• 犬とふれあうことで、心癒され元気になる。コミュニケーションを通じて、人と犬とが助け合う力を発揮する「ドッグセラピー」。セラピードッグの育成を支える日本レスキュー協会の赤木さんが、相棒「にこり」と一緒に、セラピードッグの活動について紹介します。今回は、大阪母子医療センターの平山先生による、セラピードッグによる子どもたちの変化をお届けします。

    闘病中の子どもたちとその家族のためのドッグセラピー

    2016年12月、大阪母子医療センターに入院する子どもとそのご家族の心のケアため、セラピードッグによる訪問がスタートしました。

    同病院の医師・看護師・心理士・ホスピタルプレイ士などからなる「QOLサポートチーム」のみなさんと一緒に、病院内でのドッグセラピーをつくり上げています。

    ふだんから子どもたちの心に寄り添う医師の立場だからこそ感じられる、セラピードッグとの交流で見られる子どもやご家族の変化について、医師である平山先生の言葉を通して紹介します。

    入院中の子どもたち、病院とセラピードッグとの関わり/平山先生

    ふだんの私は、希少疾患の治療や難病、小児がんで長期入院を余儀なくされている子どもたちとその家族への「治療に伴う苦痛を軽減する」緩和ケアチームの一員として、定期的に入院中の子どもと家族たちの様子を診ています。

    入院している子どもたちは、ふだん経験したことのない家庭外(病院)で、家族と離れ離れになり、痛い注射をうけるなど、日々なんらかの「苦痛」を経験しています。ときには付き添いされている家族が同じ「苦痛」を感じることも。

    子どもと家族ができるだけ「苦痛」なく治療に取り組めるよう、病棟看護師や保育士、ホスピタルプレイ士、心理士などを中心としたチームがさまざまな療養環境向上活動をおこなっています。

    サポートは、たとえば七夕やハロウィン、クリスマス会などのイベントの開催、入院治療中の参考情報(生活リズムの整え方や運動・リハビリなど)のお知らせなどがあります。

    イベントが告知されたときには、子どもたちから「楽しみ!」と喜んでもらえそうな声が聞かれることもありましたが、どうしても非日常的に行われる特別なものとしての印象は拭えず、治療行為が優先された中での活動となっていました。

    そのため、緩和ケアチームは、日常的に行われる「苦痛を可能な限り軽減できる」よりよい緩和アプローチの手段を模索していました。

    そこでご縁をいただいた日本レスキュー協会のご好意により、6年前よりセラピードッグの病院訪問をしていただくようになりました

    画像: フープジャンプも子どもたちに大人気のプログラムのひとつ

    フープジャンプも子どもたちに大人気のプログラムのひとつ

    セラピードッグとの関わりを通じて感じ考え

    「つぎいつわんわんくるかな?」

    子どもたちの回診をすると、ふだんはベッドの上でモジモジしていたり、親の方ばかりを見ていたりこちらへの反応が薄い子でも「セラピードッグ」をネタにお話をすることが増えます。

    とくに、長期入院の子どもたちにはそれぞれ「お気に入りのわんちゃん」ができるようで、今風に「推しは誰なん?」ときくと「にこり!」という返事がにこやかに明るく返ってきます。

    画像: 病室から出られなくても、タブレットがあればどこでもつながることができます

    病室から出られなくても、タブレットがあればどこでもつながることができます

    このような表情を見るだけでも、いいサポーターができたな、治療によい影響がありそうだなと思うのですが、医療者である以上「なんとなくよい」だけでは積極的に医療活動の一環に組み込むわけにはいきません。

    セラピードッグがよい効果をもたらすと思えるのはなぜなのか、「エビデンス」はどこにあるのか、あらためてこの機会に調べてみました。

    医療機関や福祉機関ではもともと「アニマルセラピー」のよい効果を実感されており、とくに高齢者の施設などでは、よく犬が寄り添っているところを見かけることがあります。

    盲導犬は人のサポーターとしてすでに多く知られており、実績としてすでに十分な結果だと思うのですが、なぜここまで犬の人に対するよい効果を期待し惹かれていくのか、すこし専門的な話になりますが、犬と人との関係性を研究した結果をいくつかお示しします。

