コロナ禍で、自分に対する誠実さをより大事にするように
——雑誌『リンネル』で連載を書かれたのは、2020年9月号から2024年2月号までなんですね。菊池さんにとってはどういう時期でしたか?
菊池さん:ちょうど下の子が生まれるタイミングでコロナ禍に突入しました。その後、飼っていた犬が亡くなったこともあり、心が不安で押しつぶされそうななか、いろいろな命と向き合っていましたね。そういう忘れられない時期に、連載を書かせていただいたなと思います。
また、社会の流れや時代に対して、自分軸を無くさないでいたいとつねに思っているのですが、この時期はその思いがいっそう強まった気がします。
コロナ禍を経て、価値観がこの数年で目まぐるしく変わりましたよね。それを全部、敏感にキャッチしていかなきゃいけない、とは思っていなくて。世の中や世間がどうかというよりも、自分に対して正直にいたい、自分の中の自分に対する誠実さを大事にしたいというか。それを文章にしてきたと思いますね。
ダメな自分を見せることで、みんなの自己肯定感が上がれば
——エッセイの中で、部屋が汚いとか、自分は母親に向いてないと思うとか、1日のタスクを書き出したのに1つもこなせてないとか、菊池さんのダメな部分を包み隠さず描かれていて、読んでいて元気づけられました。
菊池さん:うれしいです。私のマネージャーも、「私もできなくていいんだ。むしろ私の方ができているところもあって、安心する」と言っていました(笑)。私のそんな話で誰かの肩の荷が下りるなら、どんどん話していきたいと思っています。
——できない自分をさらけ出しているのは、先ほどいっていた、自分に対して誠実でありたいという思いからですか?
菊池さん:それもありますが、ダメな自分も肯定したかったのかもしれません。私は整理整頓ができない、ていねいに暮らせないのが不得意、コンプレックスなんです。そんな自分が嫌で自己嫌悪に陥ったりすることもあるけれど、それと同じぐらい、ていねいに暮らすのが不得意な自分も好きなんです。整理整頓が苦手な私もかわいいよね、てへっ、みたいな。B型特有な気もしますが(笑)。
じつは、子どものころからそんな感じなんです。ただ、いまよりも子どものころの方が、ダメな自分を含めて全肯定していて、自分らしく生きていたと思います。大人になってからは、あまりにもできない自分は人としてどうなのか、相手に引かれたらどうしよう、がっかりされたらどうしよう、と考えるようになっていって。自分をよく見せたい欲がどんどん芽生え、そのせいで自己肯定感が下がっていくのを感じていました。
だから、このエッセイでは、格好つけずにそのままの自分を描くことで、子どものころのように、自分の全部を丸ごと愛してあげたかったのかなと思います。
私、まる子みたいな感じなんですよ。
——ちびまる子ちゃんのまる子ですか?
菊池さん:そうです! まる子のおっちょこちょいな部分や、すぐ叱られるところ、だらしない性格、お調子かげんがそっくりで、共感しかない。
ちびまる子ちゃんがあれだけ長く放送されて、愛されているってことは、みんなの中にもきっと、まる子の部分があるからだと思うんです。そこを肯定したいんですよね。
世代を超えて、悩める者同士支え合いたい
——とくに反響があったエッセイはありますか?
菊池さん:「リュックサック」は、すごく私らしいと言われましたね。
子どもが自分で選んだ、ネイビーとショッキングピンクのリュックサックをどうしても受け入れられない話です。夫や友人に話すと、「そんな大袈裟(おおげさ)な話?」と言われるけれど、私にとっては、自分好みでないものを受け入れることは、修行に値するほど大変で。子どもに対してまで自分の好みを譲れないそのサマが、こだわりが強いあっこちゃんぽいね、と言われます。
——「リュックサック」の途中に出てくる、「子どもの〝好き〞を100%受け入れられるおおらかな母になれたらどれだけ楽か」という言葉にもグッときました。最後に、読者へ向けてメッセージをお願いいたします。
菊池さん:読者さんの中には、子育てが終わっている方や、人生のステージが違う方もいると思います。そもそもステージなんてなくて、地続きなのかな?という話しもエッセイの中でしていますが、とにかく年齢、性別、世代を超えて、いろんな人に手に取ってもらえたらうれしいです。
先程の「リュックサック」の話は、子どもとの間の話ですが、みなさんもきっと、夫とインテリアの好みが違ったり、仕事をするうえでのこだわりが周りと違ったりすることがあると思うんです。そんな時に私のエッセイを思い出し、それぞれ譲れないものがあるなかで、どうまわりと共存するのか、考えるきっかけになったらいいなと思います。私もいまだに葛藤する日々ですが(笑)。
いま、ようやく私のお母さん世代の人とも、友達みたいに話せるようになってきたと感じていて。私のお母さんも、その世代の人も、その上の人も、私と同じようにぐるぐる悩んでいるんだと気がついたんです。
——お母さんは、お母さんで悩んでいると。
菊池さん:そうです。お母さんもお母さんなりに、家族や職場、近所の人間関係などであれこれ悩んでいる。きっと昔も、ぐるぐる悩んでいたんだろうけど、私が子どものときには気づけなかった。私が大人になって、やっと見えてきたんですよね。
この本を通して、年齢に関係なく、かつて少女だった者同士、悩みを持つ者同士、「わかる、わかる。そういうこと、あるよね」「私はこうだったよ」と、肩を組むような関係になれたらいいなと思います。
〈撮影/千葉亜津子 ヘア/山下亜由美〉
菊池亜希子(きくち・あきこ)
1982年生まれ。岐阜県出身。モデル・俳優・エッセイストとして多方面で活躍中。二児の母。著書に『みちくさ』(小学館)、『またたび』(宝島社)、『好きよ、喫茶店』(マガジンハウス)などがある。毎週土曜日、インターエフエムのラジオ番組『スープのじかん。』のパーソナリティーを務める。インスタグラム@kikuchi akiko_official
◇ ◇ ◇
日常を菊池亜希子流の視点でとらえた『リンネル』の連載が一冊にまとまって話題になった単行本『へそまがり』の第2弾が登場です。子育ての苦悩を綴った「おそろい」、夫との小競り合いエピソード「鍵」、オタクとしての想いが溢れる「roundabout」など、家族、暮らし、思い出、推しにまつわるエピソード42篇を収録。
巻頭では菊池さんの等身大の姿をとらえたグラビアを掲載。『リンネル』愛読者、菊池亜希子ファン垂涎の一冊です。