶妙なさじ加減がされた“ちょうどいいおいしさ”。
たとえば、全粒粉と十勝産発酵バターを配合した「全粒粉のクロワッサン」は、普通の小麦粉を使ったものに比べ、粉の風味が強め。バターはコクがありつつあっさりしていて、香りが軽やかに鼻を抜けていきます。
「クロワッサンの味が単調に感じられ、あんまり食べたくないなと思ったときがありました。そこで全粒粉と、最近はライ麦もちょっといれて、風味をプラスしています。皮がザクザクして、そこもいいかなと思って」
「りんごのキャラメリゼタルト」は、「ほどよいリンゴ感が残るように、タルトタタンの手前ぐらいまでの焼き加減にしています」と吉田さん。いただいてみると、リンゴの酸味とシャキシャキ感がいい塩梅で残り、キャラメルのほろ苦さ、パイ生地の甘みと一体となって、格別なおいしさです。
パンとお菓子にはすべて、北海道産を中心とした国産小麦を使用。「安全」と「味」の両面を考えて、減農薬・無農薬の小麦を栽培する契約農家の粉だけを扱う会社から取り寄せているのだそう。そのほかには、知り合いの農家さんから直接仕入れているものも。
「もともと富士見ヶ丘に住んでいた方で、群馬県に移住して、無農薬で小麦やライ麦なんかをつくっている人がいるんです。それで、ご縁を大切にしたいと思って。粒のまま取り寄せてお店で挽いているんですが、その全粒粉をよくパンに配合してますね」
石臼挽き粉が40%ほど入った「いちご、クランベリーとカシューナッツ」は、石臼挽き粉の力だけでなく、イーストを少なくし長時間発酵することで、粉の風味を引き出したパン。洋酒に漬け込んだドライフルーツとカシューナッツがアクセントになっています。
製法のこだわりを聞くと、「全然こだわってないんですよ。製法はちょいちょい変わります。よりおいしくなるよう、何か思いついたらすぐに試して、よければその方法を続けたり発展させたり、急に元に戻ることもありますが、常に変化していってますね」とのお返事が。
製法だけでなくメニューもどんどん変わるのも、「ヨシダベーカリー」の楽しいところ。あなたの好みのど真ん中、“ちょうどいい”パンに出合えること間違いありません。
<撮影/山田耕司 取材・文/諸根文奈>
ヨシダベーカリー
03-6326-2754
11:00〜19:30
日・水休み
東京都杉並区久我山2-23-29 1F
最寄り駅:京王井の頭線「富士見ヶ丘駅」
https://www.instagram.com/yoshidabakery/?hl=ja