• 明るい笑顔がトレードマークで、多くの人に元気を与えてきた小説家の瀬戸内寂聴さん。小説家として多くの作品を書き続け、常に新しいことに挑戦し続ける姿が印象的でした。本記事では、瀬戸内さんが残された、未来を生きる私たちへのメッセージをご紹介します。
    (『生きるみちしるべ』より)

    笑っているところに不幸は来ない。

    お互い笑っていれば

    けんかなんかできないでしょう?

    瀬戸内寂聴さんから「未来を生きる人へ伝えたいこと」

    2021年に99歳でこの世を去られた、小説家の瀬戸内寂聴さん。

    明るい笑顔や、心に寄り添ったお話に元気づけられた方も多いのではないでしょうか。

    本記事では、健康の秘訣や、戦争に対する想いなど、瀬戸内寂聴さんが96歳のときにお話ししてくださった、未来を生きる私たちへのメッセージをご紹介します。

    健康の秘訣は「笑うこと」と「自分が好きなことをすること」

    画像: 健康の秘訣は「笑うこと」と「自分が好きなことをすること」

    私は96歳になりました。人生100年っていわれていますが、100年生きなきゃならないなら、健康が何より大切。健康を保つ秘訣は何かとよく聞かれますけど、まずは笑顔。笑うことがいちばん健康にはいい。

    だって、笑っているところに不幸は来ないですよ。お互い笑っていればけんかなんかできないでしょう? だから、笑い飛ばすような癖をつければいい。(中略)

    仏教には〝和顔施〞という言葉があるんです。相手に笑顔を向けることが、一つの徳になる。笑顔を向けられて怒る人はいないし、楽しそうにしている人の顔を見ると、自然に周りの人も笑顔になります。(中略)

    あとは自分が好きなことをすることも大切です

    私も以前は若い編集者がついて来られないくらい早足で、足腰が丈夫で健康だったのに、88歳くらいの時に腰椎圧迫骨折から始まって、胆囊がんや心臓病など大きな病気をするようになりました。

    92歳で再び腰椎を圧迫骨折した時は、うつになりかけました。その時どうしたらいいか考えて、いちばん好きなことは何かしらと考えたら、やっぱり書くことだったのね。

    でも、入院しているから小説は書けない。何かないかなあと考えて、昔俳句を少しやっていたことを思い出して、そうだ、句集を作ろうと思い立ったんです。

    でも、私の句集なんてどこの出版社も出してくれないだろうから、『ひとり』という題名で自費出版し、星野立子賞をいただきました。

    初めての句集だったから、本ができ上がるまですごくわくわくして、でき上がったら、「わあ!」と声を出したいくらいうれしかったですよ。

    戦争に対して思うこと

    私は昭和18年の秋に結婚して北京に行き、そこで終戦を迎えたんです。その間、現地の中国人とつきあってみて思ったのは、みんな同じ人間だということ。

    喜びや悲しみはどこの国の人間も同じなのね。私が知り合った中国人は、みんな優しかった。(中略)

    引きあげ船に乗って、日本の港が見えてきた時、ああ、日本だ、何てきれいだろうと思ったけれど、船から下りた瞬間、それはもうひどいところだと思いました。

    故郷の徳島の町は丸焼けで、母は祖父をかばうように覆いかぶさって防空壕で死んでいたそうです。二人の男の子を残して出征した義兄は、シベリアに抑留。

    戦争ほど嫌なものはない。もう二度とあんな時代に逆戻りしてほしくないと思います。(中略)

    でも、人間は欲望があるから、戦争自体はなくならないでしょうね。

    どうしても戦争に行かなきゃならないとなったら、私は逃げろって言いますね。秘書には、結婚して子どもができた時に日本が戦争することになったら、外国に逃げて子どもを育てなさいと言っています。

    だって、戦争ってどんな大義名分をつけても人殺しですからね。仏教のいちばん大切な教えの一つに、「殺すなかれ」という言葉があります。

    戦争には正義などいっさいない。それを避ける方法は人それぞれが命がけで考えて実行するしかないのです。誰しも、自分でそれを考える力をつけて判断して生きるしかないのです。

    ※ 本記事は『生きるみちしるべ』(文化出版局)からの抜粋です

    〈写真/広川泰士 取材・文/辻 さゆり〉


    瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)

    1922年、徳島市生れ。東京女子大学卒業。61年『田村俊子』で田村俊子賞、63年『夏の終り』で女流文学賞、92年『花に問え』で谷崎潤一郎賞、96年『白道』で芸術選奨文部大臣賞、2001年『場所』で野間文芸賞、11年『風景』で泉鏡花文学賞を受賞。1973年に平泉中尊寺で得度。98年『源氏物語』現代語訳を完結。2006年、文化勲章受章。21年11月逝去。

    ◇ ◇ ◇

    『生きるみちしるべ』(文化出版局)

    『生きるみちしるべ』(文化出版局・刊)

    画像: 「未来を生きる人へ伝えたいこと」生きるみちしるべ/瀬戸内寂聴さん

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    各界の著名人27名が自身の戦争体験、人生観、死生観などを語った宝物のような言葉の数々。瀬戸内寂聴さん、ワダエミさんなど今ではもうお話が伺えない方々も。雑誌『ミセス』で2019年から2021年までの連載を1冊に。



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