(『おいしい朝の記憶』より)
忙しい朝の時間をぬって
毎朝、5時に起床する。
手早く身支度をして、まずは土鍋でご飯を炊き始める。
ご飯を炊く間、6時くらいにはおかずを作り始め、
だいたい7時10分には家を出る。
家を出るまでのわずかな時間にインスタの写真を撮影。
わたしの朝ごはんはお弁当を作っている間に
立ち食いすることが多い。
という飛田さんの朝は慌ただしい。
忙しい朝を乗り切るワザはあるのでしょうか?
朝を乗り切るワザ
うーん、ワザなんてないんです。強いて言えば不便な地に住まいを構えているものですから、何か足りない、これがないと作れないってことは考えない。買いに行っている時間にこしらえられるものがあるはず、という考え方でしょうか。
じゃがいも1個あったなら、卵1個あったならと、あるものでなんとか拵える術はこの十数年のお弁当作りで鍛えられました。もちろん買い物に行けば、肉をまとめ買いして下拵えし、冷凍庫に入れておく、野菜は買ったら茹でておく、切っておくなど時間の余裕があるときにしておくなど、少しずつごはん作りの準備をためておく。それはお弁当に限らず必ず日々の献立の助けになることが身にしみてわかっているから、すき間時間の台所仕事は大切にしています。
たとえばにんじんを千切りにした際に最後のほうが切りにくくなる。そこを無理に切って時間をかけるより、切りやすいカタチで切っておく。千切りは塩を軽くふっておき、別のカタチに切ったにんじんは出汁で煮ておくとか。これは牛蒡や蓮根など硬めの根菜類を切るときのわたしなりのやり方。
端っこって切りにくいから無理なことはしない。長ねぎの白い部分はよく使うけど、青い部分はそのままにしておくと使い勝手がないから粗みじん切りにして醤油と合わせてねぎだれを作っておいたり、玉ねぎも半分残ったらそのままにせず、薄切りにして甘酢に漬けておくなどなど、ついでの作業を積み重ねていく。
朝ごはんとお弁当の同時進行も、30分くらいで両方を仕上げることも、この積み重ねのおかげで成り立っています。ときにはそれらの手助けがまったくなくて、一から作ることだってあります。ずっと続けてきたことですから、その日その日でできる限りのことをすればよいと思えるようになっていました。
以前は朝起きてぱっと冷蔵庫を開けて、「今日はこれ作ろ」ってすぐに動けたんですが、最近は朝台所に立って「えーっと何作るんだったかしら」と一瞬戸惑うこともあって、前の晩に冷蔵庫の中をぐるりと見て、おかずリストをメモ書きするようになりました。メモしておくって心強いんですよ。あれこれ考えなくても動けますから。
朝はまず、白湯を沸かすと同時にご飯を炊き始めて、白湯を飲みながら頭をしっかり起こして、果物を切り、おかず作りに進む。果物を最後にすると忘れがちなのでそういう順番になりました。炊きたてのご飯を詰めて冷ましながら、果物を詰め、メインのおかずを冷まして詰め、すき間に副菜を詰めていく。
お弁当作りの合間に朝ごはんの準備。お弁当のご飯やおかずを冷ましている時間って結構ありますから、合間も手を動かし続けます。
長いお休み明けは箸や水筒を忘れがちだから、前の晩にメモと一緒に置いておく。失敗があってもやりきって送り出せば、達成感に包まれる。毎日今日も無事送り出せたって思えるなんてなかなかない経験じゃないかしら。もちろん疲れたー、眠ーいは当たり前。それを達成感に変えてくれたのはインスタだったかもしれないなって思います。
それと、もうひとつの達成感は限られた時間内だからこそ生まれるエネルギーってこと。「あーこれしかないけどどうしよう」ってときの決断力がつき、新たな味が誕生したり、いつもと違う調味料を合わせてみたらこっちのほうが好きってなったり、決まった時間内に仕上げる料理は日々挑戦みたいな気持ちが少なからずあるなって思います。
忙しい朝を助けてくれる道具
まな板
少量の切りものには小さめサイズが活躍。素材が替わったらいちいち洗わずに取り換えて使うことも。
ミニボウル
卵を溶いたり、和え物やたれを混ぜたりするのに重宝する。金色のボウルは韓国のマッコリカップ。
バット
小さなバットは切った食材を入れておいたり、火を入れたおかずを冷ますのにのせておいたりするのに便利。
ご飯鍋
セラミック製で、普通の土鍋よりも軽くて扱いやすいので最近お気に入り。残念ながら試作品で未発売。
フライパン
直径20cm と小さく、卵2、3個で作るオムレツや目玉焼きひとつ焼くのに便利。厚みが出て形よく仕上がる。
卵焼き器
だし巻きをはじめとした卵焼き全般に活躍。卵3個がちょうどのサイズで銅製。長年使い込んで油がなじむ。
厚手鍋
直径18cmでふた付き。揚げ鍋はこれと決めていて、深さがあり、少量の油で揚げれば油ハネが少ない。
小鍋
直径12cmと小さく、お湯も少なくすみ、すぐに沸く。ゆで卵を作ったり、一人分の茹で野菜を作るのに便利。
<撮影/飛田和緒、難波雄史 文/飛田和緒>
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飛田和緒( ひだ かずを)
東京都生まれ。高校3年間を長野県で過ごし、山の幸や保存食のおいしさに開眼する。現在は、神奈川県の海辺の町に暮らす。夫と大学生の娘の3人家族。近所の直売所の野菜や漁師の店の魚などで、シンプルでおいしい食事を作るのが日課。気負わず作れる、素材の旨味を活かしたレシピが人気の料理家。
Instagram:@hida_kazuo
本記事は『おいしい朝の記憶』(扶桑社)からの抜粋です。
約3年にわたってインスタグラムに投稿されたお弁当と車内飯(通学の車の中で食べる朝食)の 写真と文章で綴られた、「おいしい話」が一冊の本になりました。がんばりすぎず、カッコつけすぎずかといってくだけすぎてもいけない。インスタグラムの小さな画面からどう発信していくか、見ている人とどうつながっていくか。慣れないながらに続けた3年の記録がここにあります。書きおろしのエッセイも多数掲載。
2023年4月15日(土)13時~
『おいしい朝の記憶』出版記念インスタライブを開催。
本の中に出てくる、簡単なのにおいしくて繰り返し作り続けている飛田家自慢の料理の紹介、お弁当やごはん作りのお話を予定しています。
ぜひ、覗いてみてください!
Instagram:@hida_kazuo