(『天然生活』2022年11月号掲載)
伝承される知恵をいまに生かし、楽しむ
オランダの大学で農薬や化学肥料がなかった時代の伝統農法を学び、薬草や食養生の知恵にも関心を抱くようになったという前田知里さん。卒業後もブータン、台湾、インド、中国の山村集落を訪ね、手仕事や保存食について古老に聞き書きして歩いたとか。
2年前に、宿泊もできる体験型教室「里山文庫」を奈良の茅葺き古民家でオープンしてからは、世界で学んだ民族の知恵をベースに、奈良産の生薬、柿などの特産品、庭にあるビワの葉など、身近な植物を暮らしに取り入れるように。
「念願だった自分の拠点を手に入れて、ようやく学びを実践できる場ができました。奈良は“漢方の里”といわれるほど漢方薬局が多く、国内有数の産地でもあるんです。婦人科系の不調に処方される、大和当帰(やまととうき)が有名。体を温めたいときに食べる『四物湯(しもつとう)』は台湾の屋台料理ですが、奈良産の大和当帰と芍薬に、川芎(せんきゅう)、地黄(じおう)も加えて約1時間コトコト煮込み、鶏肉やセロリ、しいたけなどの具を熱々のスープといただきます」

焙じたお香は、急須に移してほうじ茶に。「庭のかまどでマーラーカオなどのおやつを蒸しながら、戸外でお茶することも」
山の辺の道で、季節を感じる
自宅そばの「山の辺の道」で、植物採取。いにしえの日本人が平城京をめざして歩いたとされる伝説の古道で、万葉の時代から変わらない、風にゆれる木々や野草が路傍から語りかけてくる。

女性の健康維持に役立つ葛の花やセイタカアワダチソウ、染料になる栗のイガなど、庭にないものを中心に
「百人一首にも詠まれた天香具山をはじめとする、大和三山を望む眺望を楽しみながら歩いています。干し柿や味噌の保存に使われる『泥小屋』が点在するなど、人の営みが感じられるところも好きですね」
庭の植物で、お香を手づくり

ジャスミンティー、いちじくの葉、クロモジを茶香炉で焙じて、室内の空気を一新
季節や体調に合わせてさまざまな植物をブレンドし、茶香炉で焙じてお香に。
干菓子の型で押し固めて「印香」にすることもあるそう。庭のビワや柿の葉のほか、クチナシや椿の花なども材料に。

古来よりお香の材料として利用されてきたネムノキの葉のほか、モクレン、山椒、柿の葉なども材料に
自然のものだけでつくったお香は、お茶や料理にも活用。

キッチンの棚には生薬や保存食の瓶がずらりと並び、さながら標本室のよう
「お香を食べる、というと驚く方も多いのですが、たとえばスパイスとハーブでつくったお香は、カレーの風味付けにしたりもできるんですよ」
奈良産の生薬で、台湾の屋台料理を

具材には白ねぎや白菜、鶏団子なども。スープが残ったら、残りごはんで雑炊にも
奈良産の大和当帰と芍薬に、川芎、地黄。この4つの生薬を、1時間ほどじっくり煮込む四物湯は台湾の屋台料理。
教室で教えることも多く、冬になると週1回は食べる定番だそう。鶏もも肉、しいたけ、セロリなどの具とともに熱々の薬膳スープを摂ることで、ホルモンバランスを整える効果が期待できます。

八角、桂皮、なつめ、クコの実、クチナシなどの薬膳食材をさらに追加することも
「生薬が手に入りにくければ、4種類があらかじめパックされた手軽な市販品を使っても」
<撮影/いのうえまさお 取材・文/野崎 泉 構成/鈴木理恵>
前田知里(まえだ・ちさと)
外国人向け農村ツアーの主宰などを経て、2017年に京都から奈良へ移住。築100年以上の茅葺き古民家をDIYで再生し、宿泊もできる体験型教室「里山文庫」をオープン。中国や台湾などの農村地帯で少数民族の古老から学んだ、薬膳、保存食、草木染め、お香づくりなど、自然とともにすこやかに生きる知恵を発信している。https://www.satoyamaplan.com/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

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