(『天然生活』2020年7月号掲載)
家庭でできる、簡易的なふき漆の方法
さらっとした質感、美しいつや、天然素材の心地よさ――。
漆芸家の室瀬智弥さんは、漆の魅力をそんなふうに語ります。
「縄文時代から現代まで変わらずに扱われている歴史的な面白さもありますし、耐水性や防腐性など、性能も優れている。木の樹液である漆の、生き物としての力強さに興味がつきません」
取り扱いが難しい漆は、教室などで教わるのが一番ですが、家で過ごす時間が多くなったいま、「漆を使って何か楽しんでいただけたら」と、簡易的なふき漆の方法を考えてくれました。
「漆を買う場所に悩まれる方は、堤淺吉漆店(https://www.kourin-urushi.com/)をチェックしてみてください。通販で購入できますし、親切に対応してくれます」
本来、何回も繰り返すことで色つやが増していくふき漆。今回のような1回塗りの場合には、木目を生かした味わいのある仕上がりを楽しみましょう。
梅雨から夏のジメジメした気候も、この湿度のおかげで漆が固まりやすいと思えば、少し前向きに過ごせそうです。
漆を扱う前の準備と注意
漆が肌に触れないように
漆が肌に触れるとほとんどの人がかぶれるため、作業をする際には長袖を着て手袋をはめ、長い髪はまとめて、漆に直接触れないように注意を。服につくと落ちないので、エプロンも用意して。
漆を固める室(むろ)を準備する
漆を塗った器やさじは、段ボールでつくった「室」の中に置き、ホコリをよけながら固まらせます。その際、側面を水で湿らせて湿度を高める。ふき漆の場合は、割り箸を置いてすのこ状に。
使い終えたものは処分
今回はプロセスを簡単にするために、筆や絵皿などを使い捨てできるもので代用しています。使用後は漆がついているので、周囲や肌に触れないように注意しながら、ゴミ袋に入れて処分を。
木さじにふき漆を
塗膜がはがれたカトラリーは漆を塗ってふき上げれば美しく丈夫に生まれ変わります。
材料と道具
• 直したい木製のさじ(事前に洗って乾かしておく)
• 生漆
• 総菜カップなど(絵皿代わり)
• 紙やすり(800番くらい)
• 木綿の布(ハンカチ2枚分くらい)
• 脱脂綿
• 輪ゴム
• 新聞など(作業台に敷く)
※ 必ず漆かぶれの対策をしての実践をお願いします。体調の悪いときの漆塗りは避けてください。
1 タンポ、あて布、ふき上げ用の布を準備
木綿の布を10cm角ぐらいにカットし、脱脂綿を包んで輪ゴムで絞り、タンポをつくる。残りの布は、あて布、ふき上げ用に適当なサイズにカットしておく。
2 やすりをかけて、油分を取り除く
表面が均一になるまで、さじにやすりをかけ、乾いた布でカスをふき取る。塗膜をはがすこと、また、木にしみこんだ油分をなるべく取り除くことが目的。
3 タンポに漆をふくませる
カップに漆を出し、タンポにふくませる。(カップは、総菜用やプリン用などをスーパーや100円ショップなどで購入する)
4 さじに漆を塗っていく
適宜、タンポに漆をふくませながら、さじに漆を塗っていく。塗り終えた部分をつかむときには、あて布をするとよい。
5 布に漆がつかなくなるぐらいまで、ふき上げる
漆をさじにすり込むとともに、余分な漆をふき上げる作業。布の面を替えながら続けて、布に漆がつかなくなったら終了。
6 2週間ほど固めて、1カ月してから使う
室の中に置き、封をして、漆が固まるまで2週間ほど待つ(高温多湿な時季の目安)。ときどき、側面や天井を水で湿らせるとなおよい。念のため1カ月ほどおいてから使う。
ガサガサのさじに漆を塗ってみました!
オイルがけをさぼった結果、ガサガサの質感になった無垢のさじでトライします。右は家族がカレーを食べてしまい、カレー色になった部分もあり。
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生漆は「東急ハンズ」で購入(これより小さい40gが1,100円)。タンポはさらし+コットンで作成、カップとやすりは100円ショップで間に合わせ。
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やすりをかけたあと、マイクロファイバークロスでカスをふき取るとスムーズ。塗り始めると、木肌がぐいぐい漆を吸います。ふき上げ後、室へ。
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仕上がり。
さじの先端など、もともと傷があった部分に漆が濃く入った様子。ムラはあるものの見違えるようにキレイに。家中のさじをふき漆にしたくなりました。
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<イラスト/はまだなぎさ 構成・文/石川理恵>
教えてくれた人
室瀬智弥さん(むろせ・ともや)
漆芸家として作品を発表。また、漆の学び舎である「目白漆學舎」の代表を務める。同舎では、初心者向けに金継ぎや蒔絵などの体験講座も開催。
http://www.urushigakusha.jp/
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです