• 美しい湖水地方で暮らす、エッセイストの麻生圭子さん。湖の景色の美しさは見飽きることがないといいます。夫と猫2匹と暮らす日々の出来事や、都会を離れていま感じることを綴ります。

    まずは自己紹介から。

    はじめまして。麻生圭子と申します。よろしくお願いします。若い頃は作詞家でした。30歳になってからは、主にエッセイを書く仕事をしています。

    でも今はほぼ隠居生活。

    理由はあるんですよ。

    たぶん10代の頃から進行性の感音性難聴を発症していたと思うんですけど、ついに音声での会話ができなくなってしまって。仕事にしていた音楽も、いまや雑音です。

    自分で叩くピアノも正しい音程(楽音)では聴こえない。

    音を大きくしたら聴こえる、と思うでしょ。これが違うんですよ。聴力というのは音量と音域でなりたっている。私は中高音域を失くしているので、それが顕著なのかもしれません。

    現在は身体障害者3級を所持しています。でもそれが不幸とは思ったことないです。ただ不便ではある。それだけのことです。

    湖水地方に住んでいます

    さて。6年前(もう、そんなになるんですね)から、日本の湖水地方(私が命名)に住んでいます。日本で一番大きな湖の西ほとり。

    この湖は毎日眺めても、飽きるということがない。風のない晴れた日には、湖はそのまま大きな鏡、水鏡になります。空を、太陽を、月、山、風、虹さえも映してしまう。

    本当に美しいんですよ。

    朝焼けひとつをとっても、毎日色が違う。その瞬間も、刻々と変わっていくから、心に留まる。留めようとする、そこが飽きない理由かもしれません。

    画像: 琵琶湖に映る虹

    琵琶湖に映る虹

    なぜ京都から滋賀県に越したんですか、とときどき訊かれます。

    京都在住の人と結婚(2回目だけど)することになって、じゃ、京都に住もう。と東京から移ったのが、30代後半でした。

    町家暮らしを始めて、キモノ着て、最後の10年くらいは大徳寺にお茶の稽古に通っていました。郷に入れば郷に従え。いまとは別人のような生活。都合、京都には18年もいました。

    画像: 京都時代の写真。こんな暮らしをしていたんですよ

    京都時代の写真。こんな暮らしをしていたんですよ

    そろそろ飽きたなあと思っていたとき、夫の都合でロンドンに移住することに。ラッキーでした。必要最低限の家具と荷物はトランクルームへ。あとはやさしく処分しました。

    飼っていた猫2匹は連れていきました。

    画像: ロンドンのStジェームズパークにて。うちの猫(まや)と、猫を撮影している私 (夫撮影)

    ロンドンのStジェームズパークにて。うちの猫(まや)と、猫を撮影している私 (夫撮影)

    2度目の海外生活。

    英国暮らしがあまりにも楽しくて、永住したいな、と私は思っていたのに、たった1年で帰国することに。アンラッキー。ま、人生はこんなものですよね。ラッキー、アンラッキーの繰り返し。

    帰国後は仮住まいをしながら、家探し。

    条件は、京都には戻らない。

    水が流れる場所。

    できれば湖畔。

    ロンドンではテムズ川のそばに住んでいて、それが心地よかったんです。橋に立つと視界が広がる。心が解き放たれる。生きていると、しがらみってありますよね。かの地ではそこから離れることができた。

    画像: ロンドン時代で毎日、見ていた景色、テムズ川

    ロンドン時代で毎日、見ていた景色、テムズ川

    いろいろ重なって、私、疲れていたんでしょうね。夫も同じだったのか、湖畔の小屋に住むということに意義は唱えませんでした。いつも意見、合わないのに(苦笑)。

    家探し。湖畔を求めて

    湖畔を求めて三千里。探しましたよ。富士五湖のあたりまで。

    でも決めたのは日本で一番大きな湖、琵琶湖の湖畔でした。比良山系が琵琶湖に迫る、湖西と呼ばれる地域。

    ほとりの小道が堤防代わり。その一帯は昭和40年代に開発された別荘地らしく、使われている様子のない、古びた保養所が並んでいました。

    「ここなんですけどね。この一帯は環境保護で、もう更地には家は建てられへんから (こんなボロ家でも)、お買い得ですよ。建て替えはできます」

    と不動産会社の人が薦めます。

    夫と顔を見合わせながら、あ、いいかも。ちょうどいい、と思いつつも、うーん、と渋い顔をしてみせる。

    半地下あり、ロフト付きの平屋。元別荘(法人の保養所)で、蔦が室内にも絡まり、庭はまるで湿地のよう。ほぼ廃屋です。

    ただ荒んでいるけれど、外観のデザインはカッコいい、と思う。ロッジというほど無骨ではなく、住宅というほどありふれてもいない。敷地は広いのに、家がコンパクトなのもいい。ここにしよう。

    おまけにこちらの言い値で売ってくれた。処分したいのに、ずっと売れなかったらしい。ラッキーでした。

    真冬にスケルトン状態からのリノベーション。屋根や上下水道、電気等の工事はプロに頼みましたが、あとは庭も外壁もデッキもセルフ。大工工事は夫がほとんどやってしまいました。

    一室に住みながら、少しずつ。私もしましたよ。ペンキ塗りと、壁のタイル貼り。面積が広かったので終わったころには、熟練のアマチュア職人にはなっていました。夫にも使える、と言われました。ちなみに夫は一級建築士です。

    東京では上を向いて生きていました。曲がりなりにも向上心をもっていたように思います。京都では奥を見ていた。奥を極めようと思ったのか。ま、予想通り、何も極められませんでしたけど。イギリスではキョロキョロ。

    画像: ウクライナカラー。ウクライナは小麦と空、淡海は米と湖

    ウクライナカラー。ウクライナは小麦と空、淡海は米と湖

    いまは360度のパノラマを眺めながら、暮らしています。

    明日より今日はいい日です。


    画像: 家探し。湖畔を求めて

    麻生 圭子(あそう・けいこ)

    作詞家として数々のヒット曲を手掛けたのち、エッセイストに。京都町家暮らし、ロンドン生活を経て、現在は琵琶湖のほとりに住む。



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