(『天然生活』2022年12月号掲載)
火の似合う季節、内なる自分を見つめます
ふうふうと登った丘の上には、野原を囲むように、いくつかの家が並んでいます。そのなかのひとつ、黒い煙突、白い木のドアの一軒家が、山下りかさんのおうちです。
まるで絵本のような……。ついそんな表現をしてしまいたくなるかわいらしい家の、冬の主役は小さな薪ストーブ。この家に越してきて、2度目の冬にリビングの一等地に据えました。
「木を燃やし、立ち上がる炎を見ていると、自然との一体感が強まります。自然をつくる四大元素、地水風火のうちのひとつの火。そんな火の存在は不思議と心を落ち着かせてくれるし、『自然が家の中に入ってきてくれた』とさえ思えるんです」
取材に訪れた日は、この冬初めての火入れのタイミング。「冬のにおいだわ」と、山下さんは家のにおいを肺いっぱいに吸い込み、季節の進みを感じたようです。
小さなストーブゆえ、1時間に1回は薪をくべ、温度計も気がかりに。スイッチひとつの暖房器具と違って手間はかかるけれど、その手間もいとおしく、冬の暮らしの楽しさが増すと話します。
「冬はお日様の力が弱まるし、木は枯れ、虫や動物も気配を消す。すべてが元気ないように見えるけれど、それは春に向けて休んでいるからなんですよね。また、私たちにとっては、外に向かっていた意識が内側に戻って、内側を明るくするような季節だと思います」
そんなふうに内なる自分と向き合うときにふさわしいのが、キャンドルの光。やさしく揺れる炎は、心に静けさをもたらし、さまざまな思索にやさしく寄り添ってくれるのだと話します。自分でつくったキャンドルならなおのこと。
そんな豊かな時を思い、山下さんは、冬に楽しむみつろうキャンドルをせっせと仕込みます。湯せんの熱でトロリと溶けたみつろうに糸を繰り返しひたしているそのひと時、やはり自分の内側に向き合っているのかもしれません。
山下りかさんの、冬の楽しみ4つ
01_冬の楽しみ
バスソルト入り足湯で足からポカポカ
足先がどうも冷たい、なんだか風邪をひきそうな……。そんなときは、たらいにお湯を張り、足湯をするのが冬の楽しみ。
自家製のアロマバスソルトを入れれば、部屋にいい香りが漂い、血行もますます促進されて全身ぽかぽか。
「粗塩1袋(1kg)に、バラのエッセンシャルオイル10滴、ミントを1滴くらい入れてよく混ぜたらでき上がり。お風呂場の近くに常備して、入浴のたびに入れています」
02_冬の楽しみ
みつろうキャンドルづくり
「静かな気持ちで手を動かすことで、歪みなくできあがります」
日常で使うキャンドルのほとんどは自家製。つくり方は簡単。
1. 細長い缶に固形のみつろうを入れ、湯を沸かした鍋に入れ湯せんにかける。
2. 溶かしたみつろうにキャンドルの芯をひたし、ゆっくりと持ち上げます。
3. 2が固まったら、再び、溶けたみつろうにひたす。これを何度も繰り返してキャンドルを太くしていきます。
4. 好みの太さになったら、カッターなどで底を平らにカットして完成。
03_冬の楽しみ
ハーブリキュールのお湯割り
夏に仕込んでおいたハーブのリキュールを、冬はお湯で割っていただきます。
「庭に咲いたバラの花のリキュール。バラの花が元気なうちに、食用グリセリン(写真右)とウオッカ(左)に漬けました。バラにはさまざまな効果があります。たとえば、芳しい香りは緊張をほぐしてくれたり、胃腸の働きを整えてくれたりもするんです」
この日は、最後に梅酢をひとたらしして、ほんのり塩けをきかせた。
04_冬の楽しみ
薪ストーブでコトコト煮もの
ストーブの熱を生かした調理は、冬のうれしいオマケ。
「この時季は、煮込み料理が多くなります」
この日は庭で採れたバターナッツ(ナッツの風味のするひょうたん形のかぼちゃ)をポタージュにしました。
「お客さんがいらしたときも、ストーブに鍋をかけておいて『おかわりはご自由に』と言えるし、パンを焼いたりもできます」
遠火でじんわり火を入れた料理には、素材のおいしさが溶け出しています。
私の防寒対策
家仕事にはベストが便利です
着込むと家事がしづらくなってしまうもの。そんな問題を解消してくれるのがウールのベスト。
「肩や背中が暖かいだけでぽかぽか。手が軽やかな分、家仕事もしやすいです」
この冬は、「フルーツ オブ ライフ」のものが仲間入り。
<撮影/近藤沙菜 取材・文/鈴木麻子>
山下りか(やました・りか)
雑誌『オリーブ』でスタイリストとして活躍した後、NYに渡る。1997年の帰国後は、 竪琴の一種であるライアー奏者、手仕事作家として活動。著書に『季節の手づくり 夏と秋』『季節の手づくり 冬と春』(ともに精巧堂出版)が。CD「septime stimmung」も販売中。https://rikayamashita.com/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです