年齢より若く見られたいわけではないけれど
ある⽇、いままで着ていた服に違和感を覚えることは、歳を重ねると多くの⼈が経験することです。他の⼈からはわからない⾃分だけの違和感。素材なのか、形なのか、⾊なのか。もしくはその全部なのか。そういったことがあり、何度かクローゼットを⾒直す時期がおとずれます。経験からすると、わたしは40代と50代はじめに「その時」はきました。そうなると60代はじめにも同じような感覚になるかもしれません。
年齢より若く⾒られたいわけではないのです。ただ、⾃分のすきなスタイルで、気持ちよく、機嫌よくいられる服を着たいだけなのです。少しだけその時代の空気も纏い、その上で無理をすることなく、年齢に抗うことなく。
若いときは、多少、暑くても寒くても⼤丈夫だったことも、⾝体の変化と体⼒の低下で年々、⼤丈夫ではなくなってきます。暑い季節はすずしくいたいですし(猛暑は⽣命に関わります)、寒い時期はあたたかく(冷えると体調をくずします)すごしたい。そう思うようになりました。
たくさんの服より、快適なものを数枚
「違和感時期」を迎え、気に⼊っていた服が似合わなくなることを経験した結果、これからはたくさんの服がなくてもいいと考えるようになりました。その時の年齢に似合うもの、すきなもの、快適なもの。それらが数枚あればいい、と。
結局、数多く服を持っていても、その時に気に入った服ばかり着ていることが多いですし、「今日、何を着たらいいかわからない」となることもあります(ありました)。それに「違和感」を覚えると、最終的には手放すことになり、その時なんとも言えない気持ちになります──。
50代後半になったいま、たどり着いたのは、服は管理できる少ない数で、手入れしやすく、アイロンがけの回数が少ないもの、できるだけ長く着られるもの、になりました。
⽇々のなかでは「優先順位」というものが存在します。それと同じように服に関しても「優先順位」が存あり、そこで、自分なりにそれを決めることにしました。わたしの場合は、1.⾊ 2.形 3.素材 です。
好きな3色の服をユニフォームのように着る
⾊は、⿊、グレー、⽩。いま現在は、そうしています。基本は無地。形は、試着をして「気になるところがないもの」です。「気になるところがない」というのは、体型がきれいに⾒える(つまりカバーしてくれる)ものです。そういう服は、試着した時、迷いません。ハンガーにかかっている時はすてきでも、実際に着て少しでも気になるところがあれば、見送るようにしています。この「見送ることができるようになる」というのは大きいです。試着室で「どうしよう」がなくなりましたし、何かを気にしながら服を着るのはストレスです。
ウールは3シーズン着られて、衣替えいらずのアイテム
素材は先にも書きましたが、アイロンがけをしなくていいもの。基本はウールです。ウールは、着終わったあとホコリを払いハンガーにかけておけば、翌朝にはシワが取れます。3シーズン、工夫すれば4シーズン着られるものもあります。そのため衣替えもほとんどしなくてすみます。プラス春や夏は、洗濯機で洗えるコットンが数枚加わります。
50代はじめからそうしていった結果、 クローゼットのなかは色が少なくなり、数が限られ、素材はやわらかなものへと変化しました。いま、持っている服を見ると、ユニフォームのようです。体型に恵まれている人は、何でも着こなせますが、そうでない場合、似合う形は限られてきます。カバーしてくれる形を選んでいくと、結果ユニフォーム化していくのかもしれません。
いま、クローゼットを見ると、数が少ないため風通しがよく、何があるか把握でき、着る服がならんでいます。「基本はこの感じ」。それをつづけながら60歳を迎えられたらと思っています。
60歳までのメモ
1.すきな色、着たい色を絞る
2.体型がきれいに見える形、組み合わせを考える
3.肌ざわりを大切にする
4.手入れが負担にならないものにする
5.機嫌よくいられる服にする
「いま何を着たいですか?」は、次回もつづきます。
広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)
エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other: 代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、現在は東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。主な著書に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)他多数。
インスタグラム:@yukohirose19