• 薬膳や漢方を取り入れて日々の習慣は、無理がないから続きます。すこやかさを育む小さな工夫を里山文庫の前田知里さんに教わりました。前田さんが頼りにしている健康の基本とは?
    (『天然生活』2022年11月号掲載)

    すこやかに生きるヒントは身近に

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

    干し柿入りのホットワインは、「里山文庫」の隣家に住む主婦から教わったものだそう。

    「奈良は古くから柿の産地で、干し柿をつくるお宅が多く、この界隈でも百個くらい仕込むのが一般的。時を経て固くなった柿が煮込むことでとろりとやわらかくなり、ワインを飲み終えたあとの柿はデザートのように楽しめます」

    さらに、食だけでなく、季節や体調に合わせて生薬をブレンドして入浴剤をつくったり、「服薬」として肌に触れるものを自分で草木染めにしたりするなど、呼吸や皮膚からの吸収にも配慮しているそう。

    ふだん使うお香も、庭のモクレンやビワの葉を活用。これはかつて新潟や東北の山村で、庭のネムノキを材料に仏前に供えるお線香を自給していたことがヒントに。

    茶香炉で焙じて香りを聞いたあとは、ほうじ茶として味わうことで、自然の恵みをむだなく使い切ることができるのです。

    近代化により、書き残されることもなくいつしか消えていく、その土地に長く暮らす生活者の知恵にこそ価値がある、と考えているという前田さん。

    すこやかに生きるヒントは、案外身近な人や自然にあるのかもしれません。

    体調に合わせて入浴剤をブレンド

    画像: 入浴剤もふだん飲むお茶も、使う植物はほぼ変わらないそう。食べてもよいものを入浴剤にも使う

    入浴剤もふだん飲むお茶も、使う植物はほぼ変わらないそう。食べてもよいものを入浴剤にも使う

    その日に使いたい生薬をブレンドし、夕食をとる間に、1時間ほどハリオの漢方煎じ器でコトコト。

    「煎じることで呼吸からも吸収しますし、煎じ薬を入れた湯に浸かることで皮膚からも吸収されます。食べるものと同じくらい、皮膚からさまざまな成分が浸透する『経皮吸収』もあなどれないもの。冬は当帰やヨモギなど、寒さで滞った血のめぐりをよくするものを選ぶことが多いですね」

    ブレンドのポイント
    漢方には1種類だけを使う「単行(たんこう)」、似たもの同士を合わせる「相須(そうす)」、メインをサブが高める「相使(そうし)」、マイナスの効果を打ち消す「相殺(そうさい)」といった配合の考え方があります。香りや効能によって、メインの生薬を決めるとスムーズ。

    ビワの葉を焙じてチャイに

    画像: 焙じることで呼吸からも体内に吸収され、香りで気持ちもゆるんで穏やかに

    焙じることで呼吸からも体内に吸収され、香りで気持ちもゆるんで穏やかに

    古くから民間薬として親しまれてきたビワの葉を、乾燥させてフライパンでローストし、シナモン、クローブ、カルダモンなどのスパイスと一緒に、牛乳で煮出してチャイに。

    「スモーキーな風味がプラスされて、ほうじチャイのような味わいに仕上がります。ビワやイチジクなど果実の葉は、焙じると独特のフルーティーな香りが出るので、ゼリーやコンポート、お料理の香りづけに使うことも」

    聞き書きした知恵を生かして

    画像: 干し柿の甘味と、シナモンなどスパイスの香りがワインに溶け込む

    干し柿の甘味と、シナモンなどスパイスの香りがワインに溶け込む

    画像: 「ラー油漬け豆腐チーズ」は漬物感覚でお粥に添えたり、調味料にしたりと重宝

    「ラー油漬け豆腐チーズ」は漬物感覚でお粥に添えたり、調味料にしたりと重宝

    干し柿を入れて煮込むホットワインは、奈良に移住後、お隣の柿農家から教わったもの。

    奈良では干し柿をつくる家庭が多く、時間がたって固くなってしまった際に、おいしく食べる知恵なのだそう。

    「ラー油漬け豆腐チーズ」は中国・雲南省の少数民族、バイ族のおばあちゃんから教わった伝統的な発酵保存食。干した豆腐をラー油と豆麹、八角などで漬け込んだもので、クセになる濃厚な味わい。

