(『天然生活』2019年12月号掲載)
今日の始末は、今日のうちに
帰宅直後のたった5分が、心軽やかに暮らす秘訣です。
「帰ってきたら、椅子やソファにとりあえず座りたくなるけれど、その一瞬を、ぐっとこらえて」
ポストから取り出した郵便物を玄関でチェック。不要なチラシ、DM類は下駄箱の雑紙入れへ。必要な書類のみフォルダーに分類して投げ込む。続けてバッグから、財布やカードケースなどすべてを取り出して決まった場所に戻し、バッグも所定の位置へ。
これで、やるべきことはおしまいです。たった5分の作業で、空間も、気分もすっきり。知らずしらずにたまっていき、暮らしを重くさせている、“後回し”はありません。床に投げ出したバッグを見て見ぬふりをしながら……なんていう、もやもやを抱えつつのひと休みとは、段違いのくつろぎです。
「空間の見通しがよくなると、気持ちも自然と整います。見たくないモノが視界に入っていると、気持ちも落ち着かなくなってしまうんですね。すると、家族に当たってしまったり、満たされないから安物買いに走ってしまったり。それでは家庭の空気が悪くなるうえに、ますますモノが増えて、管理しきれず片づかない、の悪循環に陥ります。
家が散らかってしまうのは、日々の“後回し”を繰り返した結果ですから、まずは、そのループを断ち切ること。出したら、戻す。モノが戻るべき場所をつくれば、家は片づきます」
とはいえ、その“戻す”場所をつくることが難しいのです。モノにあふれた空間の中で、何を手放したらいいのか迷い、どれも大切なモノに思えてきます。
「まず、目の前の1カ所から始めましょう。下駄箱ひとつでもきれいになると、『私にも片づけられた』と達成感を得られます。そこからさらに1カ所ずつ、片づけていけばいいんですよ。あちこち手をつけず、1カ所をやりきって」
片づけで大切なのは、収納ではなく必要なモノだけを選び取る整理。それさえ終われば、9割成功。収納は、その仕上げにすぎません。
きっちり整理した時点で自分の暮らしの方向が見えてきているはずですから、あとは使いやすい場所に収めるだけ。本来は、収納に特別なグッズもテクニックも必要ないのです。
片づけると心が軽くなる。やがて他者を思うゆとりも
「手放すことが苦手な人は、やさしい人でもあると思うんです。モノを大切にしたい気持ちが強くて、たとえば『これは○○さんに頂いたモノだから申し訳ない』と感じてしまう。それならば、“処分する”と考えずに、“レギュラーのモノだけで暮らす”と、プラスの方向で捉えるようにしてはどうでしょう。決心できると少しずつ手が動くようになりますよ」
さらに、井田さんは続けます。
「やさしい人は、なんでも受け入れてしまうから、モノがあふれるだけでなく、人間関係も整理がつかなくなってしまうんですよね。他人の都合で動きがちで、自分の気持ちや欲求を抑えることが多くなってしまう」
家にあるすべてのモノを、取捨選択していく習慣をつけると、徐々に視界が広がります。すると、自然と心の視界も広がり、今までとらわれていたことから解放されて、人間関係もやわらかくなるから不思議です。
「片づけると、空間にも気持ちにも“余白”が生まれます。そしてそこは、新しい考え方を受け入れる場所になります。いままで握りしめていたモノを手放して、空いた部分を何かで埋めるのではなく、視界に余白をつくりましょう」
〈撮影/萬田康文 取材・文/福山雅美〉
井田典子(いだ・のりこ)
整理収納アドバイザー。横浜友の会(婦人之友 読者の会)所属。NHK総合テレビの情報番組「あさイチ」などで、“片づけの達人” “スーパー主婦”として紹介され、話題となる。著書に『「ガラクタのない家」ー幸せをつくる整理術』(婦人之友社)など。
https://idanoriko.jimdo.com/
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです