• 小屋は、少ない出費で暮らしを豊かにしてくれるツールです。新潟県長岡市のログハウスビルダーの馬場弘至さんが、庭に建てたツリーハウスは、近所の子供の遊び場になっています。これを見た保育園からは、ツリーハウスや遊具づくりを頼まれ、たくさんの遊具が誕生しました。
    (『小屋を楽しむ』より)

    裏庭は子どもたちの秘密基地。想像力を刺激するツリーハウス

    夕方、小学校の終業のチャイムが鳴ると、近所の子どもたちが森に集まってくる。そこは、スギの木立に浮かぶツリーハウスとちょっとしたアスレチックがある秘密基地。見ている大人もわくわくするだれもが自由に遊べる森だ。

    ここのルールはひとつ。みんなが気持ちよく遊べるようにマナーを守ること。

    画像: 絵本やアニメや映画で誰もが憧れたツリーハウス。この森にはそんな夢の世界が広がっているツリー。ツリーハウスの周りにはウッドデッキをつなぐ吊り橋やブランコ、シーソー、滑り台などがありアスレチックになっている

    絵本やアニメや映画で誰もが憧れたツリーハウス。この森にはそんな夢の世界が広がっているツリー。ツリーハウスの周りにはウッドデッキをつなぐ吊り橋やブランコ、シーソー、滑り台などがありアスレチックになっている

    画像: ウッドデッキの手すりの板は一枚一枚ジグソーで揺らぐようななだらかなラインにカット。まっすぐな板ではないことがかえって心地いい

    ウッドデッキの手すりの板は一枚一枚ジグソーで揺らぐようななだらかなラインにカット。まっすぐな板ではないことがかえって心地いい

    ツリーハウスを手掛けたのは、森の所有者であるログビルダーの馬場弘至さん。森のすぐ隣には自宅兼工房のハンドカットログハウス「ムツミログキャビン」が立っている。

    「このツリーハウスをつくったのは2017年です。それ以前に日本のツリーハウスの第一人者である小林崇さんと新潟県中越地震の復興モニュメントとしてツリーハウスを手掛けたんですが、それは登って遊んだりするものではなかった。それが残念でね。だったらうちの森に子どもたちが遊べるツリーハウスを自分でつくっちゃおうと思って」

    画像: 左/ぐらぐら揺れる吊り橋も楽しい。ツリーハウスのデッキの下にはブランコも付いている 右/ツリーハウスの隣の木には色とりどりのバードハウスが設置され、賑やか

    左/ぐらぐら揺れる吊り橋も楽しい。ツリーハウスのデッキの下にはブランコも付いている 右/ツリーハウスの隣の木には色とりどりのバードハウスが設置され、賑やか

    画像: 左/森の入り口に置かれた看板。馬場さんのツリーハウスではだれでも自由に遊べる 右/馬場さんの自宅のログハウスから見たツリーハウス

    左/森の入り口に置かれた看板。馬場さんのツリーハウスではだれでも自由に遊べる 右/馬場さんの自宅のログハウスから見たツリーハウス

    子どもの遊び心を刺激するとんがり屋根のツリーハウス

    ツリーハウスは自由な建物だ。日本の法律では、通常、建築物とは見なされないため、広さや構造などに制限はなく、小屋以上に自由につくることができる。もちろん安全性をおろそかにはできないが、そこは経験豊かなプロのログビルダー、最大限に配慮している。

    「高さは地上から約3mありますが、胸高で太さが2mあまりの立ち木にGLボルトというツリーハウス専用の金具を打ち込んで土台を支えています。日本はもちろん海外でも広く採用されている工法で、強度が高く、木への負担も少ないんです」

    画像: 吊り橋の高さは1m80cmほど。ウッドデッキの土台は直接スギに打ち付けている

    吊り橋の高さは1m80cmほど。ウッドデッキの土台は直接スギに打ち付けている

    画像: ツリーハウスは2本のスギの木で支えている

    ツリーハウスは2本のスギの木で支えている

    ツリーハウス本体は2本の立ち木に渡した土台にウッドデッキをつくり、その上に木造枠組壁工法で建てている。SPF2×4材で組んだ枠を455mmピッチで円形になるように配置して構造体とし、外壁は
    15mm厚のマツの板を縦張り、内壁は9mm厚の曲げ合板を張っている。

