妖怪「肩車ばばあ」に導かれた先は……
仕事終わりに、いつもならまっすぐ家に帰るのですが、その日は何か乗っけて帰ってきているような気がして、コーヒーでも飲んでから帰ろうと思いました。
別にいつもどおり仕事したんです。なのに、なんかモヤっとしているような、ずしんと身体が重いような感じがあってすっきりしないんです。
昔の人は、こういうのを妖怪に仕立て上げたのかもしれませんね。「肩車ババア」みたいな名前で。
言ってみれば、ただのクールダウンなんですが、とにかくコーヒーを飲もうと決めました。しかも黒い飲みものは魔除けにもよさそう。妖怪にも効きそう。そうだそうだ。
せっかくだから行ったことないところへと思い、近所に最近できたカフェ「Stranger」に寄ってみました。
青を基調としたおしゃれなカフェで、店主のこだわりが垣間見えます。きっと映画好き。壁には映画のポスターが貼ってあるし、映画のフライヤーもたくさん置いてある。
それを持って帰ろうと席を立ったら、ぎゃあ! 壁から人がわらわらと出て来くるではないですか。な、なにごと?
説明しますと、実はここはミニシアターに併設されているカフェで、壁だと思い込んでいた扉の向こうには映画館があって、そこから映画を観終えたお客さんが出てきた。というわけなのです。
こんなご近所に映画館が。それを知った時のワクワク感といったら、子どもの頃、通学路の途中で駄菓子屋を発見した時くらいの興奮です。
「肩車ババア」の存在も忘れて、意気揚々と家に帰りました。
ホームページをのぞいて知ったのですが、こちらの映画館はクラウドファンディングでできたそうなんです。映画好きな人たちの情熱があってのことなんだなぁと、胸が熱くなります。
そして後日、観に行きましたよ。その日私が観たのは、ドン・シーゲル監督の「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」という1965年の白黒のアメリカ映画。
恥ずかしながら、監督も知りませんし、白黒映画は黒澤明監督作品しか観たことがありません。寝ちゃったらごめんなさい。と思っていました。ところが予想を裏切り、とっても面白かったんです。
ストーリーもさることながら、女優さんの美しさ、俳優さんの演技、その時代のアメリカの空気、ファッション、インテリア、画面の至る所に新鮮な発見があって、あっという間に時間が経ってしまいました。
ああ、いいとこ見つけちゃったなあ、ご近所割引きもあったし、普通の映画館じゃ観られない作品ばかりやっているし、これは宝探しみたいでやみつきになりそう。と、大満足で映画館を後にしました。
もしかしたら、妖怪「肩車ババア」は、「世の中いろんな面白いことがあるぞぉ。こっからは見えるぞぉ。」と私の肩に乗りながら、そんなことを教えてくれていたのかもしれません。
いい妖怪ですね。
白鳥久美子(しらとり・くみこ)
1981年生まれ。福島県出身。日本大学芸術学部卒。2008年に川村エミコとたんぽぽ結成。10年、フジテレビ系『めちゃ2イケてるッ!』の公開オーディションで新レギュラーの座をつかみ一躍人気者に。コンビとしての活動に加え、テレビ、ラジオ、ドラマ、舞台など多方面で活躍中。趣味は、散歩、高圧電線観察、シルバニアファミリー。特技は、詩を書くこと。唎酒師(日本酒のソムリエ)の資格ももつ。