• 天然生活2021年9月号で紹介した、グラフィックデザイナー・セキユリヲさんの家族の物語。本誌では紹介しきれなかったお話をもう少し、こちらでお届けいたします。いつかは子どもを欲しいと思っている若い世代の方へ、今まさに特別養子縁組に興味をもっている方へ、そして現在一緒に子育てに奮闘している方や子育てがひと段落ついた方々へも。今回は、特別養子縁組を決断するきっかけとなった、出会いについて。

    「もっと子どものことについて話しておけばよかった」

    画像: 結婚当初、仕事がとにかく楽しかった当時をふりかえって

    結婚当初、仕事がとにかく楽しかった当時をふりかえって

    結婚当初よりお子さんを望んでいたセキさんですが、「いつかはできるだろう」という漠然とした想像と期待を頭の片隅に大切におきつつ、とにかく目の前の仕事に夢中になって、30代前半はあっという間に過ぎて行きました。

    ちょうど当時は、セキさんが「salvia」を立ち上げたばかり。自分の好きな世界観を表現してみたら、それが多くの方々に受け入れられ、いろいろなお声がけをいただいて……という幸せな展開に、セキさんも「期待に応えたい!」と昼夜問わず仕事に没頭していたといいます。

    夫の清水さんは、仕事以上に「趣味や自分の時間を大切にするタイプ」とセキさん。セキさんの子を望む気持ちを理解してくれていたものの、「そこまで強くとは思っていなかったかも。理解は示してくれるものの、実際行動に移すのは私でした」と続けます。

    当時のふたりのお住まいは、東京・渋谷。都会のどまん中でいろいろな刺激を受けながら、それぞれに好きなことを満喫。たまに喧嘩もするけれど、家事も家計も半分ずつ担いながら、夫婦でよく外食を楽しむなど、ふたりの時間も充実している。と、理想的とも思える毎日ですが、当時を思いかえして唯一心残りがあるとすれば、それはお子さんのこと、とセキさんはふりかえります。

    「いま思えば、当時から子について夫婦でもっと話しておけばよかったです」
    (天然生活2021年9月号より)

    「いつかはできるだろう」という漠然とした期待も、30歳後半を迎える頃には、妊娠・出産に関して、年齢にリミットがきていることをひしひしと感じ始めてきました。

    1年間、スウェーデンへ留学

    画像1: 1年間、スウェーデンへ留学

    そんな矢先、知り合いの編集者から、スウェーデンにある工芸学校「カペラゴーデン」の話を聞きます。「行ってみたい!」の気持ちに正直に、まずは短期間のサマースクールに参加。

    自然と密に関わる現地の暮らしにすっかり魅了されたふたりは、夫婦で1年留学することを決意しました。一方、頭にはしっかり「子ども」のことも。

    「留学を終えて帰国したら、子どものことを真剣に考えようね。人生をどうするか真面目に話そう」、という決意と約束を互いに交わして日本を離れたのでした。

    そんなふたりを待ちかまえていたかのように、現地で夫婦は素敵な出会いを果たすことになります。

    画像2: 1年間、スウェーデンへ留学

    幸せの“お手本”を見つけた

    カペラゴーデンは、スウェーデン南東に位置するエーランド島にある、小さな工芸学校です。セキさんはテキスタイルを、清水さんは木工のクラスで学びました。

    自然豊かな場所で、日がな一日中自分の作品づくりに没頭できる現地の生活は、忙しい東京での日々から一変、新鮮な楽しさと喜びに満ちていました。日本以外にも、アメリカやアジア諸国から社会人も学びにくるような学校で、多種多様なひとたちに囲まれながら、自由にのびのびと学んで暮らす、最高な毎日。

    留学中、ふたりは小さな一軒家を借りて暮らしていました。

    「どこからきたの?」「なにをしにスウェーデンへ?」

    ある日、カフェを営むご近所さんが、親しげに声をかけてくれました。“はじめまして”の会話から、ゴミ出しの場所などまで親切に教えてくれる、やさしいスウェーデン人女性。顔を合わせては、一言二言会話を交わす間柄になるまで、時間はかかりませんでした。

    そうして、ごくごく自然な流れで、「ふたりにはお子さんはいないのね。私は養子縁組で子どもを育てたのよ」と臆せずに、むしろ当たり前のように堂々と教えてくれたのでした。

    スウェーデンでは、養子縁組は珍しいことではありません。国のサポート体制がとても充実していることもその背景にあり、1970年以降は、自国だけでなく他国からの養子も積極的に受け入れています(※)。実際、ふたりが出会った彼女は、韓国人の子を養子として迎え入れていました。

    ふたりがお子さんに会うことはありませんでしたが、「いまはニュースキャスターをしているのよ!」と、彼女が誇らしげに語る様子は、セキさんにとびきりまぶしく映りました。

    と同時に、今まで本を読んで頭の中では知っていた養子縁組制度というものが、リアリティをもって感じることができたのです。

    「こんな形で幸せになれるんだ! 私にもできるかもって」
    (天然生活2021年9月号より)

    清水さんも、幼少期に海外で長く暮らしていた経験があり、養子縁組についてもともと抵抗がありません。「いいねえ」と、セキさんと同じ感想をもったようです。

    画像: セキさんちのリビングの一角。ソファには、使い込まれたぬいぐるみの幸せな風景

    セキさんちのリビングの一角。ソファには、使い込まれたぬいぐるみの幸せな風景

    「子を育てたい」という望みは、必ずしも「子を産みたい」という望みと同義ではありません。

    セキさんの「子どもを育てたい」という望みは、はからずも異国の地で、新しい形で突然目の前に現れました。そしてそれは、とても幸せな形をしていたのです。

    次回は、帰国後、実際に養子縁組に申し込むまでを。

    〈撮影/前田景(写真2枚目と4枚目)


    遊馬里江(ゆうま・りえ)

    編集者・ライター。東京の制作会社・出版社にて、料理や手芸ほか、生活まわりの書籍編集を経て、2013年より北海道・札幌へ。2児の子育てを楽しみつつ悩みつつ、フリーランスの編集・ライターとして活動中。



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