(『天然生活』2021年2月号掲載)
枝元なほみ(えだもと・なほみ)
料理研究家。日本の農業を応援する一般社団法人チームむかご代表。2020年より、「夜のパン屋さん」を運営する有限会社ビッグイシューで共同代表となり、提携するパン店との交渉役も務める。
料理研究家 枝元なほみさん
循環の輪っかのなかに自分たちも居ることを意識する
ホームレスの方たちの自立支援活動をしているビッグイシュー日本が、東京・神楽坂で始めた「夜のパン屋さん」では、提携するパン店でその日、残りそうなパンをお引き受けし、販売しています。
パンのピックアップや店頭での販売を担っているのは、ふだん、ビッグイシューが出版する雑誌の路上販売員をしている生活困窮者の方たちです。
コロナの影響で雑誌の売り上げが大幅に落ちたため、新たな収入源として創出した仕事であり、食品廃棄の問題に取り組む事業でもあります。
この事業に関わるなかで、フードロスとは何なのかと改めて考え、「人の都合じゃん」と気づいたとき、当たり前とはいえ捨てられるなんて思ってもいないパンと、ビッグイシューの販売員の方たち、派遣労働で困窮している方たちのイメージがだぶりました。
経営都合だとか利益を上げるためだとかの理由で、いわば使い捨てられてしまう立場の方たちだからです。
ただ、私たちが提携しているのは、大量に製造し、大量のロスを出す大型チェーン店ではありません。ふだんからできるだけロスを出さないようにと考え、「◯◯さんの小麦でつくったパンを捨てるなんてできないっすよ」なんておっしゃる、信念をもった個人経営のお店です。
それでもなお残ってしまうパンをお引き受けするわけですから、私たちは、いわば「夜の販売担当」であり、使いきり、食べきり、食べものの命をまっとうする仕事なんだというプライドをもってやりたいと思っています。
いまの社会が生み出す大量のフードロスは、「安くて便利」にプライオリティをおきすぎる私たち消費者の問題でもあるんですよね。
そのニーズに合わせるため、たとえ体に悪くても、環境負荷が高くても……という効率重視の生産や製造に傾いていけば、それは未来の子どもたちにツケとしてごみを残していくようなものです。
自分たちも循環の輪っかのなかに居るという当事者意識をもち、考えて選択していくことが大切です。
とはいえ、私たちが販売しているのはおいしいパンですから。教条的に伝えようとは思っていません。「このあいだ買ったあのパンがおいしかったの。きょうもある?」といって足を運んでいただければ、それでいいと思っているんです。
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〈構成・文/保田さえ子〉
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです