やさしいミルクの風味を纏う、牛乳酵母パン
両親の実家が島根の奥出雲町で農業を営んでいたという店主、飛田憲彦さんにとって、島根の食材は幼少から慣れ親しんできた大切なもの。牛乳酵母を起こすのに使う木次乳業(島根県雲南市)のノンホモ牛乳も、そんな食材のひとつです。
「独立して店で牛乳を使うなら、島根の牛乳にしようと決めていました。伯父が酪農家で、木次乳業に牛乳を卸していたので、伯父に話を通してもらって。自然な流れでしたね」
そんな木次乳業の牛乳を使った牛乳酵母で焼き上げるのが、店一番人気の「食パン」です。北海道産小麦「春よ恋」を100%使用した生地は、キメが細かくしっとり。口に運ぶとミルクの香りがフワッと鼻を抜けていきます。
同じく牛乳酵母で焼き上げる「コッペパン」も人気で、プレーンのほかサンドイッチも用意されています。サンドイッチのフィリングはすべて手づくりされ、贅沢な味わい。なかでも「たまごサンドイッチ」には、自家製マヨネーズと、鎌倉・極楽寺にあるスパイス屋「アナン邸」のカレースパイスが使われ、まろやかなマヨネーズと個性的なスパイスの香りがマッチし、絶妙なおいしさです。
地域から慕われるお店に
店のホームページを持たず、SNSもやっていないという「ベーカリーミウラ」。パン屋さんでは、いまどき珍しいかもしれません。
「あまり手を広げ過ぎず、自分でできる範囲でやりたいといつも思っていて。だからお客さんの9割は地元の人たち。近隣のレストランにもパンを卸していますが、自分の口で説明して、理解してくれるお店だけに卸していますね。SNSなどで宣伝するのではなく、パンが雄弁に語ってくれるほうがいいかなって」と飛田さんは話します。
店の壁に目をやると、お店のシンボルの燕のマークがついたエコバッグが。紙製で温かみのある、かわいいバッグです。聞くと、小麦の袋をリサイクルしたもので、地域の特別支援学校の生徒さんたちが、ミシンで製作してくれているのだとか。
「授業の中でつくってくれていて、売上の半分をお渡ししています。納期には、いつも生徒さんと先生とで一緒に来てくれて、いい関係が築けていますね。作業の様子を何度か見に行っているんですが、一生懸命な姿に刺激をもらっています」
さらに店の入り口には、いくつもの紙袋が「ご自由にどうぞ」といった感で置いてあります。お客さんたちが家から持ってきてくれるものなんだとか。「こんなパン屋さんが、自分の街にもあったなら」、そう思わずにはいられない、地元の人たちに愛されるパン屋さん。ひと口食べれば、きっと虜になるそのパンを、どうぞ召し上がってみてください。
<撮影/林 紘輝 取材・文/諸根文奈>
ベーカリーミウラ
03-5834-8972
8:00~18:00 ※月曜のみ11:00〜18:00で、食パンと限定サンドイッチの日
火・水休み
東京都文京区千駄木2-2-15 原野ビル1F
最寄り駅:東京メトロ千代田線「千駄木駅」、「根津駅」