(『91歳。一歩一歩、また一歩。必ず頂上に辿り着く』より)
料理のことを考えている時間が、以前より確実に増えています
YouTubeチャンネルの「鉄人の台所」が、評判いいんですよ。かつて「料理の鉄人」でお世話になったディレクターさんから提案していただいた企画で、2020年12月に始まり、もう登録者数が10万人(※2021年12月時点)を超えたそうです。
それって、すごいらしいですね。そんなにたくさんの人が見てくださっているのかと思うと、がぜんやる気が出ます。
YouTubeでは、家庭で簡単にできる料理ばかりご紹介しています。忙しい主婦の方などに喜ばれていると思うと、新たな意義を感じますね。
今までにつくったことのないメニューのアイデアもどんどんわいてきて、それがまた楽しいんです。たいてい寝床の中で思い付くのですが、忘れないように必ずメモしておきます。
‟とっさの料理”は冷蔵庫にある食材を使って
撮影は、2カ月に1回くらい。だいたい7〜8品まとめてつくります。前の晩までに何をつくるか、家である程度考えてきて、撮影が始まる直前にスタッフと打ち合わせをしますが、撮影はぶっつけ本番です。試作をせず、初めてつくる料理もあるわりには、いつも美味しく出来上がります。
僕の料理は、‟とっさの料理”だから、周りの人たちは大変でしょうね。つくっている最中も突然アイデアがひらめいて、「あれはないか? これはないか?」って(笑)。「料理の鉄人」の撮影現場もだいたいそんな感じでしたから、何だか懐かしいですね。
普通の家庭の冷蔵庫にあるような調味料や簡単に手に入る食材を使いますが、アイデアには自信があります。
大根おろしにマヨネーズとレモン、砂糖を加えた「マヨおろし」なんて、自分でも驚く大発見でした。不思議なことに、混ぜると色が真っ白になって、きれいに仕上がります。何にでも合うし、すごく美味しいです。番組では、海老とブロッコリーに添えてみました。
食材の無駄を出さないよう、いつも残り物の処理の仕方を工夫しています。
揚げ物は、家庭ではなかなか大変だろうと思って、ちょっとの油で焼き上げる豚バラ肉の薄切りトンカツを考案しました。
これは、今世紀最大の発見と思うくらい、簡単で新しい料理です。カリッと香ばしくて、子どもにも年寄りにも食べやすい。僕も、家でつくります。
薄く小さく握った極小のおにぎりは、YouTubeで大人気だったため、店でも出すようになりました。
昔銀座のクラブなどで働いていたお姉さんたちが、お化粧した後で口紅を気にしないで食べやすいようにと考え出したおにぎりです。女房を介護していたときも、よくつくってやりました。口を大きく開けなくても食べられるからいいって喜びましたね。
「YouTubeを見た」と言って、「銀座ろくさん亭」に来てくれる人も増えました。店の役に立っていると思うと、うれしいですね。
料理の撮影があると、生活にメリハリが出るし、何より楽しい。料理のことを考えている時間が、以前より確実に増えています。
本記事は『料理人・道場六三郎/91歳。一歩一歩、また一歩。必ず頂上に辿り着く』(KADOKAWA)からの抜粋です
道場六三郎(みちば・ろくさぶろう)
1931年1月3日、石川県に生まれる。91歳。和食料理人。日本料理の世界に革命を起こし、テレビ番組「料理の鉄人」では斬新な発想で視聴者を釘付けに。1971年に開店した「銀座ろくさん亭」で、今も調理場に立つ。生き方のエッセイ『料理人・道場六三郎/91歳。一歩一歩、また一歩。必ず頂上に辿り着く』(KADOKAWA)を発売。
YouTubeチャンネル:鉄人の台所
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「91歳で現役で活躍する「和の鉄人」道場六三郎さんの生き方エッセイ。あまり悩まないことが、健康の秘けつ。一喜一憂しない。ストレスがない。人生、なるようになるさ。明るく前向きに生きるヒントが詰まった一冊です。