(『ひとつずつの色 ひとつずつの形 ひとつずつの生き方 リップル洋品店の仕事と暮らし』より)
小屋もテラスも手づくり。自然との調和を感じられる空間に
桐生の町が一望できるこの家に6年前、引越し、ガレージを改装した小さな空間でアトリエショップを開いていました。ところがコロナ禍で、そのスペースでは密が避けられないため、もう少し広い、風通しのいい小屋をつくることにしました。
昨年、京都の妙心寺(みょうしんじ)で禅に触れる機会を得たこともあって、「削ぎ落とされた美」の小屋にしたいと考えて。全体は黒一色にし、余計なものは一切つけず、格子窓を設けました。
この格子窓によって風がよく通るだけでなく、季節によって、時刻によって、差し込む太陽の光が変化する。そして、黒一色の小屋から外に出ると、周囲の緑がさえざえと目に入る。そんな自然との調和をお客さまたちに味わってもらえたらと思っています。
のれんに使ったのは、ラオスの少数民族の村を訪ねたときに譲り受けた手つむぎ、手織りの麻布。素材の表情と色が雰囲気を添えてくれています。
テラスは、子どもたちも大きくなってきて、リビングが狭く感じるようになったので、アウトサイドリビングがあったらいいね、という話になり、家の前の庭につくりました。
僕と息子の男4人で数日がかりで完成。ここで炭火焼きをしたり、お茶をしたり、野外の食事は日常のなかで小旅行気分を味わえます。久美子は、朝日を浴びながら、ここで瞑想をしたり、みんなそれぞれ寝転んで雲の流れを眺めたり。
最近の家族のお気に入りは、夜、テラスの横の漆喰壁(しっくいかべ)をスクリーンにして、野外シネマを楽しむこと。これがまた、最高の時間なんです。
菜園はフレッシュな野菜だけでなく、服の新鮮なひらめきも生んでくれる
食材は、できるかぎり、きちんとした思いをもってつくっている生産者の方から買いたいと思っていて、信頼できる店に行ったり、インターネットでお取り寄せをしたりしています。
野菜は、結婚した当初からずっと自宅の庭でつくってきました。子ども3人が小さかった頃は買い物に行くのも大変だったし、子どもたちが大きくなってからも、わざわざ買いに行かなくても、一歩、庭に出れば野菜があるのはすごく便利。ご近所さんでも野菜をつくっている人が結構いて、おすそ分けも多いんです。
いま育てているのは、ラディッシュ、ブロッコリー、キャベツ、なす、ビーツ、パクチー、セロリ、ピーマン、パプリカ、枝豆、ズッキーニ、バジル、しそ。
変わったところでは、スイスチャードという、茎がカラフルなレタスみたいな野菜とか。子どもがお菓子づくりで使うので、エディブルフラワーも栽培し始めました。
服のイメージをふくらませたり、アイデアを練ったり、考え事をしているときに、庭仕事はぴったり。
水をまいたり、枯れた葉をつんだりしながら、頭のなかでは服のことをあれこれ、あれこれ考える。そして、ピンときたりする。
菜園は、フレッシュな野菜だけでなく、服の新鮮なひらめきも生んでくれる場所なのです。
本記事は『ひとつずつの色 ひとつずつの形 ひとつずつの生き方 リップル洋品店の仕事と暮らし』(清流出版)からの抜粋です
岩野開人(いわの・はるひと) 岩野久美子(いわの・くみこ)
群馬県桐生市で、夫婦でRIPPLE YōHINTEN( リップル洋品店)を営む。毎月1日~7日のアトリエショップでは、すべて手づくり、1点ものの色とりどりの衣服が並び、日本各地や海外からも注目を集める。
インスタグラム:@ripple_yohinten
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1か月に7日間だけ開く、山の上の洋品店「リップル洋品店」。 1着1着、夫婦でつくる、色とりどりの服。自分たちらしい生き方、暮らし方、働き方を紡いできた日々の物語です。