    画像: たくさんある窓の枠は小さいのは赤、大きいのは青で統一。上の小窓にはガラスブロックが入っている

    たくさんある窓の枠は小さいのは赤、大きいのは青で統一。上の小窓にはガラスブロックが入っている

    円筒形のデザインととんがり帽子の屋根は北欧の童話のイメージから。腐朽に強いウエスタンレッドシダー(ベイスギ)の薄板を重ねたシダーシェイクの屋根は、建築から5年以上を経て趣深く緑に苔むし、そのうち小屋が森に溶け込んでしまうのではないかとさえ思わせる。

    画像: 左/屋根はシダーシェイク。腐朽に強いウエスタンレッドシダーで一般に20年以上の耐久性がある 右/垂木は2×4材を、外側に広がるように組んでいる

    左/屋根はシダーシェイク。腐朽に強いウエスタンレッドシダーで一般に20年以上の耐久性がある 右/垂木は2×4材を、外側に広がるように組んでいる

    中に入るとツリーハウスを支える太いスギの木が床から天井にドーンと突き抜け、子どもの目線に設けられた窓からは、この森に至る坂道の下に広がる家並みや周りの畑が一望できる。

    ハシゴを上るとロフトになっており大人にはちょっと狭い空間だが、子どもはこういう隠れ家の
    ような場所にテンションが上がること間違いなし。

    ペンキで白く塗られた壁の一部は黒板になっており、自由に落書きできるのも子どもたちにはうれしいはずだ。チョークで描かれたかわいらしい女の子の絵と遊びにきたみんなの名前が残っている。その下の「きてくれてありがとう」の文字は、きっと馬場さんが書いたのだろう。

    画像: 黒板スプレーを合板の壁に吹き付けて自由に使える大きな黒板に。落書き好きの子ども心をよく知っている

    黒板スプレーを合板の壁に吹き付けて自由に使える大きな黒板に。落書き好きの子ども心をよく知っている

    画像: 左/ロフトから下を眺めるとこんな感じ。小さな子どもにとってはものすごく高く感じるはず 右/ハシゴを上るとロフトになっている。まんなかの柱から放射状に延びた垂木が屋根を支えている

    左/ロフトから下を眺めるとこんな感じ。小さな子どもにとってはものすごく高く感じるはず 右/ハシゴを上るとロフトになっている。まんなかの柱から放射状に延びた垂木が屋根を支えている 

    自分がつくったものでみんなが喜んでくれる。ログビルダーにとってこれほどうれしいことはない。馬場さんは保育園などにも多数の小屋を建ているので、その作品の一部を紹介しよう。

    画像: 子どもの遊び心を刺激するとんがり屋根のツリーハウス

    馬場さんが子どもたちのために建てた小屋

    波が運んできた流木ハウス

    画像: 屋根はシダーシェイク。壁は板材をジグソーで不規則な形にカットしている

    屋根はシダーシェイク。壁は板材をジグソーで不規則な形にカットしている

    保育園のベランダの下に潜り込んでいるような小屋は、ここの理事長先生に「これを使って、つくってください」と渡されたたくさんの流木からアイデアを膨らませたもの。製材された木材では絶対に表現できない自然の造形が、見る人の想像力を膨らませる。海のどこかから流木が波に乗って小屋を運んできたようにも思えてしまう。屋根と下屋とデッキ以外にまっすぐな部分がないのも面白い。

