• 「ばぁば」の愛称で親しまれてきた料理研究家の鈴木登紀子さん。家庭料理を通じて、家族への思いやりや人への気配りなども大切にされてきました。本記事では、鈴木さんが95歳のときにお話ししてくださった、若い人たちへ伝えたい家庭料理のポイントをご紹介します。
    (『生きるみちしるべ』より)

    四季折々の食材があって、

    時ならぬものは高いから

    家庭料理には使わない。

    そう心がけていれば大丈夫よ。

    鈴木登紀子さんが大切にされてきた、家庭料理への想い

    「ばぁば」の愛称で親しまれ、テレビの料理番組への出演や本の執筆活動など、幅広く活動されてきた料理研究家の鈴木登紀子さん。

    料理上手だった母からは、料理を通して、段取りやお作法、おもてなし、人に対する礼儀や気遣いなどを教わったといいます。

    「おいしい料理をつくることも、相手のことを思いながらできることの一つ」という鈴木さんが大切にされてきた家庭料理への想いをご紹介します。

    食べることは生きること

    画像: 食べることは生きること

    50年間、料理教室をやってきて、最近は皆さん、なるべく「楽」な方に行きたがるのが気にかかっています。食べることは生きること。その大切さを今の若い人たちはどこまでわかっているかしら。

    たまには買ってきたお惣菜でもいいかもしれないけれど、そのまま食卓に並べるのでは情けない。ちゃんと彩りを考えて、食べやすいように並べて器に盛りつける、そのくらいのことはできるでしょ。

    自分の頭と手を使うことは誰にでもできる。何も高望みしなくていいのです。あるものでおいしい“うちの味”を作ればいい。

    昔はどこの家庭にも“うちの味”というものがありましたけれど、今はあの店の何を食べたという方向にばかり気持ちがいっているような気がします。

    母の手料理でいちばん心に残っているのは、丁寧におだしをとったお吸い物。使うのはいきのいい白身のお魚。はんぺんもひらめなどを使って手作りしていました。

    病人のお見舞いに行く時は、卵の黄身を入れた黄色いはんぺんと、白いはんぺん、スープをセットにしてお持ちしていました。それまで食べられなかったという人も、これだったらおいしく食べられるのよ。

    今の若い人たちは面倒がるけど、日本料理の基本はやっぱりおだし。確かに、今、幅の広いだし昆布は贅沢品よね。だから市販のパックを使うのが悪いとは言いません。

    でも、きちんと昆布と削り節とでおだしをとる方法も覚えておいて、両方を使い分ければいいのよ。日本独特の文化といえるおだしの味わいは、ぜひお母さまから子どもたちへと伝えていってほしいですね。

    それから季節の食材を使うこと。季節ごとにおいしいものをいただくのは、ばぁばの健康の秘訣です。

    この前、生徒さんに「旬のものってどうやったらわかるの?」って聞かれたから、「八百屋さんに山積みされていて安いもの、それが旬のものよ」って言ったら「これまででいちばんわかりやすい!」って言われました。

    日本には四季折々の食材があって、時ならぬものは高いから家庭料理には使わない。そう心がけていれば大丈夫よ。

    ※ 本記事は『生きるみちしるべ』(文化出版局)からの抜粋です

    〈写真/浅井佳代子 取材・文/辻 さゆり〉


    鈴木登紀子(すずき・ときこ)

    1924年、青森県八戸市で三男三女の末っ子として生まれる。47年に結婚して東京へ。一男二女に恵まれ、専業主婦として子育てに追われた。料理上手が評判となり、30代から自宅で料理教室を始め、46歳で料理研究家に。NHK「きょうの料理」には50年近くにわたって出演し、ばぁばの愛称で親しまれる。『ばぁばの100年レシピ』(文化出版局)など、著書多数。2020年12月逝去。

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    『生きるみちしるべ』(文化出版局)

    『生きるみちしるべ』(文化出版局・刊)

    画像: 「食べることは生きること」生きるみちしるべ/鈴木登紀子さん

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