(別冊天然生活『大切な人への贈りものとお取り寄せ』より)
相手の喜ぶ顔を思い浮かべながら、そのとき届けたいものを贈る
「私が贈りものをするときは、その方の顔が浮かんだとき。自分がその方に届けたいと思うものを、そのときにお贈りするようにしています」
ウー・ウェンさんは、そんなふうに自身の贈りもののルールを教えてくれます。
日本では、お中元やお歳暮といった贈りもの文化が根強くありますが、「中国では季節ごとに贈りものをする風習はありません。日本のしきたり文化のひとつとしてリスペクトはしていますが、私自身は昔からお中元やお歳暮を贈ることはしていません。それよりも、私が大事にしているのは、もらってうれしいと思ってくれるものを選んで贈ることです」
確かに、季節のあいさつとはいえ、形式にとらわれすぎると贈りものの本来の意味が薄れてしまいます。
「堅苦しい贈りものをするよりも、日常生活のなかで、『あ、季節のおいしいものが出てきたな、これはぜひあの方に食べていただきたい』という想いを届けたいですね。大切な人をいつも心に置いておくことで、ものだけではない、そんな小さな気持ちを一緒に届けたいと思っています」
そんなふうに相手を想う気持ちがあるからこそ、その人が好きそうなものに偶然出合うと、その喜ぶ顔が浮かんで思わず贈りものをしたくなるのだと、ウーさんはにこやかに語ります。
家族からの贈りものと、家族への贈りもの
そして、やっぱり特別な気持ちになれるのは、家族からの贈りものです。
「同居している娘からは、誕生日に食事に誘ってもらいました。一緒の時間を共有できることが、私にとってはかけがえのない宝ものです」
一方、息子さんはコロナ禍で人と集まる機会が減ったウーさんを気づかい、日常に潤いを与えてくれる品を。
「私はふだん、入浴剤を使わないんですが、ストレス解消と癒やしを与えてくれる入浴剤をプレゼントしてくれました。一緒にもらったのが、北京をイメージしたディプティックのフレグランスキャンドル。コロナ禍で中国に行けない私を想いやってくれたんでしょうね。でも、このプレゼントをくれたのは、誕生日をずいぶん過ぎてから。突然連絡が来て、自宅のリビングに箱を置いたからって。そんなぶっきらぼうなところも息子らしいな、と(笑)」
息子さんからは、違うタイミングでも素敵な贈りものが。それは「リモア」で手に入れた、スーツケースに貼るステッカーです。
子どもたちが成人してようやく旅に出かけるようになったウーさんに、「旅を楽しんで」という想いを込めて、ウーさんが訪れた国々のステッカーをプレゼントしてくれたそう。
「行った国を覚えていてくれたのもうれしかったですね」
ウーさん自身も子どもたちの誕生日には素敵な贈りものを送っています。それは、誕生日の生まれた時間ぴったりに贈るメッセージです。
「大人になった子どもたちに、いまさら“もの”を贈るということは、ありません。それよりも『あなたたちが生まれた瞬間をいまでもちゃんと覚えているよ』と伝えたいと思っています。そんなシンプルな気持ちの贈り合いを大切にしていきたいですね」
大切なだれかが喜んでくれることで、自分の心にも温かいものが広がる。ウーさんの贈りものストーリーには、そんなやさしい気持ちがつまっていました。
<撮影/星 亘 取材・文/工藤千秋>
ウー・ウェン
料理家。北京生まれ。1990年に来日。母親から受け継いだ小麦粉料理が評判となり、料理研究家の道へ。中国の家庭の味を日本の素材で手軽につくるレシピを紹介。『10品を繰り返し作りましょう』(大和書房)など、著書多数。
※記事内の情報は取材時のものです
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