    画像: 丸いベンチは丸太からチェーンソーで大まかな形にしたあと、ディスクグラインダーで磨いて仕上げた。入り口の上にはステンドグラスをはめ込んである

    丸いベンチは丸太からチェーンソーで大まかな形にしたあと、ディスクグラインダーで磨いて仕上げた。入り口の上にはステンドグラスをはめ込んである

    画像: 流木のあちらこちらにあるバードハウス。子どもたちの声が賑やかで鳥たちは入りにくそう

    流木のあちらこちらにあるバードハウス。子どもたちの声が賑やかで鳥たちは入りにくそう

    画像: マツの木のバードハウスは名作絵本『おおきなきがほしい』(偕成社)がモチーフになっている。保育園の2階のベランダから見える高さに置いてある

    マツの木のバードハウスは名作絵本『おおきなきがほしい』(偕成社)がモチーフになっている。保育園の2階のベランダから見える高さに置いてある

    そよ風に揺られて歌う小屋

    画像: 左側は物置。デッキの下にはカボチャの馬車の形をした小屋も

    左側は物置。デッキの下にはカボチャの馬車の形をした小屋も

    「保育園の理事長に“気持ちよく歌っているような小屋をつくって”と、何ともつかみにくいお題を出されて建てたのがこの小屋です」と照れ笑いする馬場さんだが、それが見事に形になっている。

    決して動くことがない小屋が、まるで体を揺らして歌っているように見えるから不思議だ。小屋は高さ2mほどの柱で支えられたウッドデッキの上に建てられており、デッキにはクライミングウォールで上ることもできる。

    画像: ベンチにはかわいらしい動物の絵が描かれている。窓や腰壁の板など、波打つような造形に加工している

    ベンチにはかわいらしい動物の絵が描かれている。窓や腰壁の板など、波打つような造形に加工している

    画像: 壁にはネズミさんの入り口と置き忘れたチーズ。ちょっとした遊び心が子どもたちを笑顔にする

    壁にはネズミさんの入り口と置き忘れたチーズ。ちょっとした遊び心が子どもたちを笑顔にする

    画像: 壁から飛び出した桁と頰杖のデザインも凝っている。板壁の端に細かく傷をつけているところにも注目

    壁から飛び出した桁と頰杖のデザインも凝っている。板壁の端に細かく傷をつけているところにも注目

    タマネギ頭のビッグツリー

    画像: 「わっ!」とか、「おーい」とか、そんな声が聞こえてきそうな顔のようにも見える。ログビルダーの豊かな感性と遊び心が素敵な作品をつくる

    「わっ!」とか、「おーい」とか、そんな声が聞こえてきそうな顔のようにも見える。ログビルダーの豊かな感性と遊び心が素敵な作品をつくる

    樹齢400年ほどになるスギの大木にシダーシェイクのタマネギ型屋根を載せた保育園の遊具。幹の太さが5mあまりあるスギの中をチェーンソーでコツコツくりぬいたそう。中は2階建てになっていて、デッキからアプローチできる。

    大人には狭い空間だが、子どもにとっては秘密基地。園長先生いわく「滑り台やブランコなど遊び方が決まった遊具ではなく、想像力を育んで好きなように遊んでほしい」とのこと。

    画像: ウッドデッキからつながる2階部分。タマネギ型屋根は、てっぺんから放射状に配した12本の垂木が下地になっている

    ウッドデッキからつながる2階部分。タマネギ型屋根は、てっぺんから放射状に配した12本の垂木が下地になっている

    画像: 馬場弘至さん。ログハウスはもちろん個 性的な小屋やツリーハウスの建築も行う

    馬場弘至さん。ログハウスはもちろん個
    性的な小屋やツリーハウスの建築も行う

    <写真/高橋郁子 取材・文/和田義弥>

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    小屋を楽しむ (扶桑社ムック)

    小屋を楽しむ(扶桑社ムック)

    画像: おとぎ話から飛び出したような森のツリーハウスを巡る

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    この本では、38軒の用途もデザインも構法も異なる小屋を紹介しています。そこに生えていた木を使ったり、廃材を利用したり、細部まできっちりつくり込んだり―。個性豊かな小屋と、それがもたらしてくれる豊かな暮らしを、ご覧ください。この本ではまた、実際の小屋の建て方、必要な道具、選べる構法、さまざまな仕上げ材の選び方、小屋を快適にする断熱の方法、気になる法律と税金、土地とインフラについてもわかりやすく解説しています。



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