• 仕事一筋に走り抜けてきたこれまでと、年を重ねたこれからの人生。自分らしく働きつづける「生活研究家・薬剤師」の阿部絢子さんに、これまでの働き方とこれからの働き方について伺いました。
    (『天然生活』2023年3月号掲載)

    これからの私の働き方

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

    「70代は体の変化がすごく大きい」と語る阿部さんに、これからの働き方や目標について聞きました。

    スーパー内の薬局の仕事に慣れたころ、方針が変更になり電子機器仕事が増えたため退職。今度は調剤に挑戦したいと、71歳で再び就職活動。お断りメールが続々と届きましたが、老舗の調剤薬局に採用され、週4日働いています。

    「同年代の人が多い、勤めやすい職場です。主な仕事は、処方箋を受け、薬の種類、量、日数、飲み方、患者さんの体質などをチェックして、薬を説明すること。わからないことばかりでしたが、体当たりでやりながら覚えました」

    生活研究家としても、家事についてまとめるという大きな作業に取り組んでいます。47歳から定期的に行ってきた海外ホームステイはコロナ禍でストップ中ですが、80代になったら半年くらいヨーロッパで暮らしたいという目標も。

    直感を信じてとにかくやってみることが大切。自分で選んだことならば後悔しないし、面白がって生きればいいと思っています」

    薬剤師として薬局に勤務

    画像: 64歳のときに就職活動をし、大手スーパー内の薬局で販売の仕事をしていたときの写真。「レジを覚えるのが大変でしたけれど、接客は楽しかったです」

    64歳のときに就職活動をし、大手スーパー内の薬局で販売の仕事をしていたときの写真。「レジを覚えるのが大変でしたけれど、接客は楽しかったです」

    調剤薬局での薬剤師の仕事は、続けられるところまで続けたいといいます。

    「薬を取るために脚立に乗るのだけれど、5年前、ここで働き始めたばかりのころはすっと乗れたのに、いまは『どっこらしょ』ってつい口から出てしまいます。70代になって、体の衰えは感じます。でも最近は整骨院にも通っているし、体をだましだまし、よく寝てしっかり休みながら、ずっと働きつづけたいですね」

    家事の歴史を本にまとめる

    画像: 平積みになっているのは、吉沢久子さんが残した資料。手書きの原稿など貴重なものだ。「執筆の参考になると思って。これから詳しく見ていきます」

    平積みになっているのは、吉沢久子さんが残した資料。手書きの原稿など貴重なものだ。「執筆の参考になると思って。これから詳しく見ていきます」

    これまでやってきた生活研究家の集大成として、家事についてまとめる仕事がしたい、と阿部さん。

    「ずっと背中を見つづけてきた吉沢先生は、晩年に台所史を書きたいとおっしゃっていました。それを引き継いで、台所だけじゃなく、家事全般について考えてみたいんです。ただし『家事史』ではなく、阿部版の『家事史考』。私にしか書けないことを書いていきたいと考えています」

    これまでと、これからの時間割

    ●これまでの時間割

    08:30起床
    11:00出社
    16:00退社
    17:00帰宅
    18:00夕食の支度、夕食
    20:00執筆
    01:00就寝

    ●現在の時間割

    08:30起床
    10:00執筆
    13:00朝昼兼用の食事
    14:00昼寝
    16:30薬局へ出勤
    23:30帰宅
    01:00就寝

    私の仕事の思い出アルバム

    会社員、生活研究家、消費生活アドバイザー、薬剤師と続けてきた仕事は、好奇心を満たしつづけてきた歴史です。

    27歳 メーカーで企画を担当

    画像: 企画室時代に作成したパンフレット。中はモノクロで文字がびっしり。掃除の仕方や、掃除にまつわる悩みへのアドバイスなどがていねいに記されている

    企画室時代に作成したパンフレット。中はモノクロで文字がびっしり。掃除の仕方や、掃除にまつわる悩みへのアドバイスなどがていねいに記されている

    薬剤師として入社した洗剤メーカーでは、研究室への配属でした。しかし向いていないと感じて退職を申し出ると、企画室へ転属に。

    「企画室長が素晴らしい人で、自由にいろいろやらせてくれました。年末に営業職の人と看板を持って、『お掃除のお悩みはありませんか』なんて街に出たことも、いい思い出です」

    このとき生活評論家の吉沢久子さんと出会ったことが、その後の人生を変えるきっかけに。

    32歳 生活研究家として本を執筆

    画像: 書斎には、地震対策のため壁に固定された書棚が。本がいっぱい入っているが、これから執筆する本の資料も入るよう、中身をずいぶん減らしたそう

    書斎には、地震対策のため壁に固定された書棚が。本がいっぱい入っているが、これから執筆する本の資料も入るよう、中身をずいぶん減らしたそう

    勤めていた洗剤メーカーがまさかの倒産。フリーランスの雑誌ライターに転職を決意し、仕事を始めました。

    「生活評論家を名乗るには、評論をしていない新参者だったので、生活研究家を目指しました」

    さまざまなメディアで活躍し、書籍の執筆も。一方で、37歳のときから吉沢久子さんの紹介で、デパートの消費者相談室に勤務、消費生活アドバイザーとしての仕事も始めました。

    47歳 欧州視察旅行

    画像: アライグマの毛でできた天井掃除用ブラシ。「デンマークのブラシメーカーを訪ねた際、『これは何に使うの?』といろいろ質問したら、くれたんです」

    アライグマの毛でできた天井掃除用ブラシ。「デンマークのブラシメーカーを訪ねた際、『これは何に使うの?』といろいろ質問したら、くれたんです」

    初めて海外旅行に行ったのは、洗剤メーカーの企画室にいた20代のとき。会社を代表して、懸賞旅行の当選者を連れてヨーロッパを回りました。

    「観光地も訪れましたが、現地の人が何を食べているのかとか、どう洗濯しているのかとか、そういう生活のことが一番の関心ごとでした」

    その後、32歳で初海外ひとり旅、47歳からは海外ホームステイを続け、環境問題について研究を続けています。

    77歳 薬剤師として勤務

    画像: 薬について勉強した本はたくさんあるが、ぱっと手に取る本はデスクのそばに。「新しいあの薬、なんだっけ?と、日々、脳に刺激を与えています」

    薬について勉強した本はたくさんあるが、ぱっと手に取る本はデスクのそばに。「新しいあの薬、なんだっけ?と、日々、脳に刺激を与えています」

    薬剤師として働き始めたのは、64歳のとき。収入の減少に備えるためでしたが、大手スーパー内の薬局で店員としてお客さまと関わるのは、相談ごとが好きな阿部さんにとっては、面白かったそう。

    しかし方針の変更に伴い、考え方の違いからスパッと退職。再び就職活動をし、現在は調剤薬局で働いています。

    「調剤を一から覚えるのは大変だったけれど、チャレンジするのは面白いですよ」



    <撮影/公文美和 取材・文/長谷川未緒>

    阿部絢子(あべ・あやこ)
    1945年新潟生まれ。大学卒業後、洗剤メーカーに勤務。独立後は家事をはじめとする生活研究の第一人者として活躍。一方で1982年から2013年まで百貨店の消費者相談室に勤務。2009年からは薬剤師としても働き始める。また海外でホームステイをし、環境問題の研究も。『ひとりサイズで気ままに暮らす』(大和書房)など著書多数。

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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