セルフリノベーションに挑戦して
雑誌やインスタで、素敵なキッチンを見ると、ちょっと凹んでしまう私です。ま、一言で言えば、わが家は配置がよくない。収まりきれてないのです。
新築ではなく、中古別荘(70年代のビンテージ)からのリノベーション。
付いていたキッチンはすべて撤去。スケルトン状態にしてから、夫とふたりでつくっていきました。セルフリノベーションです。
だからいろいろあるのよね。そのひとつが、業務用のガスオーブンを買ってしまったため、コンロ下のスペースに入らなかった。そのために単独で置くはめになってしまったんですよ。
本当はシンクやテーブルも業務用を検討していました。でもカタログを見ると、ガタイがよすぎる。デザインより機能性が最優先されている。あたりまえですけどね。
で、最終的にこっちにする、と選んだのが「サンワ」のフレームキッチン。全面部分もステンレス、収納がほとんどない代わりに、華奢でシュッとしているんてです。
業務用がアスリートなら、これはモデル体型です。私好みでした。ガスオーブンが入らなかったけど。
それと本当はアイランド型にしたかったんですよ。でも前の配置(中古の別荘)がI型で、これを変えるとなると、配管工事がいろいろ面倒、と夫に言われ、あえなく撃沈。
食器棚もない。買うつもりない。お鍋はどこに置くの? でもいい具合に、キッチンが出窓になっていた。よし、ここに足場板を重ねよう。支柱はビンテージの煉瓦。
衛生面はどうなのよ、という考えは、いい加減なわが家には存在しない。小さな子どもがいれば考えますが、うちは夫婦2人と猫2匹。夫も猫も反対しませんでした。
施工時間はたぶん半日くらい。担当は私。背面のペンキやタイル貼りも。だから雑もいいとこです。でも『天然生活2021年6月号』の表紙を飾りました。
夫がびっくりしましたけど。でもやっぱり配置は悪いのは確かです。もうひとつ、キッチンの配置を大きく邪魔しているものがあるんです。
ロフトに渡した大きな脚立。何故にこんな脚立をここに置かねばならぬのか。本来なら、ここに棚が置けました。ロフトは階段が付いていないのです。あるのは垂直の梯子。人間はこれでいいけれど、猫はムリです。でも猫にもロフトを使わせてあげたい。猫は垂直な動きを好みます。
そこで買ってきたのが、ビンテージの大きな脚立でした。ベルギー製だったかな。
そこに足場板(大量に購入したのです)をかけて、猫用の階段兼キャットタワーをつくりました。
人間はこれを棚として使う。
ここもキッチン関係のものを置いています。いちばん下はストレージになっています。そしてここにTの字にビンテージの板を渡して、テーブルにしました。そんな理由で、わが家には見せる収納しか選択肢がなかった。ショップのように並べるしかないのです。
これでも若いころはケトルひとつ出ていない、スッキリしたキッチンだったんですよ。うーんと昔の話ですけどね。いまでも冷蔵庫の中もがらんとしているのが好きです(毎日、買い物に行き、使い切る、という生活です。つくりおきはしない)。
でもそういう暮らしをしんどいと思うようになってしまったことに気づきました。手を抜いても、片づけがテキトーでも、気にならないキッチンがいいなあと。風が通り抜けていくキッチン。センスのいいキッチン。
これまでオーブンと冷蔵庫の位置を2回、動かしています。もう試行錯誤の日々なのです。完成形にはならない。ガスオーブンが邪魔だし、モノが多い。夫からも言われるのです。多すぎる。
それをカッコよく見せるとか、ムリ。再リノベーションしないとムリ。と、開き直っていたとき、見てしまった理想のキッチン。知り合いのショップに遊びに行ったら、自宅にも入れてくれて。
はじめて見ました。キッチン、ダイニング、リピングが広々のワンルーム。確かダイニングテーブルとキッチンテーブルがいっしょだった気がします。
ロンドンで借りていた部屋がこのタイプだった。下には食洗機と洗濯機が入っていた。
横長の窓からは樹木しか見えないんですよ。衝撃を受けた。カッコよくて。でもね、モノはばんばん出ている。レンジフードの上にもモノが置いてあった。おお、うちといっしょだ。でもセンスは違う。
写真を撮りたくなるほど、カッコいいのに緻密な計算が透けてこない。生活感がちゃんとあるんですよ。力強いキッチンなんですよ。
今回、気づきました。あのキッチンにはセンスを凌駕するほどの、モノへの愛があるんだと。どうでもいいモノは一つもない。
それがモノに力を与えている。力があるから、カッコよく見える。私にないのはそれです。
好きではないものまで置いてしまっている。好きでないものは、たとえブランドものでも置いてはいけない。
力強いキッチンをつくろうと思います。
麻生 圭子(あそう・けいこ)
作詞家として数々のヒット曲を手掛けたのち、エッセイストに。京都町家暮らし、ロンドン生活を経て、現在は琵琶湖のほとりに住む。