(『よく働き、よくサボる。一流のサボリストの仕事術』より)
映画監督・枝 優花さんのサボり方
枝 優花さんにとってのサボりとは……
能動的に楽しみ、経験を重ねること
なんとなくではなく、能動的にサボることが経験を生む
やりたいことも、楽しいことも、自分で探す
たくさんの経験と刺激が作家性につながっていく
撮りたい映像のイメージなどは、やはりこれまで観てきた映画から受けた影響が大きいのでしょうか。
それも大きいんですけど、自分で映画を撮るようになって映像の見方が変わったんですよね。大学の先輩たちに撮り方について一から教えてもらったり、撮った映像に1カットずつダメ出しされたりしたことで、映像を意識的に見るようになりました。
そこから、時間はあったのでとにかくたくさん映画を観まくったり、iPhoneをかざして、自分が撮っているかのような感覚で映画を観たりして。そうしているうちに、好きなショットやカメラの動き、レンズの深度などがわかってきたんです。
一方で、映画だけ観ていてもダメで。やっぱり見たことのない世界を撮りたい気持ちがあるので、映画として表現されたものだけでなく、別の刺激も必要なんですよね。なので、海外のショーや知らない国の人たちの生活を映したドキュメンタリーなど、いろんなものを観るようにしています。
異なる刺激が自分の中で組み合わさることによって、何かが生まれるかもしれない。
そうです。それこそ、ただ広い土地を眺めるとか、映像じゃなくてもいいんです。自分の記憶と経験が作品に投影されて、それが作家性になると気づいたので、今はいろんな経験を重ねたい。だから、ひとりでどこでも行きます。
この前も、舞台挨拶で茨城に行くことになったので、早めに行って大洗まで足を延ばしてみたんです。行くあてもなかったので、とりあえず「めんたいパーク」(明太子の老舗かねふくが運営する明太子のテーマパーク)に行って。バス旅行のおじいちゃんおばあちゃんグループが明太子作りをじっと見ていたんですけど、その景色が妙におもしろかったんですよね(笑)。そんな記憶が、脚本を書くときに活かせるかもしれないなって思うんです。
「自分たちの話だ」と思えるような作品に
美術や小道具にもこだわりを感じますが、どのようにかたちにしているのでしょうか。
設定はわりと細かく考えますね。たとえば、核家族だけど、お父さんはいつも帰りが遅いので、リビングは母と娘の国になっていて、冷蔵庫にもテーブルにもお父さんの痕跡がない、とか。でも、絶対にブレたくない部分以外、特定の指示は出さないです。余白があるほうが、美術さんが想像を超えた提案をしてくれるので。
美術に限らず、プロの力を借りることで作品がよくなる瞬間が好きなんですよ。ひとりで脚本を書いたりするつらい作業の先にある、ごほうびの時間ですね。
テーマを探したり経験を重ねたりすることの先にある、今後撮ってみたい作品のイメージなどはありますか?
日本映画を観ていても、「自分たちの話がないな」と感じることが多いんですね。自分が直面している問題や、同年代の子が同じように抱えている悩みを描いている作品が少ないんじゃないかなって。
だからこそ、私のような人たちが「自分たちの話だ」と思えるような作品を作っていきたいですね。自分もそういう映画に救われてきたし、若い子たちも本当にピンとくる作品なら、何がなんでも観に来てくれますから。
それは作品だけでなく、プロモーションなどもそうで。若い人たちに作品が届くような発信の方法を考えるべきだし、これまでのルールや型にこだわらず、試行錯誤していかなくてはと思っています。
サボりに大切なのは、「公言すること」
枝さんにとって「サボる」ってどんなイメージでしょうか。
誰かが「フリーランスはいつでも休めるし、いつも休めない」と言っていたんですけど、本当にそうなんですよね。私も休むことへの罪悪感が強くて。会社のように就業時間も決まっていないので、具体的な仕事がなくても、ずっと脚本のことが心のどこかにあったりするんですよ。
だから、気持ちを切り替える方法もいろいろ考えてはいて、最近は「サボります」と公言するようにしています。友達とかに「今日はもう絶対に仕事しない」って言うんです。何かやらなきゃと思いながら結果的にサボっちゃうのが、一番罪悪感を覚えるので。
たしかにサボると決めれば、少なくともその一日は後悔なく楽しめそうですね。どんな過ごし方をするとリフレッシュできるのでしょうか。
友達を家に呼んで料理をするのが好きですね。書き物などの仕事がうまくいかないときも、料理に逃げています。脚本は手を動かしていればなんとかなるものではないけど、料理は手を動かしていれば完成するじゃないですか。「何かを作っている」という感覚が得られるので、脚本がうまくいかないストレスが解消できるんです。
食べることで元気にもなれますしね。
そうですね。それに、スーパーに行くのも好きで。「めんたいパーク」に行くのと同じように、店内でかかる謎の音楽を聞いて「誰が作ったんだろう?」って思ったり、「私が作りました」みたいなラベルのある野菜を見て「これは家族が撮ったのかな?」と思ったり、そういうのが楽しい。
ストレスを発散しながら、クリエイティブな刺激も受けている。
そう思います。知り合いのアーティストの子に脚本の書き方を聞かれたときに、「遠くから取ってくるよ」って言ったんです。テーマに近いエピソードをもとにすると狭い話になるから、あえてテーマから遠い個人的なエピソードをつなげたほうがおもしろいっていうことなんですけど。そうしたらその子が、「Mr.Childrenの桜井(和寿)さんも、曲を書くときは自分の世界を広げて、遠くから拾ってくるって言ってた」って。
だから、日常の中でもどれだけ豊かな経験をして、豊かにものを見ているかが、創作にも関わってきちゃうんですよね。映画の技術部の友達がいるんですけど、撮影などで地方に行くと、ちょっとした隙間の時間に地元の有名なお店や観光地に行くんですよ。インスタで「サボりチャンス」なんて言いながら、みんなに内緒でさっと消えていく。そういう限られた時間でも積極的に楽しむ姿勢は大事だなって思います。
(2021年12月取材)
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枝 優花(えだ・ゆうか)
映画監督/ 写真家。1994年生まれ。群馬県出身。2017年、初長編作品『少女邂逅』を監督。主演に穂志もえかとモトーラ世理奈を迎え、MOOSICLAB2017では観客賞を受賞、劇場公開し高い評価を得る。香港国際映画祭、上海国際映画祭正式招待、バルセロナアジア映画祭にて最優秀監督賞を受賞。2019年日本映画批評家大賞の新人監督賞受賞。また写真家として、さまざまなアーティスト写真や広告を担当している。
本記事は『よく働き、よくサボる。一流のサボリストの仕事術』(扶桑社)からの抜粋です
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サボりについて考えることで、働き方も見えてくる。テレビプロデューサーの佐久間宣行さん、さらば青春の光/株式会社ザ・森東社長の森田哲矢さんほか、13人のクリエイターが語る、働き方とサボり方を考える一冊です。WEBサイト「logirl」(ロガール)にて連載中の「サボリスト〜あの人のサボり方〜」が待望の書籍化。忙しいなかでも趣味や好きなことに時間を使って上手に息抜きをしながら働く人たちを「サボリスト」と称して、彼らの言葉から自分に合ったサボリ方のヒントを探ります。
◆「logirl」では、下記回を5/7まで無料配信中です。
https://douga.tv-asahi.co.jp/program/10038-24462/38998