太陽熱で沸かしたお湯を試飲。そのお味は?
「この家は、“電気の自給自足”がコンセプトです」と話すのは、埼玉県川口市の30坪の敷地に、夫と2人の子どもの4人家族で暮らす自宅兼事務所を建てた新井かおりさん。
屋根には太陽光発電パネルを載せ、つくられた電気を蓄電池にためて、家族4人の生活をまかなっています。

屋根の上には太陽光発電パネルと太陽熱温水器が設置されています。「こんな街中の住宅で、電気やお湯をつくっているなんてなんだかすごい!」と感心する田中さん

田中さんが手に持っているのは、太陽の熱でお湯を沸かしたり調理したりできる「エコ作」というソーラークッカー。

「太陽の熱で沸かしたお湯はまろやかでおいしいんですよ」と新井さんに勧められ、さっそく「エコ作」で沸かしたお湯とガスで沸かしたお湯を飲み比べてみました。
「正直、半信半疑だったけど、全然違いました! トゲトゲしていなくて本当にウマい。なぜだろう? 不思議だけど、災害時にも役立ちそうですね」と田中さん。
電気の自給自足を目指すきっかけは3.11だった

続いて田中さんが向かったのは1階にある新井さんのアトリエ。
“電気の自給自足”を目指すようになったきっかけについて尋ねると、「きっかけは、3.11でした。電気はやっぱり必要だけど、原発などに頼らざるを得ない暮らしって、とても脆弱だと思ったんです。調べてみると、遠くの発電所から運ばれてくるときの送電ロスもある。日々降り注ぐ太陽エネルギーを使わないのはモッタイナイから、街中の普通の住宅地に小さい家を建てて、電気を自給自足することにしたのです」(新井さん)。

新井さんのお宅では、玄関前に蓄電池のシステムを設置するスペースを確保しました。
「なるほど、これを置く場所さえつくればいいんですね」と田中さん。「これは鉛蓄電池なんですが、リチウム蓄電池なら、少しお高いですがもっとコンパクトです」(新井さん)

アトリエの壁に設置されたモニターで発電や売電の状況などを確認してテンションがアップする田中さん
人体や地球環境に負担が少なく、快適に過ごせる建材を

住宅に使用する建材も、人体や地球環境に負担が少ないものが使われています。
「ルナファーザー」という紙のクロスやシラスを原料とする「中霧島壁」などを採用しました。また、木を原料とした断熱材や木製サッシなども使用しています。
「子どもの健康のためにも、建材選びにはこだわりました。この家に使われている建材は空気を通すので家自体が呼吸しますし、廃棄する際には燃やせばエネルギーになる。家づくりはトータルで考えなければいけないと思います」と新井さん。

新井さんのお宅で使用している木の断熱材のサンプルからは、ほんのり木の香りが漂ってきます。「ふわふわで、触り心地もやさしいですね」と田中さん
限られたスペースを有効活用する工夫もいっぱい

間取りをあまり限定せず、ゆるく仕切ることでコンパクトなスペースを有効活用する工夫も、この家のみどころのひとつ。2階には、多目的に使える広いロフトを設けています。

キッチンの上に設けたロフトの小窓から顔を出す田中さんと新井さんの長女

こちらは階段を挟んでLDKとつながる寝室。「この家は結露がなく、壁が調湿してくれるので、洗濯物が気持ちよく乾くのが自慢(笑)。ロフトの手すりは物干し兼用です」(新井さん)

寝室から、はしごでアクセスするロフト。手前は長女の部屋になっていて、寝室とつながる空間でありながら、適度なこもり感も楽しめます。奥のLDK側は大容量の収納スペースとなっていて、衣類をはじめ、さまざまなものをたっぷり収納できます。
「太陽熱で沸かしたお湯もおいしかったし、発電や売電の状況がわかるモニターも、テンションが上がりました! 我慢するのではなく、自分らしく楽しみながらエコな暮らしをしているのがいいなと思いました」(田中さん)
〈撮影/水谷綾子 取材・文/松浦美紀〉
田中卓志(たなか・たくし)
1976年広島県生まれ。広島大学工学部第4類建築学科卒業。お笑いコンビ「アンガールズ」として活躍中。大学では建築の構造を研究し、得意分野は日本建築。建築関連の番組へのゲスト出演も多数。
新井かおり(あらい・かおり)
一級建築士事務所Atelier Bio(アトリエ ビオ)代表。環境と人に配慮した「少ないエネルギーで気持ちよく暮らす家」を数多く手掛ける。
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住宅雑誌『住まいの設計』で2018年からスタートした連載「家好き芸人 アンガールズ・田中が行く!建築家の自邸探訪」が1冊の本になりました。田中さんが訪ねた個性豊かな20軒のお宅をまとめて見られるだけでなく、田中さんの素顔に迫る新規記事も充実しています。