素材に近づけるため、発酵はあえて短めに
パティシエとしてフランスの星付きレストランで働き、帰国後もいくつものパティスリーやベーカリーでシェフを務めた杉窪章匡さん。表参道の人気店「デュヌ・ラルテ」にいた頃に、革新的なパンを次々と生み出したことでも知られる存在です。
そんな杉窪さんが独立して、2013年、代々木公園に「365日」をオープンしたときは大きな話題に。そして今秋、元の場所から徒歩1分ほどの場所に移転。売り場が拡大し、こだわりの「食」が集結する、一層魅力あふれる空間へと変化しました。
使っているのは国産小麦で、なんと17種類。しかも北海道から九州まで全国の小麦を取り寄せ、それぞれの特徴を生かした製法でパンを焼いています。
「小麦は産地によって味と香りが違っていて。北海道産の小麦に多いのは、甘い香りがして乳製品のようなコクがあるもの。焼き上げると、もちもちするのも北海道産の特徴です。九州産に多いのは、穀物の香りがしてうま味のある小麦ですね」
小麦が持つ本来の味から遠ざけるのではなく、パンにしたときにできるだけ小麦そのままの味を引き継げるようにすることを大切にしていると話す杉窪さん。そのために、杉窪さんが考えたのは、あえて発酵時間を短くすることなのだとか。
「小麦ってうま味成分がもともと少ないんです。いろいろ実験したんですけれども、3日ぐらい発酵させると確かにうま味は出ますが、それ以外の味も出てしまうんですよね。発酵すればするほど、酵母が糖を消費するので、おいしさが損なわれてしまいます。
もちろん火通りをよくするために発酵は必要なので、“火通りのための発酵”と位置付けて、発酵させるベストの時間を見つけました。なので、一般より発酵時間は短いと思います」
そんな小麦そのものに近い味を堪能できるのが、名物パン「100%=ソンプルサン」です。小麦に対し100%の水を加えたという高加水のパンで、使う小麦は北海道産の「キタノカオリ」。生地は“もちもち”よりもさらに上、“プルプル”とした食感で、「口溶けのいいパンが好み」という杉窪さんの嗜好を反映した、まさにお店を代表するパンです。
北海道産ライ麦70%入りのカンパーニュ「セイグル70」も、粉のおいしさを堪能できるパン。「フランスの M.O.F.が熟成させたフロマージュに負けないパンを」という想いでつくり上げただけに、粉の力強い味が凝縮しています。パリっとした皮からは、うま味だけでなく自然な甘みも感じられ、それがなんともいえないおいしさ。
「発酵しすぎると、甘くはなりません。発酵オーバーだと糖がなくなってしまうんですが、糖が残っている状態で焼けば、皮目がこういう甘い感じになるんです」
素材の味が鮮やかに舌に広がるおやつパンも、「365日」の得意とするところ。なかでも、オープン当初から不動の人気を誇るのが「クロッカンショコラ」で、チョコレートのブリオッシュ生地にガナッシュが入り、チョコレートの鮮烈な味わいが楽しめます。
あんぱんもファンの多い品で、「十勝小豆×あんぱん」は、特別栽培の小豆をベルギー産の赤砂糖で炊いたもの。普通、小豆はアク抜きをしますが、そうするとうま味まで抜けてしまうそう。でも、こちらの小豆はアク抜きがほとんど必要のない種類だそうで、だからこそ豆の味がしっかり出るのだとか。
十勝産の大手亡豆を使ったのが「白こしあん×あんぱん」。豆を炊いた後にしっかりこしてなめらかにし、そこにグレープシードオイルを加えることで、豆臭さをとり、なめらかさもアップさせているのだそう。
もともと「365日」は、「食のセレクトショップ」というアイデアを元にスタート。以前から食材類も扱っていましたが、移転でお店が広くなり、並べられる商品の数が格段に増えたといいます。
「365日」と契約農家がコラボして生まれた商品も多数ありますが、なかでも小麦茶がおすすめだそう。麦茶には、大抵、大麦が使われますが、小麦茶は国産の小麦を使用。上品な麦の香りと香ばしさが楽しめ、パンとの相性も抜群なのだとか。
独自の製法でつくる、小麦本来の味に近い、生き生きとした味わいのパン。吟味した素材を使い、手をかけ工夫を凝らし、おいしさを引き出したパン。日本各地から選び抜いた、上質な食材や食品。そんなとっておきの“食”を豊富に用意し、あなたの食卓を豊かにしてくれる「365日」。ぜひ訪れてみてください。
<撮影/山川修一 取材・文/諸根文奈>
365日
03-6804-7357
7:00〜19:00
無休
東京都渋谷区富ヶ谷1-2-8
最寄り駅:小田急線「代々木八幡駅」、東京メトロ千代田線「代々木公園駅」
https://ultrakitchen.jp/
https://www.instagram.com/365_nichi/