(『ひとりサイズで、きままに暮らす』より)
歳を重ねて不安なのは、お金のこと
ひとり暮らしを確かなものとするには、とにかく経済的自立が欠かせない。
先日、これまで働いて定年を目前に控えるという人から質問があった。
「私は来月から月11万の年金生活に入るが、年収が少なく、今後とも働き続けなければならないと思うと不安です。貯蓄も2000万ないと余裕のある暮らしはできないと巷では言われています。年金が少なくても、楽しく暮らせるアドバイスをお願いします」とのこと。
私の答えは、「不安がる前に、自分の暮らしについて分析を。どんな暮らしをしたいのか、どのように経費をかけるかを考えて、いざというときの積立などを把握すること。私の場合は年金月5万だから、働いて暮らすしかないのと、幸い働くのが好きだから、身体が動くうちは働く選択をしている」である。
その後、私の本を読んだその方からは、「本の中に、70歳で3000万の貯蓄をしておきたいと書いてあり、う〜んと目が止まり、かえって不安になった」と返事があった。
必要な貯蓄額は人それぞれ
経済的自立の価値観は人それぞれだが、最近、単純に貯蓄額だけを直視しがちではないだろうか。
私が考えた貯蓄金額の3000万とは、「身体がまったく動けなくなってから死までに必要な金額」である。死までにかかるお金さえも自分で確保した「完全自立」をしたいと私は考えたからだ。
この数字は、友人の母親が寝たきり状態になり死に至るまでの金額から計算したものだ。 10年間で1000万だったという。
この死までの経済については、いつ、どうなるかなどわからないことであるから、誰しも考えたくはないものだ。でも、経済的自立を目指すのなら、考えなければいけないことでもある。
こうした情報は、とかく金額だけがひとり歩きしてしまっていると思う。 情報の条件を見落としがちではないだろうか。
都合の良い情報だけではなく、不都合な情報にも目を向ける
数字だけではなく、背景を考え、活かせる情報なのか、活かせない情報なのかを見極めることが大事なのだ。
それには自分にとって都合のいい情報だけでなく、不都合な情報も合わせて見極め、その上で判断すべきである。
先ほどの方の場合、年金が月11万なら寝たきりでも貯蓄金額は2000万もいらないと思う。私の場合は月5万だから必要なのだ。
私が考える経済的自立とは、死までの経済のことを指している。
この先には定年後の夢物語だけがあるのではなく、「生老病死」が、つまりここから先には老病死が待ち受けている。
これを忘れたくはないし、その上で楽しい暮らしをしていければいいと思っている。
本記事は『ひとりサイズで、きままに暮らす』(だいわ文庫)からの抜粋です
〈イラスト/樋口たつ乃〉
阿部絢子(あべ・あやこ)
1945年、新潟県生まれ。共立薬科大学卒業。薬剤師の資格を持ち、洗剤メーカー勤務を経て、生活研究家・消費生活アドバイザーの経験を活かした、科学的かつ合理的、環境に配慮した生活全般にわたる提案をしている。また、世界各国の家庭にホームステイをし、その国の暮らし・家事・環境などを研究している。薬剤師として、現在も調剤薬局で働いている。主な著書に『キッチンに一冊 食べものくすり箱』(講談社+α 文庫)、『「やさしくて小さな暮らし」を自分でつくる』(家の光協会)、『ぶらり、世界の家事探訪 ヨーロッパ編』『老親の家を片づける ついでにわが家も片づける』(ともに大和書房)ほか、多数。
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