(『小屋を楽しむ』より)
裏庭は子どもたちの秘密基地。想像力を刺激するツリーハウス
夕方、小学校の終業のチャイムが鳴ると、近所の子どもたちが森に集まってくる。そこは、スギの木立に浮かぶツリーハウスとちょっとしたアスレチックがある秘密基地。見ている大人もわくわくするだれもが自由に遊べる森だ。
ここのルールはひとつ。みんなが気持ちよく遊べるようにマナーを守ること。
ツリーハウスを手掛けたのは、森の所有者であるログビルダーの馬場弘至さん。森のすぐ隣には自宅兼工房のハンドカットログハウス「ムツミログキャビン」が立っている。
「このツリーハウスをつくったのは2017年です。それ以前に日本のツリーハウスの第一人者である小林崇さんと新潟県中越地震の復興モニュメントとしてツリーハウスを手掛けたんですが、それは登って遊んだりするものではなかった。それが残念でね。だったらうちの森に子どもたちが遊べるツリーハウスを自分でつくっちゃおうと思って」
子どもの遊び心を刺激するとんがり屋根のツリーハウス
ツリーハウスは自由な建物だ。日本の法律では、通常、建築物とは見なされないため、広さや構造などに制限はなく、小屋以上に自由につくることができる。もちろん安全性をおろそかにはできないが、そこは経験豊かなプロのログビルダー、最大限に配慮している。
「高さは地上から約3mありますが、胸高で太さが2mあまりの立ち木にGLボルトというツリーハウス専用の金具を打ち込んで土台を支えています。日本はもちろん海外でも広く採用されている工法で、強度が高く、木への負担も少ないんです」
ツリーハウス本体は2本の立ち木に渡した土台にウッドデッキをつくり、その上に木造枠組壁工法で建てている。SPF2×4材で組んだ枠を455mmピッチで円形になるように配置して構造体とし、外壁は
15mm厚のマツの板を縦張り、内壁は9mm厚の曲げ合板を張っている。
円筒形のデザインととんがり帽子の屋根は北欧の童話のイメージから。腐朽に強いウエスタンレッドシダー(ベイスギ)の薄板を重ねたシダーシェイクの屋根は、建築から5年以上を経て趣深く緑に苔むし、そのうち小屋が森に溶け込んでしまうのではないかとさえ思わせる。
中に入るとツリーハウスを支える太いスギの木が床から天井にドーンと突き抜け、子どもの目線に設けられた窓からは、この森に至る坂道の下に広がる家並みや周りの畑が一望できる。
ハシゴを上るとロフトになっており大人にはちょっと狭い空間だが、子どもはこういう隠れ家の
ような場所にテンションが上がること間違いなし。
ペンキで白く塗られた壁の一部は黒板になっており、自由に落書きできるのも子どもたちにはうれしいはずだ。チョークで描かれたかわいらしい女の子の絵と遊びにきたみんなの名前が残っている。その下の「きてくれてありがとう」の文字は、きっと馬場さんが書いたのだろう。
自分がつくったものでみんなが喜んでくれる。ログビルダーにとってこれほどうれしいことはない。馬場さんは保育園などにも多数の小屋を建ているので、その作品の一部を紹介しよう。
馬場さんが子どもたちのために建てた小屋
波が運んできた流木ハウス
保育園のベランダの下に潜り込んでいるような小屋は、ここの理事長先生に「これを使って、つくってください」と渡されたたくさんの流木からアイデアを膨らませたもの。製材された木材では絶対に表現できない自然の造形が、見る人の想像力を膨らませる。海のどこかから流木が波に乗って小屋を運んできたようにも思えてしまう。屋根と下屋とデッキ以外にまっすぐな部分がないのも面白い。
そよ風に揺られて歌う小屋
「保育園の理事長に“気持ちよく歌っているような小屋をつくって”と、何ともつかみにくいお題を出されて建てたのがこの小屋です」と照れ笑いする馬場さんだが、それが見事に形になっている。
決して動くことがない小屋が、まるで体を揺らして歌っているように見えるから不思議だ。小屋は高さ2mほどの柱で支えられたウッドデッキの上に建てられており、デッキにはクライミングウォールで上ることもできる。
タマネギ頭のビッグツリー
樹齢400年ほどになるスギの大木にシダーシェイクのタマネギ型屋根を載せた保育園の遊具。幹の太さが5mあまりあるスギの中をチェーンソーでコツコツくりぬいたそう。中は2階建てになっていて、デッキからアプローチできる。
大人には狭い空間だが、子どもにとっては秘密基地。園長先生いわく「滑り台やブランコなど遊び方が決まった遊具ではなく、想像力を育んで好きなように遊んでほしい」とのこと。
<写真/高橋郁子 取材・文/和田義弥>
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この本では、38軒の用途もデザインも構法も異なる小屋を紹介しています。そこに生えていた木を使ったり、廃材を利用したり、細部まできっちりつくり込んだり―。個性豊かな小屋と、それがもたらしてくれる豊かな暮らしを、ご覧ください。この本ではまた、実際の小屋の建て方、必要な道具、選べる構法、さまざまな仕上げ材の選び方、小屋を快適にする断熱の方法、気になる法律と税金、土地とインフラについてもわかりやすく解説しています。