    なつめパワーで気や血を補う

    画像: なつめとよもぎ白玉団子の配色が美しく、食べごたえも十分

    なつめとよもぎ白玉団子の配色が美しく、食べごたえも十分

    鉄分豊富で女性にうれしいなつめに、よもぎ白玉団子を挟み、金木犀シロップで蒸してデザートに。

    「金木犀は庭にあるので、毎年、秋になると花びらを漬け込んだ自家製のシロップをつくっています。国産のなつめは小さめなので、お団子を挟むときは、大きめの新疆(しんきょう)和田なつめを使うことが多いかな。たくさん蒸してペースト状にし、なつめあんとして、朝のトーストにのせるのも好きですね」

    画像: お皿ごとせいろに入れて蒸すことで、金木犀シロップが蒸発し、なつめ全体に風味がコーティングされる

    お皿ごとせいろに入れて蒸すことで、金木犀シロップが蒸発し、なつめ全体に風味がコーティングされる

    生薬で仕込む、発酵クラフトコーラ

    画像: ホットにして飲むときは、酵素を壊さないよう60℃までのお湯で割るとよい

    ホットにして飲むときは、酵素を壊さないよう60℃までのお湯で割るとよい

    レモンと奄美大島のきび砂糖に、カルダモン、ローズマリー、コリアンダーシード、月桃の実、カラギ(琉球シナモン)などを加え、発酵クラフトコーラに。

    「最近はコロナ対策の一助になるのではと期待されている、カラギを入れるのが気に入っています。ホワイトコーラとしてそのまま飲んでもおいしいですが、コーラらしい茶褐色にしたいときは、きび砂糖を煮詰めたカラメルを加えても」

    画像: 月桃の実で少し苦味を出す。奈良では伝統的な漢方薬「陀羅尼助(だらにすけ)」の原料であるキハダの実を使う人が多い

    月桃の実で少し苦味を出す。奈良では伝統的な漢方薬「陀羅尼助(だらにすけ)」の原料であるキハダの実を使う人が多い

    頼りにしている健康の基本

    身に着けるものは草木染めで

    画像: 身に着けるものは草木染めで

    衣類は「服薬」の考え方に基づき、紅花やキハダで草木染め。

    ストールは奈良特産の蚊帳生地で、奈良晒の織元「岡井麻布商店」のものを使っている。

    折にふれて開く薬膳の専門書

    画像: 折にふれて開く薬膳の専門書

    右の『台湾漬 二十四節気の保存食』は台湾で見つけて購入。

    左の『漢方薬の料理』は半世紀以上前に初版が上梓された中国人研究者による古典的名著。

    自家製の柿渋を、客室の襖に

    画像: 自家製の柿渋を、客室の襖に

    和紙職人の友人が漉いた和紙に、抗菌・消臭効果の高い柿渋を塗って心地よい空間づくり。

    柿渋は、シャツやマスク用のコットンを染めるのにも活用。



    <撮影/いのうえまさお 取材・文/野崎 泉 構成/鈴木理恵>

    前田知里(まえだ・ちさと)
     外国人向け農村ツアーの主宰などを経て、2017年に京都から奈良へ移住。築100年以上の茅葺き古民家をDIYで再生し、宿泊もできる体験型教室「里山文庫」をオープン。中国や台湾などの農村地帯で少数民族の古老から学んだ、薬膳、保存食、草木染め、お香づくりなど、自然とともにすこやかに生きる知恵を発信している。https://www.satoyamaplan.com/

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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