    犬と人との関係性についての研究結果

    2015年に発表された麻布大学を中心とした研究では、人が犬と見つめ合うと幸福ホルモンとして知られているオキシトシンが犬と人どちらも増加するということが判明しています。

    また、アメリカのイエール大学の研究では、人は犬と関わることにより気分の改善がみとめられるという結果がでています。

    2019年のオーストラリアのシドニー大学の研究では、犬を飼うことにより早期に孤独感が減少することが確認されました。

    そして、コロナ禍の現在、2021年にアメリカで行われた研究では、犬を飼っている社会的な繋がりが弱い立場の人たちは、犬を飼っていない人よりも不安を軽減し幸福度を向上させている可能性を示唆しています。

    これらの報告では、直接的に「犬」が人と関わることにより薬物治療の効果が向上したとか身体的な病状の改善が認められたというものではないのですが、緩和という観点からすると「犬と関わることにより、治療を進めていく上で必要な周辺にかかる状態の改善を報告する研究はさまざまにある」ということがわかります。

    退院後の子どもたちに気づかされた「セラピードッグのちから」

    セラピードッグに訪問していただくようになり6年目、開始早々に経験した子どもたちを外来で診療するケースも増えてきました。ときどき過去の思い出話に花が咲くことがあり、その話題のひとつとして、セラピードッグは? となります。

    画像: オンラインドッグセラピー中のタブレット画面。手づくりの「推しうちわ」を振って、画面の「にこり」に呼びかけてくれます

    オンラインドッグセラピー中のタブレット画面。手づくりの「推しうちわ」を振って、画面の「にこり」に呼びかけてくれます

    入院中にセラピードッグに対してよい印象を持った子どもや家族たちはたくさんいましたが、ふだん見慣れない「犬」に対して少し距離をとり、実際に見ていて表情が硬いな、楽しめなかったかな、と思うような子どもたちも少なからずいました。

    ところが、入院中にはそんな遠くから見ていた子でも、退院後には「わんわん」とニコニコと入院中の思い出話をしてくれています。「そういえば、今日もわんわん来ているよ」と話しかけると、そのときの表情はみんな一様に明るく楽しそうになっています。

    そこで、はたと気づきました。セラピードッグが来る前は入院中の思い出話をしても、こんなにみんながよい思い出を同じように話すことはありませんでした。どこか「辛い治療を頑張った、できれば同じ思いはもうしたくない」そんな感じを受ける表情や発言が多かったように思います。

    もちろん、できれば二度と辛い治療に挑むのは避けたいと思っているでしょうが、思い出を楽しそうに話す子どもたちを見ていると、入院治療が辛い思い出でなく“「にこり」がいたことによって頑張れたあのときあの場所”となってくれているように感じています。

    画像: プレイルームに貼られた「オンラインドッグセラピー」の案内ポスター。セラピードッグのイラストと写真を見比べて、お気に入りをチェック

    プレイルームに貼られた「オンラインドッグセラピー」の案内ポスター。セラピードッグのイラストと写真を見比べて、お気に入りをチェック

    入院中にはその関わりがどうであったのか、子どもと家族にとって本当に「苦痛が少なく」治療を勧められたのか確かめる術はほとんどなく、本当によかったのか常に自問自答していました。

    しかし退院した後に「あの犬がいて、たのしかった、がんばれた、また会いたい」などの入院治療のよい思い出を多くの子どもと家族から聞く機会があり、セラピードッグの活動を進めて間違いはなかったと強く感じています。

    セラピードッグがもたらす本当のちからは、入院中だけの効果を期待する短期的な面だけではなく外来診療に移行した後にも効果が継続されるもの、そして入院治療後も続く治療をよりよくし続けるものであると実感しています。

    今後も継続してセラピードッグに訪問(オンラインでも)続けていただきたいと強く願っています。

    画像: 大阪母子医療センター・QOLサポートチーム、ドッグセラピー実働部隊のみなさん。下段左から3番目が平山先生

    大阪母子医療センター・QOLサポートチーム、ドッグセラピー実働部隊のみなさん。下段左から3番目が平山先生


    赤木 亜規子(あかぎ・あきこ)
    日本レスキュー協会でセラピードッグと一緒にお仕事しています。
    https://www.japan-rescue.com/
    インスタグラム:@japanrescue



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