半年前、東京に帰ってきました
半年前──。15年離れていた東京に帰ってきました。びゅうびゅうと⾵が吹く河⼝近くの倉庫街。わたしがあたらしく選んだ住まいは、そんな場所にあります。
東京に帰ってきた理由のひとつに、わたし⾃⾝が歳を重ねたということがあります。いま、50代後半。2年後には60歳になります。いままでのようにいかないことも出てきますし、そのことにより⾒える⾵景も変わります。優先順位や価値観も変化するはずです。実際、東京を離れた15年前まで遡らずとも、1年前と⽐べても⼤きな変化を感じます。
若い頃には必要なかったこと、気づかなかったこと。そういったことが増えるにつれ、⽇々の暮らし⽅が変わります。 ⾃分の意志で変えていくこともあれば、思いとは関係なく変わってしまうこともあります。年齢という時間は、そういう⼀⾯を持っています。
それは⾃然なこと。誰にでもおとずれることです。そう考えると、年齢と時間に対し、無理に抗うことなく、かと⾔って、あきらめることもなく、⼼配しすぎず、受け⽌め、⾃分に合う選択をしていければ──と思うのです。
住まいのこと、仕事のこと、⾝体のこと。これからの⾃分に合わせ再考することは数多くあります。関わりの薄かった福祉なども現実的に必要になってくるでしょう。そのために知っておいたほうがいい情報もあるはずです。
60歳直前は「新しいスタートラインを引き直すとき」
東京へ帰ってくるまでは、瀬⼾内の町で暮らしていました。⽇々の移動は、ほとんどが⾞でした。もっともっと歳を重ね⾞が運転できなくなったときを想像しました。暮らし⽅、個⼈の⽣き⽅の寛容さについても考えました。⾃分にとって必要なもの不要なもの、どういうことにこころ惹かれるか、また、痛めるか。歳を重ねていくなかでそれらも変化します。
わたしは、シングルでこどもがいないので、⾃分で考えること、やることが多いと思っています。検討しておいたほうがいいこと、新たに準備しておくことが、意外とあるのです。
60歳直前は「新しいスタートラインを引き直すとき」。いま、わたしは、そんなことを感じています。そのためには、1度、⽣まれ育った場所にもどり、これからのことをいままでのことをふり返りながら新しいラインを「引き直したい」と思うようになりました。15年ぶりの東京は、わたしにとって60代への準備の場です。
はじめての場所で、まだ知らない年齢に向けてスタートする
もうひとつ。
東京は「東京」とひと括りできないほど広い範囲を指します。⻄と東では流れている空気もちがいます。東京で⽣まれ育ちましたが、わたしの知らない東京は、まだまだたくさんあります。今回、わたしは慣れ親しんだ地域ではなく、はじめての場所を選びました。そこは、⼤きな川が流れる所です。
例え知っていると思っている東京でも、15年前に⾒ていた⾵景はそこにはありません。いま⽬に映るのは「50代後半の視点で⾒るあたらしい東京」です。
60歳、60代というまだ知らない年齢にむけ、ひさしぶりに帰ってきた新しい東京という場所。そこで、わたしの⽇々はスタートしました。
広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)
エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other: 代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、現在は東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。主な著書に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)他多数。
インスタグラム:@yukohirose19