(『百実帖』より)
変身する前に
草弁当というのを、いただいたことがある。
蒲公英(タンポポ)の葉のサラダ、露草の新芽の白和え。
身近な草が、身近なお惣菜に変身して、折詰のなかに寄り合っている。
おかずのひとつが、烏野豌豆のさや炒め。以来、自分でもごくたまにつくる。ごま和えか、カレー粉炒めにする。
烏野豌豆の小さな豆が穫れるのは、春の終わりが近づく頃。ちょうど薺(ナズナ)と入れ替わりに旬がやってくる。せっせと手を動かしても、ほんのちょっとにしかならないけれど、草を料理する、というところにわくわくする。
もちろん、生ける。実のなり始めは、茎も長すぎないので、やわらかな草だけが、うまく自立してくれる。
食べるのも生けるのも、旬の前半がいい。葉のつけ根から蜜を分泌するからか、アリが寄ってくる。すると、共生するアブラムシもつく。実りのピークを越えると、虫も増える気がするのだ。熟した実は黒くなり、それが名前の由来という。
カラスに変身する前に、たのしみたい。
烏野豌豆〈カラスノエンドウ〉
春~初夏|マメ科 越年草
別名:矢筈豌豆(ヤハズエンドウ) 野豌豆(ノエンドウ)
アルミのカップに烏野豌豆〈カラスノエンドウ〉を生ける
上を向いて実る細いさや
先端の巻きひげ。
小さな体に躍動感を感じる。
花材
烏野豌豆(カラスノエンドウ)/ 狐薊(キツネアザミ)/紫華鬘(ムラサキケマン)
花器
アルミのカップ
※ 本記事は『百実帖』(エクスナレッジ)からの抜粋です
〈スタイリング・文/雨宮ゆか 撮影/雨宮英也〉
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雨宮ゆか(あめみや・ゆか)
花の教室「日々花」主宰。神奈川県生まれ。季節の草花を生活に取り込む「花の楽しみ方教室」を東京・大田区のアトリエを拠点として全国に発信。工芸作家とコラボした花器の提案をおこない、各地のギャラリーで企画展を催す。花にまつわる執筆やスタイリングなどを手がけ、メディア掲載も多数。 著書に『花ごよみ365日』(誠文堂新光社)、『百花帖』『百葉帖』(ともにエクスナレッジ)がある。
雨宮英也(あめみや・ひでや)
写真家。東京都生まれ。梅田正明氏に師事の後独立。食器、家具、住宅など生活にかかわるプロダクトを主に撮影。人の暮らしが伝わる建築写真に定評がある。 近刊に『小さな平屋。』『自然と暮らす家』(ともにエクスナレッジ)など。