(『天然生活』2021年3月号より)
近所に住む姉と一緒に通いながらサポート
家族や子育ての話から芸能ネタまで、主婦の日常を愉快に綴ったブログが人気のカータンさん。ここ数年は、両親の介護や認知症についての悲喜こもごもを本音で発信して大きな反響を呼んでいます。
「親の老いはだれにでも訪れるものです。同年代の友人もみんな同じような悩みを抱えていて、私の体験が少しでも参考になるかもしれないと思ったのです」
実家から車で10分ほどの距離に住むカータンさんは、同じく近所に住むお姉さまと一緒にデイサービスやヘルパーも利用しながら、両親を通いでサポートしています。
「親の老い」と向き合ったのは、約5年前、79歳だったお父さまが視力を失ったことがきっかけです。
それからお父さまの介助を一手に担った75歳のお母さまは心労が重なり、次第にうつの症状に。やがて、感情の起伏が激しくなり、物忘れが増え、ごみの分別やお金の管理ができなくなり、カータンさんは母の認知症を悟ります。
「まさか自分の親が、とショックでした。このころの母はとにかく情緒不安定で、私と姉が実家を片づけたり財布を預かったりするとすごい剣幕で怒り、『死にたい』と口走ることも多かったんです。もうつらくて切なくて、実家からの帰り道でよく泣いていました。精神的に一番ハードな時期でした」
大事な母が遠くに行ってしまった――。そんな思いで現実を受け止められずにいたカータンさんですが、徐々に「考えても悲しんでも状況は変わらない」と、気持ちを切り替えられるように。
「やはり‟戦友”である姉の存在が大きかったですね。一緒に泣いて怒り、笑い、そのときどきの選択に対する責任も、すべて共有できるから本当に心強くて。介護はひとりで抱えたら自分がつぶれてしまいます。身内やプロの手を借りながら、ワンチームでやる。そのスタンスが大切と痛感しました」
義務ではなく思い出が介護に向かう原動力
認知症の親と向き合えば、同じ話の繰り返しや気持ちのすれ違いにいら立ちや戸惑いを覚えることも。そうした葛藤にカータンさんは「同じ土俵に立たないこと」で折り合いをつけてきました。
「すべてをまっとうに受け止めて、落ち込み、反論していたらキリがない。おかしなことをいっているなと思っても、女優になったつもりで話にのって共感する。そうするとお互い穏やかでいられます」
たとえ感情をぶつけられても「親だってしたくてやっているわけじゃない」と思えば、冷静に受け止められるといいます。
そして、忘れることは悪いことばかりじゃないとも。カータンさんはうれしいことはお母さまに何度も報告するそう。何度でも、初めて聞いたように喜んでくれるからです。
「毎回『すごいじゃない!』と心からいってくれるから気分がよくて(笑)。認知症は人によってタイプが違うのでみんながそうとはいい切れませんが、かわいらしい部分もたくさんあります。それに気づけたのはよかったのかな、と」
カータンさんの話を聞いていると、物事は捉え方だとあらためて気づかされます。
家事や仕事を抱える忙しい身で親の介護に対峙するのは並大抵のことではないはずですが、カータンさんは「娘だからやらねば」という義務心ではなく、両親に愛された大切な思い出を拠り所にしています。
「いろんな場面で、これまで両親がしてくれたことや元気だったころの姿がフラッシュバックするんです。それは涙が出るほど切ないけど、同時に介護に向かう原動力になっているんだと思います」
〈撮影/有賀 傑 取材・文/熊坂麻美〉
かーたん
主婦ブロガー。2007年にブログ「あたし・主婦の頭の中」を開設。コミカルなイラストで日常を赤裸々に描き、主婦層を中心に人気が爆発。月間アクセス数は800万超、ブロガーとして確固たる地位を確立。近年は親の介護を中心に記事を投稿。悩みながらも体当たりに取り組む様が多くの共感を呼んでいる。著書に『お母さんは認知症、お父さんは老人ホーム 介護ど真ん中! 親のトリセツ』(KADOKAWA)など。
※ 記事中の情報は取材時のものです