(『70歳からの軽やかな暮らし』より)
自分に合った脳トレを探す
他界した義姉は身内の誕生日を記憶する人でした。
家系図が頭に入っていて玄関の外から「智子さ〜ん、今日は◯◯伯母さんの誕生日よ」と叫びました。続けて伯母一族、姪孫の誕生日まで連ねます。
「今日は亡くなったお義父さんの誕生日だから大好きだったお店のシュークリームを買ってきました」と我が家の分を持ってきてくださいます。
そして、同居家族である姑、夫、自分、子ども達の誕生日を連ねます。
私の誕生日には「智子さ〜ん、お誕生日おめでとう」の後に夫と息子の誕生日です。「どうしてですか?」と訊いたら「忘れないために」と答えました。
「智子さんに言うのは、あなたは聞いてくれるから。独り言じゃあ忘れちゃうの。いつも私の頭の体操に付き合ってくれてありがとう」と朗らかに笑いました。
だれかに喜んでもらえるための脳トレ
「ぞうさん公園きれいになったわよ。富士山も望めるし、広々と気持ちいいわ」と教えてくれたのはスーパーへの途中でよく行き会う少し年上のPTA仲間だったIさん。
つぎに会った時に「ぞうさん公園、行きました。これから木が育つともっともっと緑の美しい公園になるのでしょうね。時々散歩に行きます」とお礼を言いました。
「石黒さんに喜んでもらえてうれしいわ。今度会ったときのために情報を集めておくね。脳トレになるから」と言いました。
だれかに喜んでもらえるための脳トレ、という考え方は素敵ですね。
結婚して岡山に暮らす従姉妹は、独身時代に飯田深雪さんの教室でアートフラワーを習いました。子どものころから手先の器用な人でしたから、布のカットから染色もすべて自分でするプロ級の腕前です。
あるときポリプロピレンの衣装ケースが届いて、中にはバラ、スイートピー、ワスレナグサ、デージー、カスミソウなど見事な出来映えの造花がびっしり。義姉と分けて部屋中に飾りました。
続けているのは脳トレもあるけれど、差し上げると喜んでくださる方がいるから励みになるのと電話の声が、昔とまったく変わらずやさしい。
ひとそれぞれの脳トレです。私も脳を意識して暮らさなければならない年になりました。苦手なことを頑張る脳トレはしたくない。テストはもってのほか。
23年目のホームページ[石黒智子の一日一文]の毎日更新は今や脳トレです。スーパーで「読んでいます」と声を掛けられるとうれしい。
庭に花を育て、家族のために食卓に飾るのは花の名前を忘れないための脳トレ。家族が「えっ、庭の花なの?」と驚く顔を見るのが楽しい。
家事をいかにラクにするかを考え、道具を手作りするのは脳トレ。いつか商品開発の仕事に繫がるかもしれない、と夢を見る。
クリスマスプレゼントを選ぶのは脳トレ。自分のものを選ぶより楽しいのは喜ぶ笑顔が浮かぶから。
本記事は『70歳からの軽やかな暮らし』(PHPエディターズ・グループ)からの抜粋です
〈撮影/石黒智子〉
石黒智子(いしぐろ・ともこ)
神奈川県在住。キッチン道具や器、生活雑貨など、デザイン・機能ともに優れた商品を見つけ出す名人として、数多くの雑誌などで提案している。台所用品の商品開発、商品評価の仕事でも活躍。2001年には自身のサイト「石黒智子のLife Style」を開設。商品開発を手がけた「亀の子スポンジ」(亀の子束子西尾商店)は記録的なヒットとなり、「日本パッケージデザイン大賞2017」で大賞を受賞する。おもな著書に『小さな暮らし』『60代シンプル・シックな暮らし方』(ともにSBクリエイティブ)、『捨てない知恵』(朝日新聞出版)、『探さない収納』『少ないもので贅沢に暮らす』『わたしの台所のつくり方』(いずれもPHP文庫)、『60歳からのほどよい暮らし』(PHPエディターズ・グループ)など。
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