• 猫、猫、猫はかわいい。そして、賢い。猫を愛する方々に、猫との暮らしをお聞きしました。手づくり暮らし研究家の美濃羽まゆみさんは、預かりボランティアの方が保護していた6匹の猫の中から、一番大人しく、きょうだいに踏み台にされていた黒猫を迎え入れます。しかし、夫がなんだか賛成しきれない様子で……。全ての猫好きの方のためにおくります。

    出合いはSNSで偶然受け取ったSOS

    わが家にはじめて猫の「ほづみ」がやってきたのが、2020年の8月のこと。あの日はすこんと抜けるような青空の、暑い暑い夏の日でした。

    友人が知人から受け取ったというSOSを偶然キャッチしたわたし。家族に「猫をもらいに行こうと思ってるねん」と話すと、コロナ自粛生活で退屈しきっていた子どもたちは目を輝かせて大歓迎!が、夫だけは頑として首を縦にふらなかったのでした(それは後で理由が判明したけれど)。

    友人のSNSの投稿によれば、飼い猫が想定外の妊娠をしてしまい、飼いきれずに手放そうとしていたのを、預かりボランティアをされていた知人の方が保護したのだとか。このままだと数日中に処分されてしまう!とのこと。

    夫の反対はさておき「ひとまず命を助けなくては」と急いで実家から車を借り、子どもたちとともにかけつけたのでした。

    保護された6匹の子猫たち。

    出会ったのは生後一カ月ほどの6匹の子猫たち。柄はシマシマが多く、色は明るい茶色から黒まで、けたたましくみゃあみゃあと鳴き続けています。まだ手のひらに乗るほどの小さな体なのに、ほかのきょうだい猫をはしごがわりに、どんどんかごから脱走していくほどのやんちゃっぷり。

    そんななか、きょうだいたちの踏み台にされていた、ひときわ真っ黒くて大人しい子猫がいました。

    自らを「陰キャ」と呼び、中一だったそのころは黒い服ばかり着ていた長女ゴン。自分と黒猫に相通じるところを感じたのか、「この子がいい」と一声。

    夜、あんなにけたたましく鳴いていたきょうだいたちと比べて、その黒猫はほとんど鳴きません。自然界では目立ってしまうという黒猫の性格がそうさせるのかわからないけれど、わが家に来てからも気配というものがまるでなく、本棚や段ボールの隙間で寝入ってしまっては半日ちかく探しまわったり、暗闇で思いがけずしっぽをふんづけてしまったことも(これがほんとの猫ふんじゃっただ!とちょっとにやりとしてしまった)。

    画像: 遊びつかれてヘソ天でぐっすり。

    遊びつかれてヘソ天でぐっすり。

    猫を飼うのに賛成しきれない夫、その理由は……。

    お気に入りの場所を見つけてはもぐってこっちをじっと見ていたり、リボンにじゃれついてみたり、わが家の暮らしは気に入ってくれたみたい。遊び疲れてヘソ天で伸びてみせる様子に、目じりが垂れ下がりっぱなしのわたしたち。

    でもやっぱり夫だけは、しばらくたっても猫を飼うのに賛成しきれない様子なのです。

    「ひどい!うちで飼わないと殺されちゃうんだよ!きそちゃん(父のこと)は猫が可哀そうじゃないの?!」と、涙目になる当時7歳の息子。

    それまで「動物はいろんなものを壊すから」とか、ごにょごにょ言い訳がましく言っていた夫でしたが、ついに「死んだらかわいそうやんか……」とうつむきながら絞り出したのです。

    そうだった、思い出した。夫は子どものころ、最愛の飼い犬を闘病の末に亡くしていたのでした。

    画像: かごの中からこんにちは。

    かごの中からこんにちは。

    愛おしい存在をいつか失うことの辛さ。かつていくつもの命を見送ったわたしも、そんな胸の疼きを痛いほどに思い出しました。こんなにも命の輝きにあふれるこの子も、きっといつかその灯を消す日が必ずくる。出合う喜びが大きいほどに、別れる悲しみは深く辛いものになっていく。あんな思いはもう二度としたくないのだと、夫は告白してくれたのでした。

    うつむく夫に、息子が涙ながらに叫びました。

    「命はいつか無くなってしまうかもしれへん。けど、それまでにたくさん素敵な思い出をつくって、それを大事にしたらええやんか!」

    いまでもありありと思い出します。はっとして顔を上げると、息子のそのまっすぐな瞳が目に飛び込んできたことを。

    うん、ほんまにそうや。その通りやなあ。

    未来のことをあれこれ思い悩むより、いまここにある幸せを大切にすることのほうが、ずうっと大事なこと。失う辛さにばかり目が行き、本当に大事なことを見失ってしまっていたことを、彼に気付かされたのでした。

    画像: わが家に来てから4カ月の「ほづみ」。

    わが家に来てから4カ月の「ほづみ」。

    黒猫の名前「ほづみ」の由来は、8月1日にわが家に来たから。旧暦の8月1日「穂積」にちなんでつけました。ほづみは夫の気持ちを知ってか知らずか、かわいがる子どもや私たちよりも夫によくなつきました。夜は夫のおなかの上で眠るし、昼間も夫のちかくにぴったりくっついています。寝床にうんちやおしっこをされたりして「困ったもんだ」なんて言いながらも、小さな命にまとわりつかれて夫はずいぶん嬉しそう。

    そしてついに彼の口から「ほづみ、うちで迎えようか」。そうして、晴れてほづみはわが家の一員となったのでした。

    猫との暮らしはそのお世話はもちろん、外出や旅行が制限されたり、思いがけない病気や事件などもしょっちゅう。けれど、毎日その愛らしい姿と思いがけない珍行動のおかげで、わたしたち家族に笑顔が100倍増えました。息子なんかは「ほづみが来なかったらいまごろ、家族ばらばらやな!」なんて冗談めかして言うけど、あながち間違いじゃないかもしれません。

    画像: 避妊手術後。子どもの古着で、ペロペロ防止の服を手づくり。

    避妊手術後。子どもの古着で、ペロペロ防止の服を手づくり。

    だって、別れは猫とだけじゃない。わたしたち家族どうしだって、いつかきっとさよならする日が来ます。一緒にいれば喧嘩したりぶつかりあうこともあるし、あれこれ文句を言いたくなることもある。

    でもいつか来る別れの日まで、少しでも笑顔でいる時間を重ねていこう。素敵な思い出を大切にしながら日々過ごしていこう。そう思えるようになったのはきっと、この小さな黒猫、ほづみがわが家に来てくれたからだと思うのです。

    そしてその一年後、さらに新しく保護猫「のりまき」が仲間入り。彼との出会いはまた、機会があればお話ししてみたいと思います。

    画像: 右下にちょこんと「のりまき」が。

    右下にちょこんと「のりまき」が。



    画像: 猫を飼うのに賛成しきれない夫、その理由は……。

    美濃羽まゆみ(みのわ・まゆみ)

    手づくり暮らし研究家。
    ハンドメイド子ども服・おとな服ブランド「FU-KO Basics.」主宰。築100年の京都の町家で、夫、長女、長男、猫2匹と暮らす。近著に『FU-KO basics.着るたびに、うれしい服』(日本ヴォーグ社)があるほか、天然生活webで「美濃羽まゆみのごきげんスイッチ。」を連載。

    Instagram:@minowa_mayumi



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