• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。猫と犬と暮らすことの迷いや、動物同士の思わぬ交流のお話です。

    猫しか飼ったことがない家に、小さな小さな犬が来た

    猫好きには猫好きが集まる……。

    私には、猫エイズと猫白血病を抱える「あい」と出会う前から、猫好きの友人、というより「猫の先輩」がいました。

    彼女は、5匹の猫と暮らしていたのですが、ある時、我が家に遊びにきた彼女の腕の中には、見慣れぬ茶色いふかふかの毛玉が。

    新しい猫かしら……と覗き込むと、そこにいたのは、子猫ほど小さな「犬」。

    訊くと、ブリーダーさんで、異常に小さな母犬から生まれた、さらに小さなポメラニアンなのだといいます。

    ブリーダーさんのもと、元気いっぱい鳴く他の子たちの中で、ぽつんと、声もあげずうずくまるその子に、いたたまれなくなって、彼女は家族にすることに決めたそうです。

    ブリーダーさんは言いました。

    「あまり長くは生きられないかもしれません」

    だったらなおさら。彼女の心は固まりました。

    でも、彼女は犬となんて暮らしたことがない。そのうえ、家は猫だらけ。

    どうなることかとひやひや迎え入れると、猫たちは、その小さな犬(柚と名付けました)を、まるで猫の家族ができたように歓迎しました。

    画像: 猫しか飼ったことがない家に、小さな小さな犬が来た

    特に、柚と同い年の「なると」という猫とは、よい喧嘩友だちに。すばしっこい、なるとを、短い足で柚がてけてけ追いかけて、ひらりとなるとが高いところに上がると、そのときばかりは、柚は「降りてこい!」と夢中で声をあげるほど。

    長くは生きられないと言われた犬が、猫に囲まれて幸せな一生を過ごした

    犬と猫。種族は違うのに、ふたりは兄弟でした。

    物心ついたときから猫に囲まれて過ごしたので、柚は自分を猫だと思っているらしく、まるで猫のように片手で顔を洗います。つたないそのしぐさのかわいいことといったら。

    他の猫も柚をグルーミングして、寒い日は猫犬だんごになって眠りました。

    柚は生きました。

    猫よりも小さな体で。猫に愛されて、ドッグフードだけじゃなく愛を食べて、ブリーダーさんの心配をよそに、小さな体で15年。

    最期の時も、猫たちに囲まれて、心臓を悪くしたために酸素室の中、全員がそのまわりで柚を見守って、眠りにつきました。

    画像1: 長くは生きられないと言われた犬が、猫に囲まれて幸せな一生を過ごした

    種族は関係ない。

    猫は、自分より弱いものに優しさを見せます。

    そして、思うのです。そうできる猫たちは、もちろん本能もあるかもしれません。

    でも、同時に、その家族である私たち人間が、その猫たちに優しさを伝えているのかもしれません。



    画像2: 長くは生きられないと言われた犬が、猫に囲まれて幸せな一生を過ごした

    咲セリ(さき・せり)

    1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。

    ブログ「ちいさなチカラ」



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